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麻酔の危機管理

DAVID M. GABA, KEVIN J. FISH, STEVEN K. HOWARD著
国立小児病院麻酔・集中治療科医長
宮坂勝之 訳・補遺

B5判・392頁・本体価格:8,000円・1995年
ISBN4-7719-0164-3

【書籍名】麻酔の危機管理
【品番コード】00164
購入数

著者序

本書の対象者

本書は麻酔に従事するすべての医療関係者を対象としている。看護麻酔士と麻酔科医の間の政治的な駆け引きや摩擦もあるが,それは本書の目的とはまったく 無関係である。われわれの教育の中心原則は,個人で麻酔を行う場合でも他の医療チームのメンバーと共同で仕事を行う場合でも,麻酔の際には,患者のそばに いる人はすべて危機的場面に十分対応できる高い技能を有するべきだということである。チームのリーダーシップに関しては,麻酔医療チームの名目上の長であ る麻酔科医が最も重要であると思われる。しかし,危機的状態を最適に管理するためには,チームのメンバー全員の協調が必要であることを強調したい。「麻酔 の危機管理」は経験を積んだ医師と研修医の両方を対象とした。ここに示した概念は,今まで麻酔科医に十分に教えられてきた事項ではなく,日々の臨床実務で は容易に学べない内容であることを強調したい。経験の浅い麻酔科医は,これらを早く学んで日常臨床の一部としたいと思うはずである。

ちょうどパイロットが,飛行経験年数にかかわりなく危機管理技能を繰り返しトレーニングし実践しなければならないように,麻酔専門医も常に現存のルーチンを検討し強化する必要がある。

本書の概要

「麻酔の危機管理」では,従来の医学書や麻酔の教科書とは異なった論点を中心に考察している。麻酔に関する他の書物では,もっぱら患者の正常または異常 な生理学的状態,あるいは,薬剤や機器の技術的および臨床上の特性を扱っているが,本書では主として麻酔科医の「考え方」を中心に述べる。薬理学者が「完 全な」麻酔薬を合成しようとするのと同じように,また,エンジニアが「フェイルセーフ(安全機構付き)」装置を作ることを目的とするのと同じように,われ われは安全な患者医療の流れの中で最も重要な要素である麻酔科医自身の遂行能力を最適化できる努力を行っている。

本書は麻酔での危機管理の手引書である。初めの2つの章では,理想的な麻酔科医の専門知識の構成要素に関して分析する。理想的な麻酔科医は,「内部の指 導者」の適切な監督のもとに,反復して観察,決断および行動の過程を経験する。麻酔科医は自分自身の行動の管理に加え,一緒に患者医療に従事しているチー ムの各人を管理することも必要である。これらの章に示してある資料は,実際の航空会社のパイロットの正規トレーニングの一部である「搭乗員の処理能力管 理」プログラムの教授構成要素と類似している。第2部「麻酔における危機事象の目録」は,航空業界で用いられている別の戦略を用いて麻酔科医の支援を目的 とした。この目録は臨床場面で遭遇する各種の危機的状況に対する緊急処置法を体系的に編集してある。パイロット全員がさまざまな緊急状況を認識して対応す る方法を学ぶ必要があるのと同様に,麻酔科医も同じことを行う必要があると考える。目録では麻酔科医の関心のある問題を,同一形式で簡潔な方法で示してあ り,危機的状況の認識とそれに対する対応を向上させることができるようにした。これは麻酔科医が前もって危機的状況を認識し管理できるようにする学習手引 書として使用することができ,また,危機的状況後の討論の際には,もっと考慮すべきであった情報,あるいは実施できたかもしれない処置を思い出させるもの として使用することができる。さらに,口頭でのシミュレーション,役割演習あるいは現実的な麻酔シミュレータを用いた麻酔危機管理の対話型トレーニングの 手段としても使用することができる。

本書で包含していない事項

麻酔における危機管理は,確実な知識基盤と十分な技能の基礎のうえに構成されるが,本書「麻酔の危機管理」では,読者はすでに麻酔を実践するのに必要な 医学的知識と技能に精通しているか,それらの学習過程にあるかのいずれかであると仮定している。したがって,麻酔の教科書として使用することを目的とした ものではなく,また外科患者の病態生理やそれらの具体的な術前評価や治療法についての教科書でもない。

本書は麻酔の「マニュアル」ではないことを強調しておきたい。本書から完全な麻酔法を知ることはできない。「麻酔における危機事象の目録」は単なる案内 書である。目録のそれぞれの記載事項の「管理」の項は,故意に決断系図(フローチャート)やアルゴリズムの形にはしていない。麻酔の環境での患者医療はあ まりに複雑過ぎて,明確な分岐状態を示した単純な決断系図を示すことはできないと考える。また,そのようなアルゴリズムも,その分岐構造のために覚えてお くのは難しい。したがって,この管理指針では何を調べるべきか,あるいは,何をするべきかの段階的なリストとして書いてあり,大体経験を積んだ医師が行う であろうと思われる順列で示してある。

