麻酔科医とコンサルテーション
他科からの相談依頼に対する適正な対応と実際

麻酔科医とコンサルテーション

編集 札幌医科大学 教授 並木 昭義・札幌医科大学 助教授 表 圭一
ISBN 4-7719-0247-X
発行年 2002年
判型 B5
ページ数 240ページ
本体価格 6,600円(税抜き)
電子版 なし


第1章 総 論 1
1)コンサルテーションの流れ…表  圭一/2 コンサルテーションを円滑に行うポイント/2
2)各科における手術前評価のポイントと    麻酔科へのコンサルテーションの基準…山蔭 道明/4
I 病歴の把握 4
1 服用中の薬物/4
2 身体所見/5
3 術前検査/6

II 術前状態の評価 7

第2章 術前コンサルテーション 9
1)心・血管系疾患…金谷 憲明/10 はじめに/10
I 術前コンサルテーションの目的 10

II 術前における心臓評価の段階的アプローチ 11
1 患者の活動能力/11
2 患者の現在の心機能,状態の評価/11
3 臨床的予測因子/13
4 手術のリスク/14

III 各種補助検査法の有効性 15
1 運動負荷ECG検査(感度68%,特異度77%)/16
2 負荷シンチグラフィ(感度90%,特異度70%)/16
3 ドブタミン負荷心エコー法(感度85%,特異度86%)/17
4 ホルター心電図/17
5 どの検査法を選択するか?/17

IV 疾患別アプローチ 17
1 冠動脈疾患/17
2 高血圧/18
3 うっ血性心不全/19
4 心筋症/19
5 弁膜症/19
6 不整脈・伝導障害/19
7 静脈血栓塞栓症/末梢動脈疾患/20

