神経障害性疼痛
臨床および研究上のどちらにおいても極めて重要な痛みである神経障害性疼痛。
その病態と発症メカニズム、疫学と分類、症候と診断、治療法などについて基礎から臨床までを網羅!
今回、IASPによって神経障害性疼痛の再定義がなされたことや、最近この分野の研究において大きな進展が見られていることなどを受けて、“神経障害性疼痛”を発刊することになりました。本書は、痛みの診療に携わる医師や若手の痛み研究者を対象として、神経障害性疼痛に必要不可欠な知識を体系的に記述することを目的としました。 (『はじめに』より)
I.神経障害性疼痛とはなにか(眞下 節)
はじめに
定義
病態的特徴と診断
発症メカニズム
II.神経障害性疼痛の発症メカニズムと病態を考える
1.基礎的研究と神経障害性疼痛
A 末梢神経・一次ニューロンの可塑的変化から見る神経障害性疼痛(福岡哲男、野口光一)
はじめに
変換器(トランスデューサ)
1 温度の変換器(thermal transducer)/
2 機械的刺激の変換器(mechano-transducer)/
3 化学的刺激の変換器(chemical transducer)
活動電位の伝播(action potential propagation)
1 電位依存性Na+(voltage-gated sodium)チャネル/
2 電位依存性K+(voltage-gated potassium)チャネル/
3 電位依存性Ca2+(voltage-gated calcium)チャネル
神経伝達物質/神経調節物質(transmitter/modulator)
病的状態での分子発現の変化
1 末梢組織炎症モデル/
2 神経障害性疼痛(neuropathic pain)モデル/
3 軸索障害を受けたA線維ニューロン/
4 軸索障害を受けたC線維ニューロン/
5 軸索障害を受けた未特定のニューロン/
6 軸索障害を免がれたニューロン
おわりに
B 脊髄・二次ニューロンの可塑的変化と神経障害性疼痛(井上和秀、津田 誠)
はじめに
ミクログリア
ATP受容体
脊髄ミクログリアP2X4受容体の役割
脊髄ミクログリアP2X4受容体の過剰発現メカニズム
おわりに
C 脳の可塑的変化と神経障害性疼痛(新井健一、下 和弘、西原真理、牛田享宏)
はじめに
ペインマトリックス
神経障害性疼痛における脳の可塑的変化
神経障害性疼痛における神経化学的・解剖学的変化
D 神経障害性疼痛と情動(南 雅文)
はじめに
行動薬理学的手法を用いた痛みによる不快情動の定量的評価
痛みによる不快情動生成における前帯状回の役割
痛みによる不快情動生成における扁桃体基底外側核および中心核の役割
痛みによる不快情動生成における分界条床核の役割
神経障害性疼痛と情動
おわりに
E 神経障害性疼痛と遺伝(中江 文)
はじめに
ナトリウムチャネル(Nav1.7)の異常
1 遺伝性肢端紅痛症(inherited erythromelalgia)/
2 paroxysmal extreme pain disorder
ファブリー病
遺伝性神経筋萎縮症(hereditary neuralgic amyotrophy)
家族性アミロイドポリニューロパチー(familial amyloid polyneuropathy)
遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチー(hereditary sensory and autonomic neuropathy:HSAN)type I
シャルコー・マリー・ツース病(Charcot─Marie─Tooth disease:CMT)
うつ病
先天性無痛症
1 先天性無痛無汗症(congenital insensitivity to pain with anhidrosis:CIPA)もしくはHSAN-IV/
2 先天性無痛症(hereditary sensory and autonomic type V:HSAN-V)/
3 SCN9Aチャネロパチー
まとめ
2.臨床から見た神経障害性疼痛の病態
A 神経障害性疼痛の診断(森脇克行)
はじめに
臨床的な概念と定義
