麻酔科学スタンダードIII 基礎
第1章 麻酔科学の歴史 松木明知/1
歴史的研究の意義と重要性 3
近代の麻酔科学誕生まで 3
近代麻酔科学の誕生 4
吸入麻酔法の発達 4
気道確保の歴史 5
静脈麻酔 5
筋弛緩薬の応用 6
局所麻酔法の発達 6
産科麻酔 8
第2章 麻酔の理論 真下 節/9
細胞学的・分子生物学的仮説/11
麻酔と中枢神経系/11
ニューロンレベル/11
イオンチャネルレベル/12
細胞情報伝達系レベル/14
物理化学的仮説 15
麻酔の圧拮抗現象/15
膜と麻酔薬/15
物理化学的仮説/16
まとめ 18
第3章 解剖と生理/21
3-A 呼吸器系 23
a 肺機能 西野 卓/23
呼吸筋 23
換気のメカニクス 24
圧-量関係/24
流量と抵抗/25
呼吸の仕事量/25
不均等換気/26
肺におけるガス交換 27
換気-血流比/27
肺胞-動脈血ガス分圧較差/28
酸塩基平衡 29
物理的緩衝作用/29
呼吸による緩衝作用/29
腎臓による緩衝作用/29
呼吸調節 29
呼吸中枢/30
化学調節/30
神経性調節 33
行動性調節 34
肺の非呼吸性機能 34
肺における内因性物質の取り込みと代謝/34
肺における外因性物質の取り込みと代謝/34
b 肺循環 丸山一男/35
肺循環動態(血管内圧・抵抗・血流量) 35
肺血管床のメカニクス/35
肺血管の神経支配/36
肺循環系の圧指標/37
肺循環とガス交換 38
拡散能/40
換気血流(Va/Q)比/40
Va/Q比の分布異常と低酸素血症/42
肺内シャント/43
A-aDO2/43
肺水腫/43
低酸素肺血管収縮 44
低酸素肺血管収縮の意義/44
3-B 循環器系 46
a 心臓 外須美夫,岡本浩嗣/46
はじめに 46
心臓の解剖 46
心筋の収縮・弛緩メカニズム 46
β受容体刺激により心筋の収縮・弛緩が促進されるメカニズム 47
心臓の収縮特性 48
心筋における張力-長さ関係/48
心筋の短縮距離の決定因子/48
心室の収縮特性/48
心臓の拡張特性 50
心室圧-容積関係 51
左室圧-容積関係と負荷条件 51
心室-動脈血管系の結合 52
前負荷,後負荷,心収縮性と1回拍出量/53
左室と動脈血管特性の至適整合状態 53
圧容積面積/53
至適後負荷/53
至適心室/54
b 不整脈と心臓の電気生理 瀬尾憲正,齋藤和彦/55
細胞の電気的活動 55
膜の電気的活動 56
イオンチャネル/56
イオンポンプと担体/57
興奮の形成と伝播 58
ペースメーカ/58
刺激伝導系と心電図の形成/58
興奮収縮連関/59
イオンチャネルの変化と心電図/59
不整脈 60
異常興奮の発生/60
刺激伝導の異常/61
抗不整脈薬 61
Vaughan Williams分類/61
Sicilian Gambit/62
c 冠循環,心筋酸素需給,再灌流障害,preconditioning 林 行雄/64
冠循環の解剖 64
冠循環の生理 64
心筋酸素需要供給の決定因子/65
自己調節能とcoronary reserve/68
冠動脈スチール/70
再灌流障害 71
再灌流障害のメカニズム/72
さまざまな再灌流障害/72
preconditioning 74
d 血管と血流 畑埜義雄/76
血管平滑筋の収縮機構 76
脱分極性平滑筋収縮/76
受容体刺激による平滑筋収縮/77
血管平滑筋の弛緩機構 77
環状ヌクレオチドによる弛緩/77
Kチャネル開口による弛緩/78
血管内皮細胞の関与 79
麻酔薬の血流に及ぼす作用/80
麻酔薬の血管拡張作用/80
麻酔薬の血管収縮作用/80
血管内皮依存性弛緩反応に及ぼす麻酔薬の効果/80
血流の調節 81
自律神経性血流調節/81
血流の体液性調節/82
局所性調節/82
自己調節能/83
各臓器循環の特徴 83
脳循環/83
冠循環/83
肝循環/84
腎循環/84
骨格筋循環/84
皮膚循環/84
3-C 脳神経系 86
a 脳・脊髄・自律神経系の解剖と生理 廣田弘毅/86
脳 86
ニューロン/86
グリア細胞/86
抑制性介在ニューロン/87
記憶のメカニズム/88
脊髄 92
痛みの伝導路/92
全身麻酔薬の作用部位としての脊髄/94
自律神経系 94
交感神経系に及ぼす全身麻酔薬の作用/95
副交感神経系に及ぼす全身麻酔薬の作用/96