V 術前患者管理 20
1 冠動脈バイパス術/20
2 冠動脈形成術/20
3 ペースメーカ/21
症例呈示 21

2)呼吸器系疾患…山蔭 道明/23 はじめに 23
I 呼吸器合併症の定義 23

II 呼吸器合併症の要因 23

III 呼吸機能検査 24
1 スパイログラフィ/24
2 動脈血ガス分析/26
3 機能的残気量と残気量/26
4 flow-volume曲線/27

IV 術後呼吸器合併症のリスクの評価 27
1 評価法/27
2 麻酔科コンサルトの基準/28

V 術前処置 29
1 喘息患者/29
2 喫煙患者/29
3 肺理学療法/29

VI 肺理学療法 30
1 排痰法/30
2 呼吸訓練/30
3 吸入療法/30
4 器具を用いた肺理学療法/31

VII 麻酔法・手術法の選択 31
1 気道過敏性の亢進している患者(喘息患者)/32
2 術後鎮痛(硬膜外麻酔)/32
3 鏡視下手術/32
症例呈示 32

3)神経系疾患…川真田樹人/34
はじめに 34

I 脳血管障害 34
虚血性病変/34
2 高血圧性脳内出血/35
3 脳動静脈奇形/35
4 もやもや病/35
5 脳動脈瘤/35

II 変性疾患 36

III ニューロパチー 36

IV 植物状態,痴呆患者 37
症例呈示 37

4)肝・腎疾患…藤村 直幸/41
A.肝疾患 41

はじめに 41

I 術前評価 41
1 肝機能,肝予備力の評価/41

II 併存する合併症の評価 43
1 肝腎症候群/43
2 肝不全,肝性昏睡/43

B.腎疾患 44

はじめに 44

I 術前評価 45
1 腎機能検査/45
2 血液生化学検査/45

II 慢性腎不全の増悪因子 46

III わが国の透析患者の現況 46

IV 病性腎症透析患者の心血管合併症 47

V 透析患者の術前管理の要点 47
1 全身状態の把握/47
2 シャントの確認/47
3 水分,電解質管理/47
症例呈示 47

5)血液疾患(貧血,凝固・線溶異常) …山蔭 道明,紅露 伸司/49
はじめに 49

I 血液検査 49

II 貧血 49

III 凝固・線溶異常 50
1 検査データの解釈/50
2 周術期血液凝固モニター/51
3 血栓性・出血性合併症のリスクをもった患者の術前管理/52

IV 血小板減少症 53
1 特殊疾患/54
2 周術期血小板補充療法/55
3 血小板輸血副作用/55

V 同種血輸血の拒否 55
1 自己血輸血での対応/55
2 対応/56 症例呈示 56

6)筋疾患…成松 英智/58
はじめに 58

I 術前コンサルテーションのポイント 58

II 病態別解説 59
1 重症筋無力症/59
2 筋ジストロフィ/59
3 筋緊張性ジストロフィ/61
4 悪性高熱症/61
症例呈示 63

7)内分泌・代謝疾患…藤村 直幸/65
I 糖尿病 65
1 糖尿病の診断基準/65
2 糖尿病の分類/65
3 術前評価/66

II 甲状腺機能亢進症 67
1 分類/67
2 術前評価/68
3 術前管理のポイント/68

III 甲状腺機能低下症 68
1 分類/68
2 甲状腺機能の評価/68
3 術前管理のポイント/69

IV 褐色細胞腫 69
1 術前管理のポイント/70
症例呈示 70

8)小児(感染症,先天性疾患,予防接種など)…川名  信/73
はじめに 73

I 感染症 73
1 かぜ症候群/73
2 水痘,麻疹,風疹,流行性耳下腺炎/74
3 予防接種(ワクチン)/74

II 循環器系疾患(先天性心疾患) 76
1 低酸素の程度/76
2 肺病変/76
3 心不全/76
4 不整脈/77
5 その他/77

III 神経疾患(てんかん) 77

IV 先天性異常(ダウン症) 78

V その他(食思不振症) 78
症例呈示 79

9)緊急症例…成松 英智/82
はじめに 82

I 術前コンサルテーションのポイント 82
1 情報収集/82
2 術前管理/82
3 執刀開始までの時間短縮/83

II 病態別解説 83
1 脳圧亢進状態における非脳外科的緊急手術/83
2 大量出血時の救命止血手術/85
症例呈示 89

10)その他(挿管困難症,輸血拒否者,アレルギー,特別な症候群の合併,特別な術式など)…川股 知之/91
I 挿管困難症 91
1 解剖学的因子から挿管困難度の評価/91
2 頸椎病変を有する患者の評価/92
3 睡眠時無呼吸症候群/92

II 輸血拒否者 92
1 基本的概念/92
2 「エホバの証人」の輸血治療に対する医療側の態度/93
3 病院としての対応/93

III 多剤薬物アレルギーが疑われる症例 93
1 問診/94
2 薬物アレルギーの検査法/94
3 ハイリスクグループ/96

IV 特別な症候群の合併 96

V 特別な術式 96
1 電気痙攣療法/96
症例呈示 98

第3章 術後コンサルテーション 103
1)覚醒遅延,精神障害,術中覚醒…関  純彦/104
はじめに 104

I 覚醒遅延 104
1 覚醒遅延とは/104
2 原因/104
3 診断と対処/105

II 精神障害 105
1 精神障害の定義/105
2 手術直後の興奮状態・せん妄/106
3 いわゆる「術後せん妄」/107

III 術中覚醒 107
1 覚醒の定義/107
2 術中覚醒の原因/107
3 術中覚醒判明後の対処/108
症例呈示 108

2)悪心・嘔吐,頭痛 川股 知之 111
I 悪心・嘔吐 111
1 嘔吐のメカニズム/111
2 PONVのリスクファクタ/112
3 治療/114

II 頭痛 115
1 脊椎麻酔後頭痛/115
2 気脳症/116
症例呈示 116

3)術後痛 表  圭一 118
はじめに 118

I 不十分な術後鎮痛 118
1 開腹手術/118
2 脊椎手術/119

II 術後鎮痛法による副作用 119
1 低血圧/119
2 掻痒感,悪心・嘔吐/119

III 術後鎮痛法の継続不良 120
症例呈示 120

4)角膜・結膜炎,歯牙損傷 川真田樹人 123
はじめに 123

I 角膜・結膜炎 123
1 発生頻度と原因/123
2 角膜・結膜障害の診断と対処/123
3 その他の注意点/124

II 歯牙損傷 124
1 歯牙損傷の発生頻度と原因/124
2 歯牙損傷の診断と対処/124
3 その他の注意点/125
症例呈示 125

5)末梢神経障害 渡辺 廣昭 128
I 末梢神経障害の定義 128

II 末梢神経障害の頻度 128

III 末梢神経障害の成因 128

IV 末梢神経障害の評価方法 128

V 術後に見られる主な末梢神経障害 129
1 尺骨神経障害/129
2 腕神経叢障害/129
3 橈骨神経障害/129
4 正中神経障害/129
5 腓骨神経障害/129
6 坐骨神経障害/130
7 陰部神経障害/130
8 大腿神経障害/130
9 眼窩上神経障害/130
10 顔面神経障害/130
11 反回神経損傷/130
症例呈示 130