1 概念の歴史/2 IASPの定義
ベッドサイドの問診と診察
1 一般診察と画像診断/2 質問票によるスクリーニング/
3 質問票と身体検査による診断法
詳細な神経学的検査
1 電気生理学的検査/2 定量的感覚試験/
3 皮膚生検/4 機能的脳画像診断
鑑別診断
まとめ
B 痛みの種類と特徴(小川節郎)
はじめに
言葉の定義
痛みの種類
1 神経障害性疼痛かどうかの段階的評価/
2 神経障害性疼痛に見られる痛みの種類と特徴/
3 神経障害性疼痛のスクリーニングツール/
4 心因性疼痛との鑑別/
5 神経障害性疼痛患者の痛みの表現
おわりに
C 痛みの測定・評価(有田英子、花岡一雄)
はじめに
痛みの測定
痛みの強さの測定法
1 主観的な方法/2 定量的測定法
多面的痛みの評価法
1 マギル痛み質問表(McGill pain questionnaire:MPQ)/
2 簡易型マギル痛み質問表(short-form McGill pain questionnaire:SF-MPQ)
おわりに
D 神経障害性疼痛と運動異常(柴田政彦)
はじめに─運動障害の診かた─
神経障害が運動神経にも及んでおり運動麻痺を伴う場合
1 神経根障害/2 神経束の障害/
3 多発性末梢神経障害/4 脊髄障害/5 脳障害
運動障害が痛みによる二次的な現象の場合
痙性、失調、不随意運動
大脳皮質運動野刺激による疼痛緩和
E 神経障害性疼痛と自律神経異常(佐藤 純)
はじめに
神経障害性疼痛モデルと交感神経
神経障害性疼痛モデルに見られる自律神経異常
ヒトの神経障害性疼痛と自律神経異常
おわりに
F 神経障害性疼痛と情動異常(平川奈緒美)
はじめに
痛みと不快情動
慢性痛と情動
痛みと情動に関係する中枢神経系の部位
神経障害性疼痛と情動
III.神経障害性疼痛の疫学(小幡英章、齋藤 繁)
はじめに
大規模疫学調査
1 イギリスでの調査/2 フランスでの調査/3 オランダでの調査
各種神経障害性疼痛の疫学
1 三叉神経痛/2 帯状疱疹後神経痛/
3 糖尿病性ニューロパチー/4 幻肢痛/
5 脊髄損傷後疼痛/6 脳卒中後疼痛/7 術後性疼痛/
8 癌性疼痛/9 多発性硬化症
おわりに─今後の疫学研究の展望─
IV.神経障害性疼痛の症候と診断
1.神経障害性疼痛
A 帯状疱疹後神経痛(比嘉和夫、生野慎二郎、仁田原慶一)
はじめに
定義と疫学
臨床像
治療
1 薬物療法/2 神経ブロック
帯状疱疹の発症防止
まとめ
B 糖尿病性ニューロパチー、薬物性ニューロパチー(井福正貴、井関雅子)
はじめに
糖尿病性ニューロパチー
1 概念/2 病態/3 臨床症状/4 診断/5 治療
薬物性ニューロパチー
1 概念/2 病態/3 症状と原因薬物/4 診断/5 治療
C 三叉神経痛(長櫓 巧、武智健一)
はじめに
疫学
臨床的特徴
診断および鑑別疾患
1 診断/2 鑑別を要する疾患
経過
病因
発症機序
1 末梢神経説/2 中枢神経説/3 末梢・中枢神経説
治療
1 治療の概略/2 薬物治療/3 侵襲的治療/
4 そのほかの治療上考慮すべき点
おわりに
D 幻肢痛(前田 倫)
はじめに
概念
発症機序
1 末梢説/2 脊髄説/3 neuromatrix理論/
4 reorganization説
症候
1 診断基準/2 頻度/3 領域/4 性質/
5 予後/6 増強因子/7 鑑別診断
検査
E 術後瘢痕性疼痛(佐伯 茂)
はじめに
術後瘢痕性疼痛の原因となる手術
術後瘢痕性疼痛の発生頻度
術後瘢痕性疼痛の発症機序
1 神経線維の切断、損傷/2 筋組織の切断、断裂/
3 痛みの悪循環の関与/4 素因/
5 精神的な要因の関与/6 その他
術後瘢痕性疼痛の所見と症状
1 手術創の跡、瘢痕組織の存在/2 痛みの性質/
3 感覚障害/4 随伴する症状
術後瘢痕性疼痛の原因となりうる代表的な手術
1 開胸術後の瘢痕性疼痛/2 乳房手術後の瘢痕性疼痛/
3 鼠径ヘルニア手術後の瘢痕性疼痛/
4 四肢切断後の瘢痕性疼痛/
5 脊椎手術後の瘢痕による腰痛
術後瘢痕性疼痛の治療方法
F 腕神経叢引き抜き損傷後痛(田中 聡、川真田樹人)
はじめに
原因
引き抜き損傷の解剖・生理