b 急性痛(侵害受容) 山本達郎/97
末梢痛覚受容器 97
熱刺激に関するもの/97
機械刺激に関するもの/98
化学刺激に関するもの/98
一次求心線維 100
シナプス伝達の制御 102
c 慢性痛(神経因性疼痛) 南 敏明/103
神経因性疼痛の動物モデル 103
痛覚過敏反応の定義/103
アロディニアの定義/103
神経因性疼痛の動物モデル/103
生理的な痛みの伝導/104
下行性抑制系/105
神経因性疼痛のメカニズム 105
興奮性の増大と脱抑制/105
器質的変化/108
最近注目されているNa+チャネル/108
d 脳循環,代謝,脳虚血と神経細胞傷害 森本康裕,坂部武史/110
脳循環 110
脳の血管/110
脳循環の特徴/111
脳血流の調節/111
病的状態における脳循環/115
脳血流測定法/115
脳代謝 116
脳代謝の特徴/116
脳のエネルギー利用とエネルギー状態/117
脳代謝の測定法/117
脳代謝に影響する因子/118
脳虚血と神経細胞傷害 118
脳虚血の分類/118
傷害をもたらす脳血流量の閾値/119
虚血により傷害されやすい部位と傷害発生の時間経過/119
脳虚血の傷害発生機序/120
e シナプス,伝達物質放出,神経-筋情報伝達 中尾慎一/123
シナプスと神経伝達物質 123
シナプスと神経伝達物質/123
神経伝達物質受容体/124
シナプスの可塑性/124
シナプス後肥厚部/126
神経-筋情報伝達 126
神経筋接合部位の発生/126
シナプス形成/129
骨格筋型ニコチン性アセチルコリン受容体/130
アセチルコリン(神経伝達物質)の合成と放出機構/130
3-D 腎臓 田中義文 134
はじめに 134
腎臓の組織構造 134
尿生成の基本生理 136
血液濾過/136
再吸収機能/136
生体全体としての腎機能調節機構 140
尿素リサイクルと希釈尿,高張尿/140
アルドステロンとカリウム調節/141
腎血流と酸素消費量/142
尿量の経時的変化/143
おわりに 145
3-E 肝臓 村川 雅洋 147
肝臓の解剖学的構造 147
肝臓と周辺臓器/147
肝臓の血管/147
肝臓の区域分類/148
肝小葉/148
肝類洞壁細胞/149
肝循環 150
肝血流/150
肝血流の内因性調節/150
肝血流の外因性調節/151
血液リザーバーとしての機能/151
肝臓の生理的機能 151
胆汁の生成と排泄/151
糖代謝/152
アミノ酸代謝/152
脂質代謝/153
薬物代謝/153
血漿タンパク質の合成/154
3-F 止血,凝固,線溶 北口勝康,古家 仁 156
血液流動性の維持における血管内皮細胞 156
抗血小板作用/156
抗凝固作用/156
線溶系/157
先天性因子欠乏疾患/158
止血凝固線溶の過程 158
血管/158
血小板/158
血液凝固因子/158
フィブリン溶解/159
止血 159
血管内皮/159
血小板/159
止血の過程/159
血小板活性の調節/160
血液凝固 160
外因系凝固活性/161
内因系凝固活性/161
トロンビン,フィブリン形成/161
フィブリン溶解 162
分解酵素とインヒビター/162
フィブリンへの親和性とその効果/162
細胞表面への結合/162
3-G 体温調節 尾崎 眞 164
温度と生物(体温調節機構の生理) 164
恒温動物と変温動物/164
身体中心部の温度と末梢の温度(体温測定部位)/165
温冷覚の求心路/165
体温調節中枢/165
遠心性反応としての体温調節反応/166
全身麻酔中の体温調節機構 167
全身麻酔中の低体温/167
術中低体温のパターン/167
周術期低体温が及ぼす影響 168
患者の自覚症状としての悪寒と不快感/168
シバリングと末梢血管収縮反応/169
循環系への合併症/169
覚醒遅延/170
感染/171
血液凝固障害/171
術後の発熱反応/172
周術期低体温への対策 172
体内熱再分布による低体温防止策/172
呼吸回路の加温・加湿/173
輸液加温/173
皮膚の加温/173
おわりに 174
3-H 内分泌 瀬川 一 176
内分泌の基礎 176
生合成/176
貯蔵と分泌/177
分解/178
ホルモンの作用機序/178
分泌調節機構/179
内分泌各論 180
視床下部/180
