ADVANCE SERIES I-4 皮弁移植法:最近の進歩【改訂第2版】
改訂第2版 序
本書の初版を上梓してから9年になり,この間,皮弁の進歩は日進月歩である。初版の序に「多くの人に読まれると同時に,さらなる進歩により早く役目を終えることを期待する」と記したが,幸いにも第2版を出すこととなり複雑な気持ちである。旧稿にはなるべく最新の情報を盛り込むと同時に,新たに,穿通枝皮弁,皮弁の微小循環,expanded free flap,内視鏡による皮弁採取,の4編を追加した。いまだに皮弁の名称,概念や分類には混乱があり,混沌としているが,これは新しい皮弁,新しい方法論を生み出すための仮説作業であり,さらに基礎研究,臨床経験を重ねて発展させていただきたいと考えている。本書が皮弁の研究と臨床に少しでも役に立てば幸いである。
2002年7月
名古屋大学医学部形成外科学教室
鳥居 修平
初版 序
われわれが形成外科医になった頃は遊離植皮が主流であり,皮弁の種類もあまり多くなかった。しかし,最近では新着の雑誌を開くと,新しい皮弁が次から次へと報告されており,臨床医としてはそれらから目が離せない現状である。
皮弁の歴史は遠く古代インドまで遡ることができるが,皮弁の新しい幕開けは McGregor の random pattern flap, axial pattern flap の概念の提示から始まると考えてよいであろう。その後,遊離皮弁,筋皮弁,筋膜皮弁,逆行性皮弁,septocutaneous flap, angisomes, venous flap, neovascularized flap などの概念が発表され,新しい皮弁の開発に大きく貢献している。そして,さまざまな皮弁を駆使することにより,外傷では四肢切断をまぬがれ,治療期間の短縮が可能になった。また,腫瘍の分野では四肢の患肢温存手術が主流となり,頭頸部領域では拡大手術が可能となり,一方では患者の QOL に大きく貢献している。このような近年の皮弁の進歩が,外科学における形成外科学の地位を不動のものにした,と言っても過言ではないであろ。
本書では「皮弁移植法:最近の進歩」ということで,最近の皮弁移植研究の成果を網羅したつもりである。次々と発表される皮弁のため,その名称と分類は著者により異なり,混乱があるが,それぞれの意図を理解することは大切である。しかし,学問の進歩のためには統一が必要であり,名称については皮弁の血行,構成,移動方法を記号化し,組み合わせたシステマティックな命名法があればと思う。また,形成外科医のための,従来の血管解剖の見直し,研究が求められているが,今回は含めることができなかったのは残念である。一方では,このように多くの皮弁をいかに症例に応じて的確に選択するか,ということも大切である。また,皮弁作製の手技の難易度を評価しておくことも,教育のために必要であろう。まだまだ入れたかった論文もあり,また出版が遅れ,やや古くなってしまった論文もあり,その点お詫びしたい。
この分野は今後まだまだ発展すると思われる。そのためには基礎的な実験・研究,新たな概念の提示,従来の血管解剖の見直し,分類の整理など,多くの課題が残されている。本書を読むことにより,最近の進歩を知ると同時に,今後の発展のための課題を見つけて頂きたいと念願する。本書は多くの人に読まれると同時に,さらなる進歩により早く役目を終えることを期待する。
1993年10月
名古屋大学医学部形成外科学教室
鳥居 修平
【I】皮弁の基礎
1.新しい皮弁の概念と分類(I)(丸山 優,澤泉雅之)
はじめに
A.皮膚血行
B.皮弁の構成成分
2.新しい皮弁の概念と分類(II)(佐藤兼重)
はじめに
A.新しい皮弁の概念
B.新しい皮弁の分類
C.その他の新しい皮弁
D.考察
3.穿通枝皮弁の概念 (光嶋 勲,難波祐三郎)
はじめに
A.概念
B.穿通枝皮弁に関連した新しい用語
C.穿通枝皮弁の歴史
D.穿通枝皮弁の海外における現状
E.代表的な各種の穿通枝皮弁
F.症例
G.遊離皮弁の今後の展望
H.狭義の遊離穿通枝皮弁の適応
4.持続動注による皮弁拡大と安全性向上の試み (松尾 清)
はじめに
A.概念
B.解剖
C.手技
D.術後管理
E.症例
F.考察
5.皮弁生着向上の工夫(中島龍夫)
はじめに
A.生着向上についてのこれまでの報告
