もう迷わない 血管腫・血管奇形
分類・診断と治療・手技のコツ
血管腫・血管奇形の診断・分類に間違いはありませんか?
典型的な病変についての診断力を身につける術,そして臨床医にとって有用な手技やコツを指南します!
1章 とにかく分類してみよう!
血管腫・血管奇形病変の分類と診断 尾﨑 峰 / 2
2章 治療法総論
I.手術療法―昔ながらの標準的治療法― 尾﨑 峰 / 24
A. 「血管腫切除術」における一般的注意点 B. 血管腫切除術における手技
II.血管内治療―血管奇形の治療には必須の知識です―
1.硬化療法 八巻 隆 / 33
A. 硬化剤各論 B. 画像ガイド下硬化療法 まとめ
2.塞栓術 三村 秀文 / 48
A. 適応 B. 術前評価 C. 塞栓物質 D. 塞栓物質と手技
E. 動脈造影像によるAVM分類と治療戦略 F. 術後管理 G. 治療成績
H. 合併症 おわりに
III.薬物療法―これが効けば誰もがハッピー―
1.βブロッカー,ステロイド,シロリムス 小関 道夫 / 58
A. βブロッカー(プロプラノロール) B. ステロイド C. シロリムス
2.漢方薬 小川 恵子 / 65
A. リンパ管奇形 B. 静脈奇形 C. LM・VM合併例 まとめ
IV.レーザー治療―機器の進歩に期待― 河野 太郎 / 72
A. ヘモグロビン B. 血管病変に対するレーザー治療の歴史
C. 血管病変に対するレーザー治療のパラメーター
D. その他の血管病変に対するレーザー治療 まとめ
V.保存療法(圧迫・装具など)―結構,効きます!― 杠 俊介 / 79
A. 乳児血管腫に対する圧迫療法 B. 血管奇形に対する圧迫療法 C. 圧迫療法の実際
3章 治療法各論―疾患別の治療法―
I.血管腫
1.乳児血管腫 長尾 宗朝 / 84
A. 総論 B. 治療方針 C. レーザー治療(pulsed dye laser:PDL)
D. βブロッカー内服 E. 手術治療 F. その他の症候群 おわりに
2.先天性血管腫 中岡 啓喜 / 98
A. 総論 B. 治療方針 C. 手術治療 D. その他の治療
3.房状血管腫・カポジ肉腫様血管内皮細胞腫 加藤 基ほか /103
A. 総論 B. カサバッハ現象 C. 治療方針 D. 各種治療
II.血管奇形
1.毛細血管奇形 大城 貴史ほか /107
A. 総論 B. 治療方針 C. レーザー治療 D. 手術療法
2.筋肉内静脈奇形 加地 展之 /116
A. 総論 B. 治療方針 C. 硬化療法 D. 手術治療
3.表在性(皮膚・皮下組織)静脈奇形 髙木 信介 /124
A. 総論 B. 治療方針 C. 硬化療法 D. 手術治療
4.顔面部静脈奇形 古川 洋志ほか /133
A. 総論 B. 治療方針 C. 硬化療法 D. 手術治療 おわりに
5.手指部静脈奇形 大島 直也ほか /138
A. 総論 B. 治療方針 C. 硬化療法 D. 手術治療
6.咽頭部静脈奇形 岩科 裕己 /143
A. 総論 B. 治療方針 C. 硬化療法 D. その他の治療
7.巨大・多発静脈奇形 岩科 裕己 /149
A. 総論 B. 凝固異常 C. 治療方針 D. 硬化療法 E. その他の治療
8.嚢胞状(macrocystic)リンパ管奇形 藤野 明浩 /155
A. 総論 B. 治療方針 C. 硬化療法 D. 手術治療 おわりに
9.海綿状(microcystic)リンパ管奇形 藤木 政英 /164
A. 総論 B. 治療方針 C. 硬化療法 D. 手術治療
10.顔面部動静脈奇形 野村 正 /170
A. 総論 B. 治療方針 C. 手術療法 D. 代表症例 E. その他の治療法
11.手指部動静脈奇形 成島 三長 /181
A. 総論 B. 治療方針 C. 手術治療 D. その他の治療 おわりに
12.四肢・体幹部動静脈奇形 岩科 裕己 /188
A. 総論 B. 治療方針 C. 手術治療 D. その他の治療
13.骨組織に浸潤した動静脈奇形 佐藤 慎祐ほか /195
A. 総論 B. 治療方針 C. 血管内治療 D. 手術治療
14.動静脈奇形に対する血管内治療 大須賀慶悟ほか /206
A. 総論 B. 治療方針 C. 症例
15.クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群 佐々木 了 /214
A. 総論 B. 治療方針 C. 症状別治療法
16.その他の血管奇形
1)Sturge-Weber syndrome 菅野 秀宣 /224
A. 概念 B. 症状 C. 検査 D. 治療 E. 予後
2)Maffucci syndrome 湊川 真理ほか /229
A. 概念 B. 症状 C. 医療的管理および治療
3)Blue rubber bleb nevus syndrome(青色ゴムまり様母斑症候群) 尾﨑 峰 /233
A. 総論 B. 症状・診断 C. 治療 D. 症例
4)Sinus pericranii(頭蓋骨膜洞) 秋田 定伯 /238
A. 概念 B. 検査法 C. 治療法
5)Generalized lymphatic anomaly(GLA) 小関 道夫 /242
A. 臨床症状,検査所見 B. 治療 今後の展望
