呼吸管理の最新戦略
I 呼吸管理におけるトピックス…1
1.人工呼吸による肺の損傷(VILI) 那須英紀,篠正博…3
はじめに/3
1. 概念の変遷―barotrauma,volutrauma,atelectrauma/3
2. VILIの病理/4
3. 低1回換気療法/5
4. そしてbiotraumaへ/6
5. 肺保護戦略からみる呼吸管理への応用/6
01 高頻度振動換気法/6
02 高二酸化炭素許容人工換気/7
03 腹臥位療法/7
おわりに/8
2.人工呼吸器関連肺炎(VAP) 森 正和,野口隆之…9
はじめに/9
1. 疫学/9
2. 診断/10
3. 治療/13
4. 予防/14
01 経口挿管か経鼻挿管か/14
02 NPPV/15
03 呼吸回路の交換/15
04 声門下分泌物の吸引/15
05 抗ストレス潰瘍薬の使用/15
06 半坐位/16
07 加湿器/16
08 気管内吸引法/16
09 経腸栄養/16
10 選択的消化管内殺菌/16
おわりに/17
3.肺保護療法 妙中信之…19
はじめに/19
1. 低容量換気法/19
01 歴史的背景/19
02 換気様式の選択と適正換気条件の実際/21
2. 高二酸化炭素許容人工換気/22
01 HC/HCAの生体への影響/22
02 HC/HCAの臓器保護・組織防御的作用/23
03 HC/HCAはどこまで容認できるか/24
04 高二酸化炭素許容人工換気の実際/24
3. open lung strategy―肺リクルートメント手技とPEEP/25
01 VILIの発生機序とopen lung strategy/25
02 肺リクルートメント手技/26
03 PEEPの設定/27
4. 高頻度換気法/29
おわりに/29
4.加湿 宮尾秀樹…30
はじめに/30
1. 湿度の定義/30
2. 気道の生理的温湿度分布/31
3. 加湿器の種類/32
01 加湿瓶/32
02 ネブライザ/32
03 加温加湿器/35
4. 人工鼻/38
5. 小児領域での特殊な問題点/39
01 保育器使用による問題点/39
02 ラディアントウォーマ使用による問題点/39
03 人工呼吸器本体の発生する熱や環境温による問題点/39
6. 湿度計/40
5.気管内吸引 武居哲洋,中沢弘一…41
1. 意義,適応/41
2. 方法/42
01 準備するもの/42
02 手順/43
3. モニタリング,合併症/45
4. トピックス/45
01 閉鎖式気管内吸引システム/45
02 気管チューブカフ上(声門下)吸引/47
6.新しいウィーニング法 岡元和文,関口幸男…49
はじめに/49
1. ウィーニング開始前の全身状態の評価/49
01 呼吸不全の原因が除去されていること,または改善していること/49
02 中枢神経機能が改善していること/50
03 循環動態が安定していること/50
04 感染が制御されていること/50
05 電解質異常や代謝機能が改善していること/50
06 手術後や外傷後の創痛がコントロールされていること/51
07 栄養状態が改善していること/51
08 精神症状が安定していること/51
2. ウィーニングの成否を予測するための指標/51
3. SBTスクリーニング/52
4. ウィーニングの方法としてのSBT/53
5. プロトコルに基づくウィーニング法/55
6. ウィーニングのための気管切開/55
7. 気管チューブ抜管の問題/55
8. 抜管後呼吸不全に対する非侵襲的陽圧換気/57
II 症例による呼吸管理のポイント…61
1.ARDS 竹内宗之,今中秀光…63
01 症例/64
02 病態の特徴/65
03 1回換気量とプラトー圧の設定/67
04 酸素濃度の設定/67
05 PEEPの設定/67
06 リクルートメント手技は必要か/68
07 腹臥位管理は必要か/68
08 VCVかPCVか/69
09 まとめ/70
2.気管支喘息の重積発作 遠井健司,安本和正…71
01 症例/72
02 胸部X線写真/73
03 重症度の判定/74
04 治療・管理/74
05 呼吸管理のポイント/78
06 喘息死/80
07 まとめ/80
3.肺炎 桑迫勇登,松村堅二…82
01 症例/82
02 胸部X線写真・胸部CT/84
03 呼吸管理/86
04 肺炎の管理のポイント/87
05 留意点/89
4.COPDの急性増悪 崎尾秀彰…91
01 症例/91
02 胸部X線写真/92
