「日帰り麻酔の安全のための基準」ガイドブック
「日帰り麻酔の安全のための基準」/1
日帰り麻酔の安全のための基準」の解説/2
第1章 日帰り麻酔の選択/5
I.はじめに/5
II.適応術式/5
III.患者の特性による選択/6
1.American Society of Anesthesiologists手術危険度分類(ASAクラス) 6
2.基礎疾患による選択/6
3.年齢による選択/6
4.社会的条件による選択/6
IV.術前評価/6
V.術前の説明/7
VI.前投薬/8
1.抗不安・鎮静/8
1)ベンゾジアゼピン/8
2)α2受容体作動薬/8
3)麻薬性鎮痛薬/8
4)非ステロイド消炎薬/8
2.悪心・嘔吐の予防/9
1)ブチロフェノン系向精神薬・フェノチアジン系向精神薬/9
2)消化器機能異常治療薬(gastrokinetic drugs)/9
3)抗コリン薬/9
4)抗ヒスタミン薬/9
5)セロトニン拮抗薬/9
3.吸引性肺炎の予防 9
1)H2受容体拮抗薬/10
2)抗酸薬/10
3)消化器機能異常治療薬(gastrokinetic drugs)/10
4.禁飲食のガイドライン/10
第2章 日帰り麻酔に関する設備と施設/13
I.はじめに/13
II.麻酔科術前診察室/14
III.受付,管理室/16
IV.待機室/16
1.待機室に求められる設備面での項目/16
V.麻酔導入室/17
VI.手術室/17
VII.術後回復室/17
VIII.ステップダウン回復室/18
IX.更衣,帰宅と術後情報システム/18
X.入院施設/18
XI.手術室の施設設備/18
1.動線計画と清濁ゾーニング/18
2.物品管理と収納スペース/19
3.情報システム/19
4.手術室の安全/19
5.スタッフ居室/19
XII.おわりに/19
第3章 麻酔法/21
I.はじめに/21
II.吸入麻酔薬/21
1.亜酸化窒素/22
2.セボフルラン/22
3.セボフルランによる導入・維持・覚醒/22
III.静脈麻酔薬/23
1.チオペンタール,チアミラール/23
2.プロポフォール/24
3.ミダゾラム/25
1)他の薬物との併用導入(coinduction)/25
4.ケタミン/25
5.フェンタニル/26
IV.筋弛緩薬/27
1.スキサメトニウム/27
2.ベクロニウム/27
3.非脱分極性筋弛緩薬の拮抗/27
V.局所麻酔/28
1.局所麻酔薬浸潤/28
2.静脈内局所麻酔/28
3.腕神経叢ブロック/28
1)放散痛確認法/29
2)動脈貫通法/29
3)末梢神経刺激装置を用いた方法/29
4.脊椎麻酔/29
1)局所麻酔薬の選択/30
2)術後合併症/30
5.硬膜外麻酔/30
VI.Monitored anesthesia care/31
第4章 日帰り麻酔での気道確保/37
I.基本的考え/37
II.日帰り麻酔で特に考慮すべきこと/37
1.気道確保は手慣れた方法を選択する/37
2.マスク麻酔で自発呼吸が基本となる/37
3.麻酔科医師の両手が塞がれない方がよい/38
4.前投薬はないと考える/38
5.術前の禁飲食の確認/38
6.筋弛緩薬の選択と使用/39
7.挿管困難の予測/39
8.予想外の挿管困難/39
III.気道確保の用具/40
1.マスク/40
2.エアウェイ/40
3.気管挿管/40
1)経口挿管/40
2)経鼻挿管/42
4.ラリンジアルマスク/42
5.コパ(cuffed oropharyngeal airway;COPA)/43
6.その他/43
IV.気管挿管の確認/44
第5章 覚醒・PACU・帰宅基準/45
I.麻酔からの覚醒/45
1.入院患者と日帰り麻酔患者での違い/45
2.日帰り麻酔からの覚醒段階/46
1)第1段階:麻酔からの覚醒期/46
2)第2段階:回復室での覚醒/47
3)第3段階:帰宅可能/47
4)第4段階:社会復帰可能段階または「街を歩ける」状況/48
II.Post anesthesia care unit(PACU)/49
III.帰宅基準/50
1.経口飲水可能か否かが重要か?/52
2.帰宅前に排尿は必須基準か?/52
3.局所麻酔後の帰宅基準/53
4.悪性高熱(malignant hyperthermia;MH)素因をもつ患者に日帰り麻酔は可能か?/54
5.帰宅後指示と「街をいつ歩いてよいか?」/54
第6章 帰宅までの看護ケア/59
I.日帰り手術担当看護婦を取り巻く環境/59
II.誰が日帰り手術専門看護婦となりえるか?/60
III.看護ケアの実際/60
1.看護ケアに際してのクリティカルパスの作成と導入/60
2.手術当日までの看護ケア/65
1)外来での看護ケア/65
2)手術当日の看護ケア/67