6)Fibro-adipose vascular anomaly(FAVA)大内 邦枝ほか /247
A. 概念 B. 臨床的特徴 C. 画像所見 D. 病理所見 E. 治療法
F. 症例供覧 G. PIK3CAおよび関連疾患 おわりに
事項索引 /252
編者紹介 /255
はじめに
「血管腫」という病変を初めて目にしたのは,医者2年目,形成外科医1年目の時でした。今思えば,単なる苺状血管腫(乳児血管腫)でしたが,赤々とした病変で「いかにも血管腫」という印象だったのを覚えています。そして,当時,静岡県立総合病院形成外科部長をされていた田中博先生(形成外科の基本を教えていただいた師匠です)から「血管腫ってどのように分類されているか知ってる?」と言われ,返答にまごついたことを今でもはっきり覚えています。その後,東大病院に異動し,血管腫治療を専門的にされていた加地展之先生(本書の執筆もお願いした血管腫治療における私の師匠です)に出会いましたが,当時は疾患云々関係なく「手術をすること」に気持ちがとらわれており,硬化療法などの非手術治療がある血管腫治療にはあまり気持ちを向けることはできませんでした。恐らく,形成外科のみならず,小児外科や血管外科などの外科系を選択した若手の先生方も同じような考えでいると思っています。ですので,現在も若手の先生に血管腫治療にかかわることを無理に勧めることはしませんし,むしろ外科医であるのであれば1つでも多くの手術に入って術野に身をうずめるよう促すようにしています。
自分に転機が訪れたのは,2003年に杏林大学に移ってからのことです。血管腫外来を新たに設けることになり,先の加地先生とともに当科にて血管腫治療を開始することになりました。その後は,次第に血管腫・血管奇形の治療数が増え,今では「血管腫」という用語を耳にしない日はないくらい多くの患者さんの治療に携わるようになりました。
「血管腫」という病変は,臨床医であれば誰でも遭遇することのある疾患の1つと思われます。しかし,「血管腫」という大枠の中には多数の疾患概念が存在するため,その理解に苦慮することが多いのが現状です。自分も若手のころは長い間,「血管腫」という存在は得体の知れない「もやもや」としたものでした。しかし,少し学ぶことで,案外容易に全体像を把握することはできます。もちろん,分類困難な疾患も存在し,これまで多くの病変を見てきた自分でさえわからなくなる時が今でもあります。
近年医療界では,脈管異常の分類法としてInternational Society for the Study of Vascular Anomalies(ISSVA)によるISSVA分類が定着し,脈管異常病変が詳細に分類されるようになりました。しかし,このような分類法が確立されたとしても,臨床医おのおのの理解にばらつきがあっては,共通した診断と治療方針を得ることができません。それを補う形でガイドラインが存在しますが,ガイドラインはclinical question(CQ)に対して報告された論文から治療指針として一般論を導き出すという構成になっているため,無難な回答が多くなる傾向があります。そのため,実地的な指南書の役割を十分に果たすことはできていません。
本書では,血管腫・血管奇形に対して第一線で治療にあたっていらっしゃる先生方に執筆を依頼しました。血管腫・血管奇形に関する論文では,しばしば治療は「challenging」と記載されています。つまり,定型的な治療法は存在せず,いつでも治療者の工夫と努力が求められる疾患です。そして,難病とされる病変が多いのも特徴的といえます。そのため,第一線の先生方の,忌憚のない,無難ではない意見と方法が本書には多数盛り込まれています。その意味で,実地的な実用書としての価値は相当高いものであると自負しています。
また本書の編集にあたっては,読者が血管腫・血管奇形の診断について,ある一定の共通した診断力を身に着けてもらうことを目的の1つと考えました。第1章では,典型的な病変について簡単に解説を加え,具体的な分類手順をstep by stepで示しました。あくまで典型的な病変に限られていますが,短時間のうちに簡単な分類手順を身に着けられると思います。そして,治療法総論と各論では,臨床医にとって有用な手技や診断のコツが多数記載されています。この総論・各論を参考にして,読者が遭遇した症例ごとに具体的な診断方法と治療方針を見出していただけたら,編者としてこの上ない喜びです。
血管腫・血管奇形の治療は,決して容易ではありません。そして,真剣に対峙すればするほど,辛い時期を患者さんとともに過ごさなくてはなりません。しかし,辛い時期があるからこそ,医療として発展させなくてはならないという気概や使命感が生じます。そして,その思いがいつかは患者さんの喜ぶ笑顔につながると信じています。
最後に,本書の作成において最後まで懇切丁寧に辛抱強くお導きいただいた克誠堂出版の堀江拓氏をはじめ,これまで数多くの機会を与え続けていただいた当科の波利井清紀特任教授,多くの長時間手術や濃厚な病棟業務を共に過ごしてくれた当科医局員の先生方に多大なる感謝の意を述べさせていただきます。
2020年5月12日
尾﨑 峰
[杏林大学形成外科・美容外科]