下垂体/181
第4章 免 疫/187
4-A 免疫 稲田武文 189
自然免疫 189
病原菌の体内への侵入阻害/189
補体/189
食細胞/189
白血球の感染巣への動員/190
敗血症/190
獲得免疫 190
主要組織適合性複合体/190
MHC分子の構造,生合成と輸送/191
T細胞受容体複合体/192
T細胞活性化時の細胞内シグナル伝達/193
B細胞抗原受容体複合体/193
B細胞活性化時の細胞内シグナル伝達/193
B細胞とT細胞の相互作用/193
移植免疫 193
拒絶反応の機序/194
拒絶反応の分類/194
ABO血液型抗原/194
移植片対宿主病/195
腫瘍免疫 195
CD8陽性T細胞/195
抗体/195
NK細胞,マクロファージ/195
先天性・後天性免疫不全症 195
自然免疫の先天性異常/195
獲得免疫の先天性異常/195
後天性免疫不全症/196
4-B 手術・麻酔による免疫系への影響 佐登宣仁 198
研究方法とその利点・欠点 198
手術侵襲と麻酔 199
手術創感染と免疫系 200
糖尿病・高血糖と免疫 201
同種血輸血と免疫 201
第5章 薬 理/205
5-A 麻酔薬の薬物動態(摂取,分布,代謝,排泄) 長田 理 207
薬物動態学 207
薬物動態・薬力学を説明するモデル 207
生理学的多臓器モデル/207
古典的薬物動態学/208
コンパートメントモデル/208
薬力学モデル/209
薬物相互作用/209
静脈内投与以外の薬物動態/211
静脈麻酔薬の薬物動態 211
投与,吸収/211
分布/212
代謝,排泄/212
薬物動態の算出方法/212
効果部位/212
代謝物を含めた解析/213
context-sensitive half-time/214
濃度減少時間/214
target-controlled infusion/215
薬物動態に影響を与える要因/216
各種静脈麻酔薬の薬物動態/216
吸入麻酔薬の薬物動態 217
肺胞への入力を規定する要因/218
肺胞コンパートメントでの摂取・排泄/218
心拍出量の影響/219
二次ガス効果/219
体内での分布/220
吸入麻酔薬の代謝・排泄/220
薬物動態を理解するためのツール 220
GAS Man/221
TIVA Trainer/221
Palmacokinetics/221
5-B イオンチャネルと細胞内信号伝達 内田一郎 223
イオンチャネル 223
電位依存性イオンチャネル 224
電位依存性Na+チャネル/224
電位依存性K+チャネル/224
内向き整流性K+チャネル/225
電位依存性Ca2+チャネル/227
リガンド型受容体チャネル 227
ニコチン性アセチルコリン受容体イオンチャネルスーパーファミリー/227
グルタミン酸受容体チャネル/228
細胞内信号伝達 229
5-C 吸入麻酔薬 加藤孝澄 232
心血管系 232
心拍数/232
血圧,心拍出量/233
心筋収縮力/233
体血管抵抗/234
肺血管抵抗/234
循環抑制に影響を与える因子/235
不整脈,伝導/235
冠血流/236
呼吸器系 236
換気コントロールに対する影響/236
二酸化炭素換気応答/237
低酸素換気応答/238
気道抵抗/238
低酸素肺血管収縮/239
中枢神経系 240
脳波/240
脳血流/240
頭蓋内圧/241
肝臓 242
肝血流/242
薬物クリアランス/242
肝機能検査/243
腎臓 243
骨格筋 243
子宮筋 244
骨髄 244
5-D 静脈麻酔薬および鎮静薬 坂井哲博 246
静脈麻酔薬の分類 246
各論 247
バルビツレート/247
ケタミン/249
プロポフォール/250
エトミデート/252
α2アゴニスト:デキサメデトミジン/252
ベンゾジアゼピン系鎮静薬/253
フルマゼニル/254
ドロペリドール/254
5-E オピオイド 福田和彦 256
オピオイドの構造 256
内因性オピオイド 256
オピオイド受容体 257
オピオイド受容体の構造/258
オピオイド受容体の分布/259
オピオイド受容体の細胞内情報伝達機構/259
オピオイド受容体のノックアウトマウス/260
オピオイドの薬理作用 260
鎮痛作用/260
中枢神経系に対するその他の作用/261
内分泌系における作用/261