記載した事象のいずれの場合でも,ここに示した管理指針に従えば臨床上の問題が解決できることを保証したり,患者に不利な結果の発生の機先を制せられる ことを断言するものではない。本資料は,麻酔科医の教育だけを目的とたものである。できるだけ包括的なものにしようと努力したが,完全ではない。個々の問 題に対する発現のリストには最も重要と考える徴候を含めてあるが,考えられるすべての徴候を示してはいない。同様に,どのような管理指針でも患者の状態や 異った状況のすべての組み合わせを考慮に入れることはできない。

特定の状況に対処する場合,麻酔科医は必要があるときはいつでも,どのようにでも本書の目録の中の管理の項に記載された対応から外れて当然であることを 強調したい。また個々の麻酔科医は,自身の経験に基づきさまざまな薬剤や手法による,自分自身の臨床実務に適合した危機事象の目録,手順を作成することを お勧めする。

著者について

読者は,本書のような変わった本を書くわれわれの経歴や資格に興味をもたれると思う。われわれはスタンフォード大学医学部とPalo Alto Department of Veterans Affairs医療センターの専任麻酔科医である。Da. id Gabaはスタンフォード大学でトレーニングを受け,麻酔臨床に12年間従事している。パイロットのライセンス(PP-ASEL)を有しており,長年航空 技術や宇宙飛行に関心をもっている。Kevin Fishは英国,カナダでトレーニングを受け,麻酔には22年間従事している。またSteven Howardもスタンフォード大学でトレーニングを受け,麻酔臨床には4年間携わっている。

われわれは麻酔の臨床教育のほかにも麻酔科医の職務遂行能力に関する研究を行ってきており,麻酔を実施する際の麻酔科医個人の思考過程を検討してきてい る(第1章,文献を参照)。この研究の相当な部分は,われわれの研究室で開発した麻酔の実地シミュレータ(包括的麻酔シミュレーション環境[CASE]) を使用して行われた。「麻酔の危機管理」の資料は,CASEシミュレータ(現在のCAEシミュレータ)用に開発した「麻酔危機の処理能力管理」の特別課程 のテキストから発展させたものである。この課程ではすでに120名以上の麻酔研修医,教職スタッフが参加しているが,彼らの意見や批評も本書に包括した。

Robert HolzmanとEmily Ratnerの両氏には,それぞれの専門での特殊な専門知識を用いて小児麻酔と産科麻酔の各章を書いてもらった。また,「麻酔における危機事象の目録」の 開発の初期段階では,23年間の大学および開業麻酔科医としての経験をもつスタンフォード大学のFrank Sarnquist氏の手助けを受けた。

David M. Gaba, M. D.
Kevin J. Fish, M. D.
Steven K. Howard, M. D.
著者序

本書の対象者

本書は麻酔に従事するすべての医療関係者を対象としている。看護麻酔士と麻酔科医の間の政治的な駆け引きや摩擦もあるが,それは本書の目的とはまったく 無関係である。われわれの教育の中心原則は,個人で麻酔を行う場合でも他の医療チームのメンバーと共同で仕事を行う場合でも,麻酔の際には,患者のそばに いる人はすべて危機的場面に十分対応できる高い技能を有するべきだということである。チームのリーダーシップに関しては,麻酔医療チームの名目上の長であ る麻酔科医が最も重要であると思われる。しかし,危機的状態を最適に管理するためには,チームのメンバー全員の協調が必要であることを強調したい。「麻酔 の危機管理」は経験を積んだ医師と研修医の両方を対象とした。ここに示した概念は,今まで麻酔科医に十分に教えられてきた事項ではなく,日々の臨床実務で は容易に学べない内容であることを強調したい。経験の浅い麻酔科医は,これらを早く学んで日常臨床の一部としたいと思うはずである。

ちょうどパイロットが,飛行経験年数にかかわりなく危機管理技能を繰り返しトレーニングし実践しなければならないように,麻酔専門医も常に現存のルーチンを検討し強化する必要がある。

本書の概要

「麻酔の危機管理」では,従来の医学書や麻酔の教科書とは異なった論点を中心に考察している。麻酔に関する他の書物では,もっぱら患者の正常または異常 な生理学的状態,あるいは,薬剤や機器の技術的および臨床上の特性を扱っているが,本書では主として麻酔科医の「考え方」を中心に述べる。薬理学者が「完 全な」麻酔薬を合成しようとするのと同じように,また,エンジニアが「フェイルセーフ(安全機構付き)」装置を作ることを目的とするのと同じように,われ われは安全な患者医療の流れの中で最も重要な要素である麻酔科医自身の遂行能力を最適化できる努力を行っている。