臨床症状
1 運動麻痺/2 感覚障害/3 自律神経障害/
4 疼痛と感覚異常
診断
1 Tinel徴候/2 ホルネル徴候/
3 神経根近傍から分枝する神経の障害/4 軸索反射/
5 画像検査/6 電気生理学的検査
疼痛に対する治療
1 薬物療法/2 脊髄後根進入部(DREZ)破壊術/
3 脊髄電気刺激(SCS)療法/4 外科的手術による疼痛変化
おわりに
G 脊髄損傷後疼痛(益田律子)
はじめに
SCI痛の現状
SCI痛の病態
1 SCI痛における侵害受容性疼痛/
2 SCI痛における神経障害性疼痛(狭義のSCI痛)
SCI痛治療の進め方と薬物療法
1 基本的指針/2 合併症対策/
3 薬物療法と薬物療法アルゴリズム
薬物療法以外の治療
1 理学療法、リハビリテーション/2 視覚療法(鏡療法)/
3 電気刺激療法/4 外科的神経破壊術/5 将来のSCI痛治療
その他、SCI痛にかかわる諸問題
1 SCI痛と心理社会的側面/2 SCI痛とリハビリテーション/
3 SCIと社会資源の活用
おわりに
H 脳卒中後疼痛(山本隆充、片山容一)
はじめに
脳卒中後疼痛とは
脳卒中後疼痛発症のメカニズム
脳卒中後疼痛の薬理学的評価の目的
脳卒中後疼痛に対する薬理学的評価の方法
まとめ
2.神経障害性疼痛の周辺疼痛
A 複合性局所疼痛症候群(阪上 学)
はじめに
神経障害性疼痛の中での位置づけ
CRPS判定指標
小児のCRPS
バイオマーカーとCRPS
CRPS治療
おわりに
B 非定型顔面痛(川股知之)
はじめに
定義・症状
原因
診断
治療
1 薬物療法/2 神経ブロック・手術療法/3 精神・心理学的治療法
C 神経障害性腰下肢痛(豊川秀樹、大瀬戸清茂)
はじめに
神経障害性腰下肢痛を起こす疾患
1 腰部脊柱管狭窄症における馬尾障害/
2 脊髄くも膜炎(FBSS)/
3 腫瘍性疾患/4 円錐上部・円錐症候群/
5 脊髄係留症候群(終糸症候群)
D 線維筋痛症(三木健司、行岡正雄)
はじめに
線維筋痛症の病態
診断
治療
われわれの投薬治療
認知行動療法
3.侵害受容性疼痛との鑑別(深澤圭太)
はじめに
侵害受容性疼痛との鑑別
診察所見
定量的感覚テスト(QST)
他覚検査所見
4.心因性疼痛との鑑別(福井弥己郎(聖)、岩下成人)
はじめに
心因性疼痛の定義─DSM-Ⅳ-TRとICD-10─
心因性疼痛を呈する可能性のある精神疾患
疼痛性障害と慢性疼痛
神経障害性疼痛との鑑別
心因性疼痛の評価の方法
1 評価を始める前に/2 疼痛とその障害病歴の把握/
3 心理社会的病歴の把握/4 心理的診察/5 心理テスト
脳科学から見た疼痛性障害
V.神経障害性疼痛の治療
1.薬物療法
A 抗うつ薬(表 圭一)
はじめに
抗うつ薬の鎮痛機序
1 中枢性機序/2 末梢性機序
抗うつ薬の種類と特徴
神経障害性疼痛に対する抗うつ薬の効果
まとめ
B 抗てんかん薬(山本達郎)
はじめに
α2δサブユニット遮断薬
α2δサブユニット遮断薬以外の抗てんかん薬
C オピオイド鎮痛薬(齊藤洋司、橋本龍也)
はじめに
オピオイドの鎮痛作用機序
治療の実際について─国際疼痛学会の推奨─
オピオイド鎮痛薬とほかの薬物との組み合わせ治療
慢性非癌性疼痛に対するオピオイドの有効性、安全性
D ケタミン(関山裕詩)
はじめに
ケタミンの構造と鎮痛効果
神経障害性疼痛におけるNMDA受容体の意義
使用法と問題点
対象疾患と各種ガイドラインによる位置づけ
おわりに
E 抗不整脈薬(米本紀子、森本昌宏)
はじめに
リドカイン
メキシレチン
フレカイニド
おわりに
F α2作動薬(米本紀子、森本昌宏)
はじめに
アドレナリン受容体と痛みについて
1 一次求心性神経とα受容体/2 脊髄でのα受容体
α作動薬と神経障害性疼痛での適応
1 クロニジン(カタプレス(R))/
2 デクスメデトミジン(プレセデックス(R))/
3 チザニジン(テルネリン(R)など)
おわりに
G 抗不安薬(松村陽子)
はじめに
ベンゾジアゼピン系薬物
1 薬理作用/2 臨床効果/3 副作用/4 臨床使用方法
アザピロン誘導体
まとめ
H 非ステロイド性抗炎症薬(飯田良司、加藤 実)
はじめに
特徴
