やさしいマイクロサージャリー
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要旨
私がマイクロサージャリーに初めて接した頃,マイクロサージャリー手術といえば,「暗い,つまらない,長い」手術と決まっていました。いつ終わるのかわ からなくて,術者だけが興奮しているのですが,助手やナース達は一体いつ終わるのだろうかなどと考えながら付き合っている,そんな印象でした。だから,マ イクロサージャリーをやっている手術室にはなるべく近づかないようにさえしていたものです。やっと,終わったかと思うとその夜か翌日には手術室に逆戻り。 マイクロサージャンというのは体力の要る仕事だというのが,正直な感想でした。
ところが,何の因果か自分がマイクロサージャリーの道を選んでしまい,サンフランシスコのHarry Buncke先生の元へ勉強に出た時,マイクロサージャリーとは決して「暗く,つまらなく,長い」手術ではなく,時には「明るく,楽しく,短い」手術でも あり,そこには他の手術法では到達できない大きな喜びと成果があることを知りました。今でも時にはマイクロサージャンとなった自分の不幸を嘆きたくなるよ うな時もありますが,マイクロサージャリーに出会えてよかったと思う時もたくさんあり,それは何にも代えがたい喜びとなっています。嫌なことがたくさんあ るのは人生の常ですが,顕微鏡の中をのぞいているときには自分だけの庭を散歩しているような気持ちになれます。血栓を取り除いたり,どの血管につなごうか と探している時は,庭の雑草を取り除いたり,どんな木を植えてどんな花を咲かせようかと考えているのに似ている気もしないではありません。そんなマイクロ サージャリーの喜びを伝えたくてこの本を書くことにしました。
学会などでは次々に新しい皮弁が報告されていますが,どんどん簡単になっているのではなく,より複雑に,より高度な方法が報告されています。マイクロ サージャリーだけを主な仕事としているわけではない先生方のうちで,このような難しい皮弁を選んで苦労された経験はありませんか。マイクロサージャリーを 始めて経験が浅かったり,年に数例しか症例のない施設で「最近はやりの皮弁」を選択したりすると時には痛い目に会い,「やっぱりマイクロサージャリーは暗 くてつまらなくて長い手術だ。」ということになります。マイクロサージャリーはうまくいけば劇的な変化をもたらしますが,不幸にも良い結果が得られなけれ ば患者さんにも術者にもスタッフにも大きな苦痛をもたらす方法なのです。
マイクロサージャリーを「明るく楽しく短い」手術に少しでも近づけるのが本書のねらいです。ですから,マイクロサージャリーだけを主な仕事としているわ けではないドクター,あるいは経験症例が30例以下のドクターを対象にこの本を作りました。したがって,この本で扱う内容の選択基準は「簡単か,確実か, 犠牲が少ないか」の3点に絞ってあり,最近はやりの皮弁でも触れられていないものはいくつもあります。形成外科医,整形外科医,皮膚科医,耳鼻科医,外科 医など関係する診療分野はとても幅広いと思います。「血管は縫えるようになったけど皮弁はちょっと」,そんな方たちが「確実に安全な」方法として,この本 を参考にマイクロサージャリーを治療法の選択肢に入れていただければ著者としてこれ以上の幸せはありません。
この本の刊行にあたり多くの友人の助言・アイデアを頂きました。これらの皆様方にアインシュタインの言葉を添えて感謝いたします。
A hundred times everyday I remind myself that my inner and outer life are based on the labors of others.
わたしは,一日100回は,自分にいい聞かせます。わたしの精神的ならびに物質的生活は,他者の労働の上に成り立っているということを
特に,ものぐさな私をして,足掛け3年がかりでこの本がなるにあたって,克誠堂出版の大澤王子さんには大変な御尽力を頂きましたので深く感謝いたしたいと思います。
2004年 春
平瀬雄一
はじめに
Introduction
序章:やさしいマイクロサージャリーに必要なこと
再建方法の選択と準備
手術計画と実行
chapter1:Temporal Fascia Transfer
第1章:側頭筋膜弁
解剖
手技1(TPFのみを採取する)
手技2(TPFとDTPを同時に採取する)
利点・欠点・注意点
応用
chapter2:Latissimus Dorsi Muscle Transfer
第2章:広背筋皮弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
応用I
応用II
chapter3:Serratus Anterior Muscle Transfer
第3章:前鋸筋弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
chapter4:Abdominal perforator flap
第4章:腹壁穿通枝皮弁(腹直筋皮弁)
解剖
手技
利点・欠点・注意点
応用
chapter5:Scapular Flap
第5章:肩甲皮弁(肩甲骨移植)
解剖
手技1―皮弁のみを挙上する
手技2―骨付き皮弁を挙上する
利点・欠点・注意点
応用
chapter6:Lateral Upper arm Flap
第6章:外側上腕皮弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
応用
chapter7:Radial Forearm Flap
第7章:橈側前腕皮弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
応用I
応用II
chapter8:Groin Flap
第8章:鼠径皮弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
応用
chapter9:Tensor Facia Lata Flap
第9章:大腿筋膜張筋皮弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
chapter10:AuteroLateral Thigh Flap
第10章:前外側大腿皮弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
応用
chapter11:Gracilis Muscle
第11章:薄筋皮弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
応用I
応用II
chapter12:Fibla Transfer
第12章:腓骨皮弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
応用
chapter13:Dorsalis Pedis
第13章:足背皮弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
chapter4: Extensor Digitorum Brevis Muscle Transfer
第14章:短趾伸筋弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
chapter15:Medial pLantar Flap Transfer
第15章:内側足底皮弁
解剖
手技
利点・欠点・注意点
応用
chapter16:Toe Transfer
第16章:足指移植
解剖
手技
注意点I
注意点II
応用I
応用II
Postoperative management
終章:術後管理および患者への説明
momorandum
知覚皮弁がほしい!?
骨皮弁がほしい!
End to end? End to side? or Side to side?
やさしい端側吻合の実際
瘢痕拘縮を作らないためには
採取部での犠牲を最小限にとどめるには
採取部のトラブルで多いのは
複数の皮弁を組み合わせたい
筋皮弁にこだわるな:筋弁と植皮の組み合わせの有用性
医用ヒルはどう使う
最も薄い皮弁は?
奇数日の恐怖
ドレーンは上手に使おう
無駄はしてもよいが無理はしない
Circle the wagon before you shoot
マイクロサージャリ―を好きな人・嫌いな人
参考文献