6)呼吸・循環不全(肺梗塞を含む) 中山 雅康 133
はじめに 133

I 呼吸不全 133
1 病態/133
2 モニタリングと検査/134
3 対処法/134

II 循環不全 137
1 病態/137
2 モニタリングと検査/138
3 対処法/139

III 肺塞栓症 139
1 病態/139
2 危険因子/139
3 診断/140
4 対処法/140
症例呈示 141

7)術後24時間以内の再手術 金谷 憲明 144
はじめに 144

I 術後コンサルテーションの目的 144

II 再手術時の患者評価の実際 145
1 麻酔が及ぼす影響/145
2 手術の影響/146
3 再手術自体の問題点/149
症例呈示 150

第4章 救急・集中治療へのコンサルテーション 151
1)救急救命症例のコンサルテーション 住田 臣造 152
はじめに 152

I 脳動脈瘤の破裂 152

II 解離性大動脈瘤 152

III 胸部外傷 153 症例呈示 153

2)集中治療適応症例のコンサルテーション 今泉  均 155
はじめに 155

I ICUとは何か? 155

II 札幌医科大学医学部附属病院ICUの概略 155
1 医師/155
2 看護婦/156
3 指示系統と現状分析/156
4 ICUの入退室基準/157

III まとめ 159
症例呈示 159

第5章 ペインクリニックのコンサルテーション 163
1)慢性疼痛 松本 真希 164
はじめに 164

I 慢性疼痛の定義 164

II 帯状疱疹後神経痛 164

III ニューロパシックペイン 165

IV 頭痛 165 V 三叉神経痛 166

VI 腰下肢痛 166

VII 末梢循環障害による疼痛 167

VIII complex regional pain syndrome(CRPS) 167
症例呈示 167

2)癌性疼痛 太田 孝一 171
I 癌性疼痛治療の原則 171

II 癌性疼痛管理における鎮痛薬の使用法 171

III 癌性疼痛管理の現状 172 症例呈示 173

第6章 患者への説明・対応 179
患者への説明・対応 渡辺 廣昭 180

I ヘルシンキ宣言 180

II 患者の権利章典 180

III 医の倫理綱領 180 症例呈示 181

索 引 185

最近の医療では,麻酔科の役割がますます増大しており,それに適切かつ十分に応えることが強く求められている。その事実として,手術適応の拡大ととも に,侵襲度の高い手術を受ける患者,多岐にわたる合併症を有する患者が多くなり,手術前の適切な評価や対処が担当外科だけでは難しくなってきている。その 結果,外科系各科から術前に麻酔科医がコンサルテーションを受ける機会が多くなってきているが,その判断・処置については個々の麻酔科医の判断に委ねられ ているのが現状である。さらに,麻酔管理や手術後の管理に関連して発生した合併症や偶発症に対するコンサルテーションや,周術期のみならず重症患者や合併 症を有する患者に対する集中治療室への対応についてのコンサルテーションを受ける。また,救急・蘇生を依頼されることもある。加えて,慢性疼痛・癌性疼痛 に対する麻酔科へのコンサルテーションに対し適正に判断・処置が求められる。

そこで,他科からの種々のコンサルテーションに対して適正に対応するために,患者をどう評価し,検査や処置が必要か,必要な場合は何が必要であるかなど を,麻酔科医に一定のガイドラインとして示す目的で本著書を編集した。特に,麻酔科専門医を目指している医師や麻酔科研修医を指導する医師に役立つように 心掛けた。本著書は6章より構成されている。1章は総論としてコンサルテーションの流れ,そして各科における手術前評価のポイントと麻酔科へのコンサル テーションの基準について概説した。2章から5章までは各論として日常診療でよくコンサルテーションを受ける事項について取り上げた。2章は術前コンサル テーションで各種疾患を10項目,3章は術後コンサルテーションで各種合併症を7項目にまとめ,そして4章は救急集中治療,5章はペインクリニックにおけ るコンサルテーションについて,それぞれの解説と具体的実例を呈示しながら,その対応とポイントを記載した。6章では患者の信頼・安心を得ることは医療の 基本であるので,患者への対応・説明について取り上げた。

麻酔科医は,患者だけでなく,各科の医師・看護婦(士)などから,その能力そして人間性を厳しく評価される。したがって,麻酔科医として必要な知識,技 術,そして態度や姿勢をしっかり身につけることが大切である。特に,麻酔科専門医を取得するまでの若い時期に適正な教育・研修を受けることが必須である。 日本麻酔科学会では,私が平成12年度の麻酔指導医試験実施委員長を務めたときから,口頭試問に各科からのコンサルテーションの問題を採用している。麻酔 科の仕事に携わっている者,特に専門医として各科からのコンサルテーションに適正に対応できることは,その麻酔科医が信頼を得るだけでなく,そこの麻酔 科,さらに日本麻酔科学会の評価を高めることになる。

この著書が,若い麻酔科医の成長・育成のために少しでもお役に立てば幸いである。

札幌医科大学医学部麻酔科 教授
並木 昭義