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完全静脈麻酔の臨床


定価6,000円
ISBN4-7719-0168-6

【書籍名】完全静脈麻酔の臨床
【品番コード】00168
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はじめに

Total Intravenous Anesthesiaは完全静脈麻酔と訳されるが,これはTotal Intravenous Nutritionを完全静脈栄養と訳したことに倣ったものである。しかしこの訳語には問題がある。

完全静脈麻酔といっても,完全または完壁な麻酔法はあるはずがないから,この言葉を聞いて頭の中に生じたイメージと現実の間に大きなギャップが生ずることになり,この麻酔法が中途半端な印象を生むことになる。われわれは本邦で完全静脈麻酔法が普及しない一因は名称にも原因していると考えている。日本人の言葉を粗末にする一例といってもよい。

すべての薬剤を経静脈的に投与することに加えて,この麻酔方法が全身麻酔であることを加味して「全静脈麻酔」と訳すべきであった。こうすれば局所静脈麻酔との対比もよく理解できよう。しかし少なくともこの完全静脈麻酔という訳語が『日本麻酔学会用語集』にもすでに採用され,定着しているので本書ではこれに従っておく。

さて完全静脈麻酔は,全身麻酔の意識消失,鎮痛,有害な反射の抑制,末梢性筋弛緩という四要素を数種類の薬物を使用して満足させることである。このため静脈麻酔薬,麻薬性鎮痛薬,自律神経遮断薬,筋弛緩薬を用いるのであるが,プロポフォール,スフェンタニール,アルフェンタニールなどが未だ日本では臨床的に使えないので,現在の日本で使用可能な静脈麻酔薬,鎮痛薬としてはケタミン,フェンタニール以外に求めることはできない。

このようにしてわれわれは,ドロペリドール,フェンタニール,ケタミンによる完全静脈麻酔を開発したのである。上記の四要素を満足させながら,しかも生体のバイタリティを可能な限り損なわないような方法を求めた結果である。

いずれの薬剤も臨床に応用されて四半世紀も経っているものばかりである。寿命が短いといわれる薬剤の世界で,25年以上も生き永らえている蔭にはそれなりの特長があり,加えてそれらの利点,欠点も知り尽くされているといってもよい。各々の薬剤の利点を生かし,欠点を補うような使い方をすればよいだけである。上記三種の薬剤のいずれも広い安全域を有することはこの麻酔法の高い安全性を示す証拠であり,古い薬を使って新しい麻酔法を開発した点においてはまさに温故知新といってもよい。

この麻酔法は少し慣れると,いかなる事態にも対処可能な方法である。ハイテクノロジーの環境ばかりに慣れると,大災害時や非常事態には手も足も出ない麻酔科医となる。

このことを念頭におきながら,将棋やトランプでたとえるならば自分の手の内に有力な駒や札を1枚でも増やしておくことは大変重要なことと思う。この麻酔法は有力な駒であり,切り札でもあると思う。
医療制度,経済事情が全く異なる欧米の麻酔法をそのまま輸入して臨床に導入することには問題があり,その国の医療社会に適合するように改める必要がある。したがって本麻酔法を宣伝して欧米に普及させようなどとの考えは毛頭もない。

われわれの施設や関連施設において完全静脈麻酔を始めてから7年経つが,この間多くの方から多種な質問を受けた。しかし,それらの質問の多くは吸入麻酔のみがすぐれた全身麻酔であるという誤った先入観念,固定観念に起因していると考えられる。

本書の刊行がそのような誤った概念の是正と日本における完全静脈麻酔の一層の発展と普及にいささかでも役に立つのではないかと考えている。

平成7年10月1日
編者
弘前大学教授 松木明知
弘前大学助教授 石原弘規
弘前大学講師 坂井哲博

目次

はじめに
1.完全静脈麻酔に関する最近の知見 1
2.DFKの実施法 11
3.DFKにおけるInfusion technology 13
4.DFKの利点と欠点 17
5.DFKの薬物測定法 23
6.DFKの薬物動態 27
7.DFKと呼吸機能 33
8.DFKと循環機能 37
9.DFKと中枢神経機能 41
10.DFKと体温 49
11.DFKと硬膜外圧 57
12.DFKと中耳内圧 65
13.DFKと免疫能 69
14.DFKと副腎機能 77
15.DFKと肝腎機能 83
16.DFKと消化管 87
17.DFKと小児麻酔 91
18.DFKと成人開心術 99
19.DFKと特殊疾患・特殊状態−長時間手術 107
20.DFKと特殊疾患・特殊状態−てんかん 111
21.DFKと特殊疾患・特殊状態−精神分裂病 115
22.DFKと特殊疾患・特殊状態−代謝性アシドーシス 119
23.DFKと特殊疾患・特殊状態−Myolysis 123
24.DFKと特殊疾患・特殊状態−腎移植 127
25.DFKと特殊疾患・特殊状態−肝移植 133
26.DFKと特殊疾患・特殊状態−MEN1型 137
27.DFKと硬膜外ブロックの併用 145
28.DFKと経済性 149
29.DFKの将来の展望 155
30.教室発表の完全静脈麻酔関係文献 159

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