呼吸器系における作用/262
循環器系における作用/262
骨格筋における作用/262
平滑筋における作用/262
免疫系における作用/262
ヒスタミン遊離/262
オピオイドの薬物動態 262
オピオイドの麻酔領域における臨床応用 263
全身麻酔における使用/263
その他の投与法/264
麻薬拮抗薬 264
ナロキソンによるオピオイドの副作用の治療/264
その他の目的におけるナロキソンの使用/264
拮抗性鎮痛薬 264
ペンタゾシン/264
ブプレノルフィン/265
ブトルファノール/265
5-F 局所麻酔薬 中筋正人,浅田 章 267
作用機序 267
分類および化学構造式 269
化学構造式による分類/269
光学異性体/269
物理化学的な性質 270
薬理作用 272
神経の構造と機能/272
中枢神経系/272
循環器系/273
抗菌作用/273
メトヘモグロビン血症/273
局所麻酔薬によるアレルギー/274
薬物動態 274
吸収/274
分布/274
除去(代謝および排泄)/274
5-G 筋弛緩薬 鈴木孝浩 277
神経終末からのアセチルコリン遊離メカニズム 277
ニコチン性アセチルコリン受容体の構造 277
末梢神経刺激による筋収縮反応のモニタリング 280
筋の種類による差異/280
刺激法/280
筋弛緩薬の分類と作用 281
脱分極性筋弛緩薬/281
非脱分極性筋弛緩薬/283
特殊状態での筋弛緩薬の作用変化 288
小児/288
高齢者/289
妊娠/289
肥満/291
腎不全/292
肝不全/293
神経筋疾患/294
低体温/294
酸塩基平衡異常/294
電解質異常/294
筋弛緩効果の拮抗(抗コリンエステラーゼ薬) 295
作用機序/295
副作用/295
拮抗作用に影響する因子/296
拮抗薬投与のタイミング/296
5-H 循環作動薬 森田 潔,岩崎達雄 297
交感神経作動薬 297
エピネフリン/297
ノルエピネフリン/298
イソプロテレノール/298
ドブタミン/299
ドパミン/299
ホスホジエステラーゼIII阻害薬 299
アムリノン(イナムリノン)/300
ミルリノン/300
オルプリノン/300
強心配糖体 300
ジゴキシン/301
ジギトキシン/301
硝酸薬 301
ニトログリセリン/301
硝酸イソソルビド/302
ニトロプルシド 302
ニコランジル 303
プロスタグランジン類縁体(エイコサノイド,プロスタノイド) 303
プロスタグランジンE1(アルプロスタジル)/303
プロスタグランジンI2(エポプロステロール,プロスタサイクリン)/304
β遮断薬 304
プロプラノロール/304
エスモロール/305
ランジオロール/306
ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド 306
クロルプロマジン 306
ヒドララジン 307
アデノシン三リン酸 307
Ca2+拮抗薬 308
ジヒドロピリジン系薬剤/308
フェニルアルキルアミン系/309
ベンゾジアゼピン系/309
バソプレシン 309
和文索引/313
欧文索引/319
平成12年,本郷三丁目のTYビル・日本麻酔学会(当時)事務局で開かれた広報委員会が終了したある日,克誠堂出版,故・ 今井 彰社長からお声がかかり,「最新の麻酔の知識を取り入れた上級者向きの麻酔科学の教科書を作りたい。読者対象は麻酔指導医試験受験者」「編集者は 55歳以下で,執筆者もできるだけ現役の方」というものであった。私のようなものでは無理と思っていたが,その後,間もなくして3名の編集者のお名前が挙 がってきた。すなわち,千葉大学の西野 卓教授,慶應大学の武田純三教授,それに関西医科大学の新宮 興教授である。これらの方々のお力があれば,今井氏 の思い描くすばらしい麻酔科学の教科書を作ることが可能であると確信した。以降,御茶ノ水の山の上ホテルにて数回の編集会議を経てその骨格ができ上がっ た。このような経緯によって本書が企画され発刊となった次第である。本書は4巻から構成されるが,第1巻目の発刊を待たずして今井氏がご他界なされたのは いかにも残念なことである。氏のご霊前に本誌を謹んでお供えしたい。