選択的COX阻害薬
ヒトで報告された有効性
動物で報告された有効性
おわりに
I ステロイド(飯田良司、加藤 実)
はじめに
概説
副作用
帯状疱疹後神経痛に対する作用
脊髄神経根性痛に対する作用
複合性局所疼痛症候群(CRPS)に対する作用
おわりに
J 漢方薬(井上隆弥)
はじめに
CRPSとは
急性期CRPS症状
中間期CRPS症状
慢性期CRPS症状
おわりに
K 将来に期待できる疼痛治療薬(南 敏明)
はじめに
グルタミン酸受容体、NO関連の薬物
アクロメリン酸誘導体
Ca2+チャネルα2δリガンド
おわりに
2.神経ブロック療法(信太賢治、増田 豊)
はじめに
神経ブロック療法とは
神経ブロックの意義
1 末梢性感作の予防/2 中枢性感作の予防/
3 末梢知覚神経ブロックのもう一つの意義/
4 交感神経ブロックの効果/5 運動神経ブロックの効果/
6 痛みの悪循環回路の遮断
神経障害性疼痛に対する神経ブロック
1 神経ブロックの診断的価値/2 各疾患における神経ブロック
おわりに
3.神経電気刺激療法
A 末梢神経刺激療法(村川和重、森山萬秀)
はじめに
鎮痛機序
臨床応用
治療の実際
B硬膜外脊髄電気刺激療法(村川和重、森山萬秀)
はじめに
鎮痛機序
臨床応用
1 脊髄神経根の病変/2 末梢神経の病変/3 中枢神経系の病変
治療の実際
C 脳刺激療法(齋藤洋一)
はじめに
脳深部電気刺激療法(DBS)
大脳運動野電気刺激療法(MCS)
反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)
1 rTMSのパラメータ/2 rTMSの副作用/
3 rTMSの有効率と効果持続時間/4 MCS、rTMSの除痛機序/
5 rTMSの治療法としての可能性
4.心理学的治療法
A 一般心理療法(細井昌子)
はじめに
神経障害性疼痛の痛みの特徴と患者の苦悩
神経障害性疼痛に対する一般心理療法
神経障害性疼痛に対する動機づけインタビュー
おわりに
B 認知行動療法(有村達之、細井昌子)
はじめに
オペラント条件づけプログラムとストレス免疫訓練
痛みの悪循環と痛みの認知行動療法
1 再概念化/2 技能の習得段階/3 技能の強化段階/
4 技能の般化と維持の段階
神経障害性疼痛と認知行動療法
おわりに
5.電気痙攣療法(米良仁志、土井永史)
はじめに
必要な器具
手技の実際
施行間隔と施行回数
治療効果の特徴と持続期間
疼痛患者に対するECTの麻酔
ECT治療器について
ECTの鎮痛機序
おわりに
6.リハビリテーション
A 理学療法(小山哲男)
はじめに
疼痛の評価
運動・感覚の評価
1 下肢機能の評価/2 上肢機能の評価/
3 脊髄損傷患者の評価/4 脳卒中患者の評価
ADLの評価
おわりに
B 運動・作業療法(田邉 豊)
はじめに
治療目標
運動・作業療法の開始
1 患者の治療意欲の向上/2 医師と療法士の連携/
3“痛み”のコントロール/4 二次的に生じる痛みや異常姿勢・運動の対策
運動・作業療法の開始時期と評価
運動・作業療法の方法
1 神経ブロック併用療法/
2 運動による誘発痛を引き起こさない関節運動を行う運動療法
おわりに
C 神経リハビリテーション(住谷昌彦、宮内 哲、山田芳嗣)
はじめに
体部位再現地図(somatotopy)と神経障害性疼痛
高次脳機能(知覚─運動協応と神経障害性疼痛)
おわりに─神経リハビリテーションの今後の展開─
7.神経再生療法(稲田有史)
はじめに
場の理論と生体内再生治療
臨床応用の課題について
1 PGA-Cチューブ内での神経再生の証拠は/
2 PGA-Cチューブは自家神経移植の代用となるのか/
3 運動神経回復と血行再建/
4 神経障害性疼痛患者、CRPS患者に対する臨床応用
神経障害性疼痛患者、CRPS患者に対する生体内再生治療の概要と適応
現時点での治療対象と対象外患者
神経障害性疼痛、CRPS患者に対する生体内再生治療の問題点
おわりに─最近の話題─
8.集学的治療(住谷昌彦、山田芳嗣)
はじめに
神経障害性疼痛の集学的診断
神経障害性疼痛の集学的治療
1 疼痛強度の緩和/2 日常生活活動度の向上
おわりに