本書は麻酔での危機管理の手引書である。初めの2つの章では,理想的な麻酔科医の専門知識の構成要素に関して分析する。理想的な麻酔科医は,「内部の指 導者」の適切な監督のもとに,反復して観察,決断および行動の過程を経験する。麻酔科医は自分自身の行動の管理に加え,一緒に患者医療に従事しているチー ムの各人を管理することも必要である。これらの章に示してある資料は,実際の航空会社のパイロットの正規トレーニングの一部である「搭乗員の処理能力管 理」プログラムの教授構成要素と類似している。第2部「麻酔における危機事象の目録」は,航空業界で用いられている別の戦略を用いて麻酔科医の支援を目的 とした。この目録は臨床場面で遭遇する各種の危機的状況に対する緊急処置法を体系的に編集してある。パイロット全員がさまざまな緊急状況を認識して対応す る方法を学ぶ必要があるのと同様に,麻酔科医も同じことを行う必要があると考える。目録では麻酔科医の関心のある問題を,同一形式で簡潔な方法で示してあ り,危機的状況の認識とそれに対する対応を向上させることができるようにした。これは麻酔科医が前もって危機的状況を認識し管理できるようにする学習手引 書として使用することができ,また,危機的状況後の討論の際には,もっと考慮すべきであった情報,あるいは実施できたかもしれない処置を思い出させるもの として使用することができる。さらに,口頭でのシミュレーション,役割演習あるいは現実的な麻酔シミュレータを用いた麻酔危機管理の対話型トレーニングの 手段としても使用することができる。

本書で包含していない事項

麻酔における危機管理は,確実な知識基盤と十分な技能の基礎のうえに構成されるが,本書「麻酔の危機管理」では,読者はすでに麻酔を実践するのに必要な 医学的知識と技能に精通しているか,それらの学習過程にあるかのいずれかであると仮定している。したがって,麻酔の教科書として使用することを目的とした ものではなく,また外科患者の病態生理やそれらの具体的な術前評価や治療法についての教科書でもない。

本書は麻酔の「マニュアル」ではないことを強調しておきたい。本書から完全な麻酔法を知ることはできない。「麻酔における危機事象の目録」は単なる案内 書である。目録のそれぞれの記載事項の「管理」の項は,故意に決断系図(フローチャート)やアルゴリズムの形にはしていない。麻酔の環境での患者医療はあ まりに複雑過ぎて,明確な分岐状態を示した単純な決断系図を示すことはできないと考える。また,そのようなアルゴリズムも,その分岐構造のために覚えてお くのは難しい。したがって,この管理指針では何を調べるべきか,あるいは,何をするべきかの段階的なリストとして書いてあり,大体経験を積んだ医師が行う であろうと思われる順列で示してある。

記載した事象のいずれの場合でも,ここに示した管理指針に従えば臨床上の問題が解決できることを保証したり,患者に不利な結果の発生の機先を制せられる ことを断言するものではない。本資料は,麻酔科医の教育だけを目的とたものである。できるだけ包括的なものにしようと努力したが,完全ではない。個々の問 題に対する発現のリストには最も重要と考える徴候を含めてあるが,考えられるすべての徴候を示してはいない。同様に,どのような管理指針でも患者の状態や 異った状況のすべての組み合わせを考慮に入れることはできない。

特定の状況に対処する場合,麻酔科医は必要があるときはいつでも,どのようにでも本書の目録の中の管理の項に記載された対応から外れて当然であることを 強調したい。また個々の麻酔科医は,自身の経験に基づきさまざまな薬剤や手法による,自分自身の臨床実務に適合した危機事象の目録,手順を作成することを お勧めする。

著者について

読者は,本書のような変わった本を書くわれわれの経歴や資格に興味をもたれると思う。われわれはスタンフォード大学医学部とPalo Alto Department of Veterans Affairs医療センターの専任麻酔科医である。Da. id Gabaはスタンフォード大学でトレーニングを受け,麻酔臨床に12年間従事している。パイロットのライセンス(PP-ASEL)を有しており,長年航空 技術や宇宙飛行に関心をもっている。Kevin Fishは英国,カナダでトレーニングを受け,麻酔には22年間従事している。またSteven Howardもスタンフォード大学でトレーニングを受け,麻酔臨床には4年間携わっている。