麻酔科学 の分野はあまりにも広い。解剖学,生理学,薬理学など基礎医学の知識の上に構築されていることはもちろん,内科学の広い知識を必要とする学問でもある。鍛 練の必要な技術の習得も課されている。しかし,だからこそ麻酔科学がおもしろく,興味の尽きない学問であることを物語っていよう。麻酔科医といっても施設 や,おかれた環境によって,習得できる知識に偏りができてしまうことはいたしかたないことである。そして多くの麻酔科医は日常の臨床業務を行いながら知識 の習得を行い,そして麻酔指導医試験に備えている。そのような状況にある麻酔科医にとって,程度の高い麻酔科学の知識を分かりやすく習得できる教科書が必 要である。本書のコンセプトは,書名「麻酔科学スタンダード」のとおり,麻酔科医にとって日々の教育,臨床において必要な基礎的知識とともに,現在この分 野で標準的であると考えられている知識・情報を分かりやすく提供することにある。従って,エキスパート・オピニオンによる情報・知識は避け,EBMの立場 からもできるだけ質の高い新しい知識を掲載することを各ご執筆者の方々にお願いした。同時に過去の麻酔指導医試験問題を参考とし,本書の内容が指導医試験 に十分対応できるものであることを前提としてご執筆いただいている。
第1巻は「臨床総論」,第2巻は「臨床各論」,第3巻は「基礎」そして第4巻は「関連領域」とした。各巻それぞれの項目は,その分野を得意とする方々にご 担当いただいた。脱稿された原稿は4名の編集者が必ず全員で目を通して,本書のコンセプトに見合ったものかをチェックさせていただいている。加筆,修正を お願いした先生には,この紙面をもって失礼の段おわび申し上げる次第でありますが,どなたも快く応じていただき,編集者一同,こころより感謝の意を表する ものであります。
毎年,新しい薬が世に出てきたり新しい麻酔法やモニ ター機器が開発されてきたりと,麻酔科学の分野でもその内容は日々大きく変化している。今の時点でより優れた方法とされているものも,数年後には別の評価 を得るということもまれではない。読者の皆様からのご批判に答えながら,今後そのような変遷にも目を向けて本書が長い命を受け継いでくれることを願いつ つ,序文としたい。
2003年1月
小川節郎
「麻酔科学スタンダード」は,これまでに発刊された「臨床総論」および「臨床各論」に引き続いて今回第3巻「麻酔科学ス タンダードIII 基礎」が発刊される運びとなった。言うまでもなく,臨床の実際は基礎科学に裏付けられていることが望まれる。特にわれわれが専門とする麻酔科学は基礎科学 との関連が強く,基礎科学の進歩によって臨床が大きく左右される分野でもある。患者の生命と安全を守る麻酔科医は,毎日の臨床の基となる基礎科学にも常に 目を向けている必要がある。麻酔科学会認定制度の改変に伴って,麻酔科専門医および指導医の臨床能力がより厳しく問われるようになっている。臨床能力の意 味するところは,単にいかに多くの症例数を経験しているか,どれだけの手技的能力を有しているかではなく,どれだけの科学的判断に基づいて臨床を遂行する 能力があるかが重要であると思われる。
医学の最近の進歩は目覚しいものがあり,正常および各種病態が遺伝子レベル,分子レベルで解明されつつある。しかし,これらのin vitroで の最新の知見が,どのように臨床における患者管理と結びつくのかに関する解明の程度は分野によって大きく異なる。本巻「基礎」は大きく「歴史」「麻酔の理 論」「解剖と生理」「免疫」「薬理」の5分野に分けて章立てを行った。これまでの臨床に必要な基礎関連の知識の整理を行うとともに,各分野において最近の 学会における話題を独立した章として,up to dateな話題も執筆していただいた。殊に「疼痛」「生体内情報伝達系」「免疫」さらに「pharmacokinetics」に関する研究は,ここ数年の 間に大きな進歩が認められる分野である。本書は麻酔科専門医を目指す麻酔科医を読者として企画されたものであるが,すでに専門医資格を取得している臨床麻 酔科医にとっても,これまで自分の有する麻酔関連基礎科学に関する知識の整理と最新の知見を知る格好の内容となっている。
終わりに,ご多忙にもかかわらず,期日内に充実した内容のある執筆をいただいた先生方に深謝いたします。また,本巻の出版に尽力いただいた克誠堂出版株式会社の編集部および制作部の皆様に感謝し,お礼を申し上げます。
2004年3月
編集者一同