ヒアルロン酸注入治療安全マニュアル
必須の知識と事故対策

ヒアルロン酸注入治療安全マニュアル

監修 大慈弥 裕之
ISBN 978-4-7719-0510-8
発行年 2018年
判型 B5
ページ数 116ページ
本体価格 8,000円(税抜き)
電子版 なし

M2Plus<電子版>

2024年4月、改訂第2版出来予定!

●ヒアルロン酸安全対策【クイックマニュアル】
●ヒアルロン酸注入事故時【緊急連絡先】

■AR機能の使い方
■序 文(大慈弥裕之)
■刊行に寄せて(塩谷信幸、古山登隆)

I 注入前のポイント!(波多江顕子,入江陽香)
II 注入時のポイント!
1.必須!の解剖知識―顔面の層解剖・主な血管とDanger zone・推奨注入層―(牧野太郎)
2.注入の実際・手順(西田美穂)
III 注入後のポイント!
1.注入後の観察と患者への注意(波多江顕子,入江陽香)
2.必須!のヒアルロニダーゼの知識(野本俊一)
3.合併症とその対策
①軽~中等度合併症(波多江顕子,入江陽香,衞藤明子)
②重度合併症(西田美穂,衞藤明子)
4.ISAPSによる勧告―注入物による事故対処方法―(西田美穂)
IV 失明事故への対策
1.失明事故(眼障害)概論(西田美穂)
2.失明事故対応の実際
①初期対応(西田美穂)
②眼科医との連携(西田美穂)
③事故発生時に用いるヒアルロニダーゼ(Hylenex(R))の使用手順(西田美穂)
④球後注射の手順(牧野太郎)
動画提供・技術指導:(松井孝明,上野暁史)
撮影協力・技術指導:(羽出山万祐美,橋野京子)
3.眼科の視点・アドバイスQ&A(内尾英一,尾崎弘明)
4.弁護士の視点・アドバイスQ&A―法的責任の有無は?―(白川敬裕)
V ヒアルロン酸注入治療における医療安全上の課題(牧野太郎)

この度,顔面のヒアルロン酸注入療法に特化した,医療安全管理マニュアルを作成しました。美容医療は患者さんの人生を豊かにすることができる医療です。しかし,緊急性のない医療のため,通常の医療以上にリスクに対する備えと説明が求められます。
ヒアルロン酸注入療法は,美容医療の中でも非手術治療あるいは低侵襲医療に含まれ,ほうれい線や下眼瞼,中顔面の若返り治療だけでなく,隆鼻術やオトガイ形成などにも広く応用されています。一般の方は「低侵襲治療は低リスク」と思うようですが,必ずしもそうとは限りません。ヒアルロン酸注入療法でも,一定の割合で失明事故や皮膚壊死などの重篤な有害事象が発生しています。低侵襲治療においても,医療安全の観点から,不測の事態への備えが必要です。本マニュアルは,患者さんと医療者を不幸な事故から守るために作成しました。
本マニュアルでは,ヒアルロン酸注入における注入前・注入時・注入後のポイントについて,最新情報をもとに具体的に記載することにしました。また,注入後については,軽~中等度合併症,皮膚壊死などの重度合併症および失明事故について,分類して詳しく解説しています。合併症のメカニズムや対処法については,執筆者が現時点で最も信頼性の高いと判断したものを示しています。しかし,まだ十分な科学的根拠が示されていないものも多く,今後修正が必要になるものもあると考えています。
読者対象は形成外科専門医レベルを想定しています。専門医であれば,眼窩内を含めた顔面全域の解剖にも精通し,いざという時の眼窩内ヒアルロニダーゼ投与にも対応できると考えています。一方,注入療法による有害事象のリスクは誰でも同じですので,形成外科に限らず,ヒアルロン酸注入治療を行っている他科の先生にも読んでいただきたいと思っています。
今回,眼科の先生のご協力をいただき,眼科の視点でのアドバイスや眼窩内注射の動画を載せることができました。失明事故時の対応については,弁護士から法的視点でのアドバイスもいただいています。
本マニュアルを参考に読者の施設において体制整備を行う場合,眼科との連携は必須になります。ヒアルロン酸注入療法の合併症に対して眼科医の理解と協力を得ることは簡単ではないと思いますが,普段から勉強会や研究会を通して互いの信頼関係を築いておくことが重要だと思います。
本マニュアルを作成するにあたり,多くの方々にご協力いただきました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。

大慈弥裕之
福岡大学副学長・形成外科教授

評者:青木 律(公益社団法人日本美容医療協会 理事長)

患者と医師の幸福を最大限(不幸を最小限)とするために

厚生労働省が2社のヒアルロン酸注入製剤を承認したことで,わが国での注入療法もようやく一般化し,多くの施設で行われるようになった。ヒアルロン酸注入は一般的には安全な治療と考えられているが,症例の増加とともに皮膚壊死や失明など重篤な合併症例も散見されるようになってきた。
本書は2つの意味で画期的である。
まず,本書は100頁程度の書籍であるが,スマートフォンの無料アプリである「COCOAR 2」を使用することによって,本書内の動画に対応した写真をスキャンすると自動的に動画を見ることができる。ヒアルロン酸が眼動脈塞栓を起こした場合にはヒアルロニダーゼを球後に打つことが推奨されているが,実際われわれ形成外科医には球後麻酔を行える技術がない。本書では動画で実際の球後麻酔の様子を見ることができる。もちろん動画だけではなく,解剖や刺入点などは見やすく図解されている。また,使用するヒアルロニダーゼについても商品名や溶解の方法が記載されている。ヒアルロニダーゼは現在,まだ厚生労働省未承認のため,企業が主催する講習会などでは具体的に案内されることがないので,このような配慮は大変ありがたい。
また2番目の特徴として,形成外科医だけではなく眼科医,弁護士と複数の専門家が執筆を分担していることである。その結果,内容がヒアルロン酸注入に必要な解剖学的知識,安全なヒアルロン酸注入法,ヒアルロニダーゼの基礎知識,合併症対策に留まらず,弁護士からの視点によるアドバイスなど非常に多角的である。
従来の日本的考え方では,安全対策とは事故を起こさないために十分な注意を払うことであり,実際に事故が起こってしまった場合の対応についてはあまり深く検討されてこなかった。これは原子力発電所の事故における対応と同じである。しかし,医療において絶対に安全ということはないのであり,本来の安全対策とは,事故を起こさないような未然の対策はもちろん重要であるが,万が一事故を起こしてしまった場合にその被害を最小限にし,患者と医師の幸福を最大限(不幸を最小限)にすることである。本書は従来の日本の教科書にはない,まったく新しいコンセプトで書かれていることは称賛に値する。
本書は,ヒアルロン酸注入を行う医師ならばすべてが読むべき必読書であると考える。