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周術期の心筋虚血

B5判・218頁
定価6000円
ISBN4-7719-0112-0

【書籍名】周術期の心筋虚血
【品番コード】00112
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編者序

海外特に欧米で活躍された,あるいはされている日本人麻酔科医が帰国してほとんど異口同音に言われることは「日本の手術患者は一般に術前状態,特に循環器系の状態がいい」ということである。私も3年ほど米国で麻酔科レジデントおよび客員教授として実際に手術患者の麻酔,術後管理,ICUでの診療などをした経験があるが,実感としては確かに同じ高齢者でも循環器特に心臓の状態や予備力に対する懸念が日本で日本人に麻酔をかけるよりも格段に強かった記憶がある。日米間に本当にそれほどの違いがあるかどうかを数値で比較する一助として,徳島大学附属病院での統計を紹介する。1963〜1990年の28年間にわたって行われた心臓手術以外の麻酔46,247例のうち,術前心筋梗塞の診断を受けたことのある患者数は107人(0.23%)であった。これは古い統計ながら(最近の報告が手元にないので,最近米国では減少傾向にあると聞いてはいるが)Tarhanら1):1.28%やSteenら2):0.80%と単純に比較してみると格段に低い。1年ごとに非心臓麻酔例数に対するパーセントで表して経過を追ってみると図のようになった。梗塞経験者は1983年ごろから急増し,最近ではやや落ちつきを取り戻す徴候もうかがえるが,全体としての増加傾向は確かである。恐らく食習慣の変化や社会的ストレスの増加に主因があるのだろうし,また診断技術の向上が見かけ上の増加になった部分もあるかもしれない。これは徳島地方の統計にすぎないが,先に行った調査3)では最近数年間の数値が他施設の報告と必ずしも大差がなかったことから,わが国の状況の一端を示すと考えられる。米国の報告に比べて率も低いが,それ以上に私が痛感するのは重症度の違いである。多数例について重症度ごとに比較した報告がないので明言するのは軽率かもしれないが,実感としてはそうなのである。

しかし,だからといってわが国では虚血性心疾患をあまり心配せずに麻酔や術後管理をしていいかと言うとそうはいかないだろう。頻度は低くとも重症の虚血性心疾患を持ちながら開腹術を受ける人もあるし,心筋梗塞を起こしてCCUに収容される人もいる。油断すれば重大な結果を招きかねないのは洋の東西を問わず共通である。臨床医としても研究者としても重大な関心を払わざるをえない。私の記憶が正しければ,日本麻酔学会総会において「心筋虚血を有する患者の麻酔」が,題名はいろいろだが,3回シンポジウムに取り上げられたことがある。また,冠循環に関する基礎的な仕事は麻酔科領域でもかなりの積み重ねがあるように思う。それらの流れを踏まえ,最近とみに活発さを増した欧米各国における研究業績を参考にし,各執筆者に手持ちのデータと知識を披瀝して頂いて,本書をまとめあげることを志した次第である。この領域に興味をお持ちの研究者のみならず広く臨床麻酔科医のお役に立つことを念願している。
1991年8月
斎藤隆雄

目次

第1章 冠硬化症 藤浪隆夫 1

1.冠動脈の解剖と生理 1
2.冠硬化症の成因 6
3.心筋虚血の診断 10
4.急性心筋梗塞 26
5.周術期の心筋虚血 28

第2章 周術期心筋虚血の発生機序と予防 熊澤光生ほか 33

1.心筋酸素需給関係から 33
2.硬化性冠血管の収縮による虚血の発生 35
3.冠盗血(coronary steal)による虚血の悪化 38
4.冠血管内血栓形成に与える影響 39
5.症例報告の検討から 40
6.まとめ 47

第3章 心筋虚血と麻酔 劒持 修ほか 54

1.術前評価 55
2.術中管理 58
3.術後管理 76
4.結語 77

第4章 術中心筋虚血の早期診断−経食道心エコー法− 北畑 洋 80

1.心筋虚血と壁運動 80
2.壁運動の評価 81
3.経食道心エコーによる術中心筋虚血の診断 86
4.冠動脈再建術中の心筋虚血発生時期 87
5.局所心機能の定量化 90
6.壁運動評価の問題点と限界 94
7.経食道心エコーによる他の心筋虚血の指標 96
8.心筋コントラスト心エコー法 98

第5章 治療 公文啓二 110

1.PMI早期発見のためのモニター 110
2.PMIの背景 113
3.周術期における冠動脈スパスムについて 116
4.PMIの予防対策 120
5.治療 121

第6章 補助循環の応用 中谷武嗣ほか 132

1.各種補助循環法 132
2.当施設における周術期の補助循環症例 145
3.臨床応用の現況 151
4.周術期における補助循環を用いた心原性ショックの治療体系 152
5.結語 155

第7章 問題点と補遺 斎藤隆雄 158

主題1 冠盗流(または冠盗血,ここでは冠盗流:myocardial steal)についてのBeckerのモデル 158
主題2 狭窄部抵抗に及ぼす濯流圧の影響 160
主題3 Critical coronary stenosisとは 162
主題4 表在性冠動脈流速波形から見た冠拡張薬 162
主題5 左室心筋組織血流の観察方法 165
主題6 胸部硬膜外麻酔は心筋組織内外層血流比を変えない 166
主題7 動脈血炭素ガス分圧下降は心筋の酸素供給/需要バランスを変化させる 166
主題8 心拍数増加は心筋酸素需給バランスに重大な影響を及ぼす 169
主題9 吸入麻酔薬の影響 171
主題10 心臓の壁運動を観察することの意義 178

索引 183

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