われわれは麻酔の臨床教育のほかにも麻酔科医の職務遂行能力に関する研究を行ってきており,麻酔を実施する際の麻酔科医個人の思考過程を検討してきてい る(第1章,文献を参照)。この研究の相当な部分は,われわれの研究室で開発した麻酔の実地シミュレータ(包括的麻酔シミュレーション環境[CASE]) を使用して行われた。「麻酔の危機管理」の資料は,CASEシミュレータ(現在のCAEシミュレータ)用に開発した「麻酔危機の処理能力管理」の特別課程 のテキストから発展させたものである。この課程ではすでに120名以上の麻酔研修医,教職スタッフが参加しているが,彼らの意見や批評も本書に包括した。

Robert HolzmanとEmily Ratnerの両氏には,それぞれの専門での特殊な専門知識を用いて小児麻酔と産科麻酔の各章を書いてもらった。また,「麻酔における危機事象の目録」の 開発の初期段階では,23年間の大学および開業麻酔科医としての経験をもつスタンフォード大学のFrank Sarnquist氏の手助けを受けた。

David M. Gaba, M. D.
Kevin J. Fish, M. D.
Steven K. Howard, M. D.
目次

第I部 麻酔における危機管理の基本原則/1

第1章 動的な決断と危機管理の理論/5

第2章 麻酔危機資源管哩の原則/31

第II部 麻酔における危機事象の目録…51

第3章 一般的事象

1.急性大量出血/57
2.心停止/62
3.挿管困難症/66
4.食道挿管/70
5.高気道内圧/73
6.高血圧/77
7.低血圧/81
8.低酸素血症/85
9.手術室内での発火/89
10.ST変化/92

第4章 心血管系の事象

11.アナフィラキシー,アナフィラキシー様反応/97
12.自律神経反射異常/102
13.洞性徐脈/105
14.心筋梗塞/109
15.非致死性心室性不整脈/114
16.心タンポナーデ/118
17.肺水腫/122
18.肺塞栓/126
19.上室性不整脈/130
20.静脈空気・ガス塞栓/134

第5章 呼吸器系の事象

21.気道熱傷/139
22.気道破裂/143
23.胃内容の誤嚥/147
24.気管支痙攣/151
25.気管支内挿管(片肺挿管)/155
26.大量喀血/158
27.高炭酸ガス血症/162
28.気胸/166
29.術後嗄声/170
30.事故抜管/173

第6章 代謝性の事象

31.アジソン発作/177 3
2.糖尿病性ケトアシドーシス/180
33.高カリウム血症/183
34.低血糖/187
35.低カリウム血症/190
36.低ナトリウム・低浸透圧血症/194
37.低体温/198
38.悪性高熱症/201
39.代謝性アシドーシス/206
40.乏尿/210
41.輸血反応/214

第7章 神経学的事象

42.中枢神経損傷/217
43.局麻薬中毒/221
44.末梢神経損傷/225
45.術後の精神状態変化(覚醒遅延)/228
46.術後の呼吸不良(遷延性無呼吸)/233
47.痙攣/237

第8章 医療機器にかかわる事象

48.循環式麻酔器での呼気弁閉鎖固定/241
49.循環式麻酔器での吸気弁閉鎖固定/244
50.循環式麻酔器での弁開放固定/246
51.共通ガス流出口の故障/248
52.停電/251
53.酸素供給停止/254
54.流量計の故障/257
55.静脈ラインの問題/260
56.中央配管酸素供給圧低下/263
57.麻酔回路の大量リーク/266
58.ポップオフ弁の故障/271
59.余剰ガス排除装置故障/275
60.注射器・アンプル過誤(誤認)/278
61.人工呼吸器故障/281
62.吸入麻酔薬過量/284

第9章 心臓麻酔にかかわる事象

63.心臓裂傷/287
64.人工心肺(体外循環)中の低血圧/290
65.人工心肺(体外循環)後の血液凝固異常/294
66.開心術後の低心拍出量/298
67.大量空気塞栓/302

第10章 産科麻酔にかかわる事象

68.羊水塞栓/307
69.産婦の心停止/311
70.緊急帝王切開/314
71.伝達麻酔による低血圧/318
72.産科出血/321
73.軽症,重症妊娠中毒症/325
74.全脊椎麻酔/330

第11章 小児麻酔にかかわる事象

75.気道への異物誤嚥/333
76.喉頭蓋炎(声門上炎)/336
77.縦隔腫瘤による換気不能/340
78.乳児の喘鳴/344
79.喉頭痙攣/347
80.ラテックスァレルギー/350
81.咬筋攣縮/353
82.新生児仮死/356
83.抜管後クループ/360

訳者附録

1.地震/363
2.サリン・有機リン中毒/367
3.国立小児病院麻酔器始業点検表/371
4.麻酔交代時患者申し送り事項/372
5.CAE-LINK麻酔シミュレータで体験できる危機的事象/373

索引/375

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