第7章 帰宅後の対応 ―帰宅にあたって指示される注意点も含む―/75
I.はじめに/75
II.帰宅時の注意点/75
III.日帰り麻酔・手術の術後合併症/75
IV.再受診再来院の理由にはどんなものがあるのか?/76
V.マイナー合併症の発生率/77
VI.帰宅後の電話によるフォローアップ/78
VII.おわりに/78
第8章 日帰り麻酔での術後鎮痛について/79
I.はじめに/79
II.術後に発生する疼痛の原因/79
III.術後疼痛への処置/80
1.オリエンテーション/80
2.前投薬/81
3.導入薬物/81
4.麻酔中の対策/81
1)局所麻酔/81
2)全身麻酔での対応/82
3)神経遮断鎮痛法(neurolept anesthesia;NLA)/83
4)その他の対策/83
5.術後鎮痛/83
1)アセトアミノフェン/83
2)非ステロイド消炎薬/83
3)フェンタニル/84
4)その他/85
6.小児に使われる鎮痛法/85
7.帰宅後の疼痛への対応策/85
IV.術後外来処置施設と帰宅基準/85
第9章 合併症・副作用/87
I.はじめに/87
II.発生率/87
1.死亡率/87
2.合併症発症率/87
III.合併症/88
1.心血管系合併症/88
2.呼吸器系合併症/88
3.術後痛/89
4.悪心・嘔吐/89
5.その他/90
IV.高齢者の日帰り手術/90
V.基礎疾患/90
VI.おわりに/91
第10章 小児の日帰り麻酔/93
I.はじめに/93
II.日帰り麻酔の特殊性/93
III.対象患児および疾患/94
1.患児自身の肉体的条件/94
2.疾患の条件/94
3.家庭の条件/95
4.社会的条件/95
5.対象疾患/95
IV.術前検査・診察および術前指示/95
1.術前検査/95
2.術前診察/96
1)問 診/96
2)理学的検査/96
3.術前指示/96
V.前投薬,麻酔,モニターおよび術中合併症/97
1.前投薬/97
2.麻 酔/98
3.術中モニター/98
4.術中合併症/98
VI.術後鎮痛/99
VII.術後経口摂取,離院帰宅/100
1.経口摂取/100
2.離院帰宅/100
3.入院を必要とする条件/101
VIII.帰宅後のフォロー/101
IX.まとめ/102
第11章 成人の日帰り麻酔/103
I.はじめに/103
II.高齢者/103
III.心血管疾患患者/104
1.高血圧症/104
2.冠動脈疾患/105
3.心臓弁膜症/105
4.ペースメーカ患者/106
IV.呼吸器疾患患者/106
1.気管支喘息/106
2.慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;COPD)/107
V.内分泌代謝疾患患者/108
1.糖尿病/108
2.甲状腺疾患/109
3.病的肥満/109
VI.その他/109
1.人工透析/109
2.慢性関節リウマチ/109
3.免疫抑制状態/110
4.薬物依存/110
5.気道確保困難/110
6.悪心・嘔吐/111
VII.結 語/111
第12章 日帰り麻酔に果たす麻酔科医の役割 ―実務的な面を中心に―/113
I.はじめに/113
II.麻酔科医の果たす役割/113
1.日帰り麻酔ソフト面での麻酔科医の実務役割/113
1)適切な患者の選択と日帰り麻酔適応の決定/114
2)納得のいく術前説明と日帰り麻酔同意の取得/114
3)必要最小限の術前検査,術前診察結果をふまえた患者の状態把握/115
4)手術のスケジュールの決定/115
5)術当日,術直前の注意点の指示/116
6)術当日の理学的問診,バイタルサインのチェック/116
7)術中麻酔管理/116
8)術直後の集中管理/117
9)ステップダウンリカバリでの帰宅許可までの観察と帰宅許可の指示/117
10)帰宅後の緊急連絡システムと緊急収容先の確保/117
2.日帰り麻酔ハード面での麻酔科医の役割/117
III.おわりに/119
付録 保険制度,医療行政とのかかわり ―診療報酬改正をふまえて―/121
I.はじめに/121
II.アメリカの医療システム/121
III.わが国の展望/123
1.現在の日本の医療制度/123
2.短期滞在手術基本料の影響/123
3.医療改革後の変化/124
IV.まとめ/125
編集後記/129
欧米諸国ではこの15年ほどの間に日帰り手術,日帰り麻酔が著しく増加してきました。アメリカでは1981年に予定手術の20%程度であった日帰り手術 は1996年には69%にまで増えており,イギリスでも1998年には62%にまで達しています。以前より海外を視察してこられた先生方から,日本でも日 帰り麻酔の早急な検討の必要性を訴える声が寄せられていました。しかし小児を対象とした一部の施設でしか日帰り麻酔は行われておらず,医療制度や社会の医 療に対する考え方の違いから,ほとんど検討されてきませんでした。