B.われわれが行っている皮弁生着向上の実験と臨床成績
C.考察
6.皮弁の微小循環 (市岡 滋)
はじめに
A.概念
B.微小循環の生体計測
C.測定と解析
D.皮弁微小循環における最近のトピック
E.新しい実験モデル
F.微小循環可視化皮弁モデルの有用性と可能性
7.人工血管による組織移植の試み (本田隆司,野﨑幹弘)
はじめに
A.材料と方法
B.結果
C.考察
8.皮弁壊死の予防と対策…66 (鈴木茂彦)
はじめに
A.皮弁壊死のメカニズム
B.皮弁血行モニタリング
C.外科的 delay
D.薬剤その他による皮弁壊死予防(chemical delay)
E.薬剤による虚血再灌流障害予防
F.その他の皮弁壊死予防手段
【II】 皮弁の臨床(1)
9.菱形皮弁の変法 (梁井 皎)
はじめに
A.概念
B.代表的な菱形皮弁
C.Flexible rhombic flap の原理と作図
D.ラバー・フォームを用いたモデルによる各種菱形皮弁の比較
E.症例
F.考察
10.瘢痕皮弁 (百束比古)
はじめに
A.概念
B.解剖と術前評価
C.皮弁形態の選択
D.部位別の有用な瘢痕皮弁
E.術後管理
F.症例
G.結果
H.考察
11.逆行性皮弁(鳥居修平)
はじめに
A.概念
B.静脈還流について
C.術前の評価
D.手技
E.術後管理
F.症例
G.考察
H.展望
12.Venous flapとその臨床 (中山凱夫)
はじめに
A.分類
B.症例
C.考察
13.MVP flapとPrefabricated flap(長谷川隆,新冨芳尚)
はじめに
A.概念と解剖
B.動物実験における評価
C.手技
D.術後管理
E.症例
F.考察
14.Expanded flapのfree flapへの応用(竹内正樹,佐々木健司,野崎幹弘)
はじめに
A.適応
B.手技
C.術後管理
D.症例
E.考察
15.Thin flapの概念と薄層拡大広背筋皮弁 (中嶋英雄)
はじめに
A.概念
B.解剖
C.手技
D.症例
E.考察
16.Thinning flap:腹直筋皮弁(秋月種高,山田 敦)
はじめに
A.血管解剖
B.作図とthinningの実際
C.症例
D.考察
17.遊離皮弁の新しい展開 (高戸 毅,波利井清紀)
はじめに
A.再建に用いられる皮弁
B.皮弁への操作
C.皮弁の移植法の進歩
D.新たな皮弁の作成
E.静脈皮弁(venous flap)
F.血管吻合器
G.皮弁のモニタリング
H.同種移植(allograft)
18.Free groin flap (佐々木健司,野﨑幹弘)
はじめに
A.概念
B.解剖
C.術前の評価
D.手技
E.術後管理
F.症例
G.考察
19.内視鏡による皮弁採取法 (亀井 譲,鳥居修平)
はじめに
A.概念
B.解剖
C.術前の評価
D.手技
E.術後管理
F.症例
G.考察
【III】 皮弁の臨床(2)
20.Cancer surgeryにおける皮弁移植 (中塚貴志,波利井清紀)
はじめに
A.概念
B.解剖と手技
C.術前の評価
D.術後管理
E.症例
F.考察
21.側頭部の解剖と皮弁への応用 (秦 維郎)
はじめに
A.側頭部解剖
B.皮弁への臨床応用
C.考察
22.皮弁による最近の胸壁・乳房再建 (野平久仁彦,新冨芳尚)
はじめに
A.概念
B.解剖
C.術前の評価
D.手技
E.術後管理
F.考察
23.手における新しい皮弁―指間形成術― (関口順輔)
はじめに
A.指間の水かきの特徴ならびに手術方法の基本概念について
B.考察
24.大【腿】部の皮弁 (光嶋 勲)
はじめに
A.概念
B.解剖
C.術前の評価
D.手技
E.術後管理
F.症例
G.考察
25.膝周辺の皮弁 (林 明照,丸山 優)
はじめに
A.概念
B.解剖
C.術前の評価
D.手技
E.術後管理
F.考察
G.追補:大【腿】二頭筋短頭筋弁
26.下【腿】における皮弁・筋膜皮弁(林 祐司)
はじめに
A.概念
B.解剖
C.術前の評価
D.手技
E.術後管理
F.症例
G.考察
27.下【腿】における筋弁の応用と長期成績(児島忠雄)
はじめに
A.概念
B.術前の評価
C.手技
D.術後管理
E.症例と成績
F.考察
28.足底皮弁とその長期成績 (宮本義洋)
はじめに
A.概念
B.解剖
C.手技
D.術後管理
E.症例
F.長期成績
G.考察
索 引…257