03 呼吸管理法/93
04 留意点/95
5.肺線維症 栗原正人,川前金幸…98
01 症例/98
02 病態の特徴/101
03 呼吸管理上の問題点・対応策/102
6.胸部外傷(気胸・血胸・肺挫傷・肺水腫) 田中孝也…106
01 症例/106
02 胸部X線写真・胸部CT/110
03 胸部外傷の注意点と一般的処置/112
04 胸部外傷の呼吸管理/113
7.重症頭部外傷(頭蓋内圧亢進患者の呼吸管理) 熊田恵介,福田充宏…116
01 症例/117
02 呼吸管理のポイント/118
03 病態における問題点/121
04 まとめ/123
8.溺水 小林康夫,吉川修身…124
01 症例/125
02 用語の整理/126
03 病態/127
04 呼吸管理/127
05 薬物療法/129
06 呼吸管理上の問題点/129
9.心不全 盛 直久…131
01 心不全/131
02 症例/133
03 心不全に起因する呼吸不全/133
04 心不全に伴う呼吸不全の治療/135
05 心不全に伴う呼吸不全の呼吸療法/137
06 呼吸療法の実際/139
10.術後肺合併症 公文啓二…141
01 症例/141
02 病態の特徴/143
03 呼吸管理上の問題点と対応策/145
11.誤嚥性肺炎 石原英樹…148
01 症例/149
02 誤嚥性肺炎を起こしやすい病態/150
03 各種の誤嚥/151
04 診断/152
05 症状/152
06 原因菌/152
07 治療/153
12.急性肺血栓塞栓症 小林敦子,橋本 悟…155
01 症例/156
02 病態の特徴/156
03 治療/160
13.神経筋疾患 谷田部可奈,川城夫…163
01 症例/164
02 呼吸管理におけるトピックス/167
14.パラコート中毒 水谷太郎,松宮直樹…171
01 症例/171
02 病態生理/173
03 臨床症状および診断/174
04 治療/175
05 呼吸管理/176
15.小児の呼吸管理 桜井淑男,田村正徳…178
01 症例1/178
02 症例2/182
索 引…186
1950年代に北欧でポリオが大流行した際,最初に用いられた人工呼吸器は,所謂鉄の肺と呼ばれる胸郭外陰圧式の機種で あった。しかし,結果は悲惨なもので,次から次へと患者を失ってしまった。そこに,正に救世主として登場したのが,現在われわれが行っている機械的陽圧換 気法である。当時,陽圧換気を施行できる人工呼吸器は普及しておらず,専ら医療従事者や医学生などがチームを組んで手でバッグを押して人工呼吸を行った。 機械的陽圧換気が生体に及ぼす影響など何も解っていなかった時代に,人工呼吸の経験などない人たちが,いったいどの様な思いで,毎日毎日それも何時間もの 間ひたすらバッグを押し続けていたのであろうか。もちろんモニターや血液ガス分析装置など考えも及ばない時である。恐れと不安が交差する中,ポリオで呼吸 不全に陥った患者を助けることが出来る唯一の治療法を行っていると信じつつ,心を込めて用手換気を続けていたものであろう。当時不治の病であった呼吸不全 に敢然と戦いを挑んだ,先人達の勇気とたゆまぬ努力に頭の下がる想いである。
それから五十年以上が過ぎた現在,呼吸不全の病態も明らかになり,性能の優れた人工呼吸器が多数開発されるとともに,人工呼吸療法による功罪も明示さ れ,今まで良かれと思って行ってきた治療法にも思わぬ問題のある事が報告されている。従って,以前の経験に頼った呼吸管理法は通用しないどころか,患者の 予後を悪くする可能性がある。人工呼吸に関する新知見が内外の雑誌に毎月のように掲載され,われわれ臨床医を啓蒙してくれているが,呼吸不全の病態は複雑 であるにもかかわらず,各病態に対して如何に対応するかについての詳細を纏めた出版物は驚くほど少ない。本書は呼吸管理における最新の知識を紹介するとと もに,15の病態に対する最も効果的な呼吸管理の実際を解説したものであり,臨床の現場で活躍されている医師は無論のことコ・メディカルの皆さんにも役立 つと期待している。
第27回日本呼吸療法医学会学術総会の主管を記念して企画したため,学会を開催した7月が出版予定日であったが,残念ながら多少遅れてしまった。予定に は間に合わなかったものの大好きな金木犀の花が香る中,ゲラ刷りに目を通しながらこうして序文を認められるのは,執筆者の先生方と克誠堂の担当者によるご 努力の賜と,編集者として深く感謝する次第である。
2005年初秋
安本 和正