アメリカでの日帰り手術の増大は,医療保険会社の経費切り詰めを目的に日帰り手術が推奨され,1983年にメディケアによる定額性の医療 (Diagnosis Related Groups/Prospective Payment System;DRG/PPS)が開始されたことと大きく結びついています。また,アメリカ日帰り麻酔学会(Society for Ambulatory Anesthesia;SAMBA)は1984年に設立されました。日帰り手術の増加の一方でベッドの稼動率は激減し,稼働率を維持するために総ベッド数 の減少と総手術件数の倍増が起きています。医療費の軽減を目的として非常に高い入院を避けて手術を日帰りで行うようになりましたが,病院としては手術件数 を増やして収益を求めたので,結果として総医療費の増大につながっています。
日本でも医療費の増大と保険医療財政の悪化,病院の機能分化を目的として,日帰り手術・麻酔に目が向けられるようになりました。「在院日数の短縮および 長期入院の是正」の名目のもとに,平成10年度に行われた社会保険診療報酬の改正では,日帰り手術の保険点数が加算される手術対象が拡大されています。平 均在院日数が20日以内の場合に入院時医学管理料の加算が認められたため,短期入院による手術は平均入院期間を短くするのに有効な手段でもありました。ま た,平成12年度の改正では短期滞在手術基本料が認められ,日帰り麻酔での周術期管理が保険点数として認められるようになりました。
医療は医療技術,患者の(quality of life)QOL,医療経済の3つの面を持っています。今日まで医療技術の進歩とそれによる治療成績の向上に主眼が置かれ,患者はその恩恵にあずかってき ました。日帰り手術・麻酔も,質の良い麻酔法と内視鏡などによる手術法の開発により従来入院を必要としていた手術を外来患者にも行えるようになったもので ありますが,近年患者の自己決定に基づくQOLの向上に対する関心が高まっており,帰宅したいとの希望にそえることは現代の医療精神に合っているばかり か,医療費の膨大化と医療保険の赤字対策としての持つ意味も大きいものがあります。しかし,海外での日帰り手術の増加が経済原理優先で進められ,手術件数 の増加,病院経営の悪化をもたらしてきたことや,入院費が高いのでとにかく退院するなどは,日帰り手術の利点が十分生かされているとは言えないと考えま す。
日本では日帰り麻酔の安全を確保することを目的として,「日帰り麻酔研究会」が平成10年の春に設立され,活動を行ってきました。手術が的確に行われ, 術前・術後の管理体制が十分整っていれば,麻酔科医にとって日帰りをする患者に麻酔をかけることはさほど難しいものではないでしょう。しかし,在宅での管 理体制が十分整っておらず,また平成10年度の診療報酬の改正では日帰り手術に保険点数の加算がなされたことから,安全を置き去りにした安易な管理による 日帰りでの手術が拡大することが懸念されました。日帰り手術での患者の安全を守るのは手術手技ではなく周術期管理であるとの主張から,日本の日帰り麻酔の 進むべき道を自らが切り開いていく必要性を感じ,麻酔科として積極的に関与して安全を確保するための検討を急いできました。
以上のような事情から,日本麻酔学会,日本臨床麻酔学会,日帰り麻酔研究会の三者は「日帰り麻酔の安全のための基準」の制定を検討し,平成11年11月 に公表いたしました。しかし,本基準は日帰り麻酔の安全を確保するための基本的概念を示したものであり,日帰り麻酔を実施するに当ってはさらに具体的な内 容の解説が必要と考えました。そこで日帰り麻酔研究会では,日本麻酔科学会,日本臨床麻酔学会の了解の下で,克誠堂出版の協力を得て,安全に日帰り麻酔を 行うための知識と実践に役立つようなガイドブックの作成を検討し,実際に日帰り麻酔を数多く手がけておられる先生方を中心に執筆をお願いして,“「日帰り 麻酔の安全のための基準」ガイドブック”を作成するに至りました。
しかし,日本ではまだ少数の施設しか日帰り麻酔が行われておらず,また保険制度も十分整備されていないことから,本ガイドブックは差し当っての目安となる もので,今後の日本の医療制度が変わっていく中で先生方からのフィードバックを受けて書き直していくべきものと考えております。本ガイドブックが日帰り麻 酔を行ううえで参考になり,患者の安全が確実なものになり,日帰り麻酔が普及することに少しでも役立つ事を希望致します。
日帰り麻酔研究会事務局長
武田純三