論文を書いてみよう!
はじめに~本書の狙い~
本書は医師や看護師をはじめとして、医学関係者を対象と考えて執筆しました。内容は、「論文の書き方」で、論文の元となる研究自体のことはテーマとしていません。そちらは領域によって違いすぎ、私の手に余ります。
しかし、「論文として書く材料はできた」場合、その先は領域の差は比較的小さいので、「論文の書き方」が通用すると考えます。
医学生や看護学生は、学生時代に「レポートを書く」トレーニングが比較的乏しいグループに属します。比較のために説明すると、他の学部の学生たちは卒業 論文(卒論)を書くのがふつうです。さらに、医学生と同年代の修士課程の学生は、その途中で何度もレポートを書かされ、その上に卒論(修士論文)を書いて 修士になります。
一方、医学生や看護学生は、卒業の時点では卒業試験と国家試験に忙しいのが通例で、「論文を書く」テストを課される機会はごく少ないようです。ですか ら、論文を書きたい場合は医師や看護師の資格をとって仕事についてから積極的に勉強して書き方をマスターする必要があります。
本書の狙いは、「論文を書く内容はすでにある」つまり現在実験や調査が完了に近い、他の論文も少し読んだ、研究会では発表したという段階にあって、「で も論文は書いたことがない」、「論文の書き方がわからないので書く気になれない」という状況にある方々に手をさしのべたいという点です。
この中には、学位論文も含みます。学位論文については、特に項目を設けて少し詳しく述べますが、「ぜひ必要」や「ぜひ書きたい」場合も多いのに、誰でも「初めて書く」ものであり「未経験者」ですから、むずかしいのです。
論文を少し書いたことはあるけれど、ひどく骨が折れたので「もう御免だ」とか「もう少し楽に、じょうずに書きたい」とお考えの方、「前の論文の出来栄えが不満で、こんどはもう少しすっきり書きたい」とお考えの方も読者に想定しています。
本書で扱う論文は、言語は原則として日本語です。英語で書いて英語の雑誌に投稿する問題は除外します。ただし、基本の考え方は同一ですから適用できない わけではありません。ほんの少しだけ英語の問題を扱う章を設けましたが、そちらはまったくの初歩だけです。
本書では扱わない問題
本書では扱わないテーマも書いておきます。本書は、練達の方々を対象とはしていないので、「論文をたくさん書いたのをどう整理するか」は扱いません。そ れから、どうやって超一流雑誌に載せるか、インパクトファクターの点数をたくさん稼ぐかも問題にしません。
雑誌は多いのに、どれも掲載論文が少なくて嘆いています。読者の方も「おもしろい論文を読みたい」と考えていないでしょうか。それを他人に任せずに自分で書きましょう。
本書を読んで「論文ってこういう風に書けばいいのか」、「材料はそろっているから、これにならって書いてみよう」という方が多く出てくれることを期待しています。
諏訪邦夫
帝京大学
はじめに
序章…1
1.世に知らしめるには発表が必要
2.ベートーヴェン式で行こう
3.文章を書く手順と練習
4.投稿雑誌をどう決めるか
5.日本語論文の意義は専門医の資格に
6.学位論文が特にむずかしい理由
囲み記事:小説家とピアニストの苦労
第1章
1.論文は「目次」から書く
2.投稿論文のコンポーネントは30以上
3.実際に必要なもの
4.論文を書くプロセス:コンポーネントごとに手を加える
5.論文に書いてはいけないこと
第2章
1.積極的にまねをする
2.文章はメモから書く
3.文章自体のテクニック
4.序論の書き方
5.方法の書き方
6.結果の書き方
7.考察の書き方
8.要旨の書き方
9.図表の書き方
10.参考文献の書き方
11.タイトルには発見自体を
12.投稿原稿につける手紙と投稿手順
第3章
1.症例報告
2.短報
3.解説と総説
囲み記事:ブルックナー、マーラーにみる「発表の機会」
第4章
1.目次とファイル連携はパソコンの最大の利点
2.テキストかMS-Wordかの問題
3.PubMedの使用
4.自分が以前に書いた論文の活用
5.OCRは入力装置として使える
6.出力とパソコン:機械的に仕事した例
7.「論文作成ソフト(エンドノート)」を使う
8.キーを打てるのは大前提
9.投稿全体の電子化
第5章
1.何とか自力で書いてみる
2.自分の近辺で探す
3.プロに依頼する
第6章
1.印刷の効用
2.雑誌を3つ準備
3.完了して次の仕事に進みたい
囲み記事:精神のスタミナ
第7章
1.査読とは何か:全体と個別と
2.何とかして追加の実験を逃れる
第8章
1.校正:面倒だけれど嬉しい仕事
2.別刷請求
3.論文執筆と研究費申請の関係
4.論文執筆から著書へ
おわりに