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学と術の周辺


定価2,200円
ISBN4-7719-0182-1

【書籍名】学と術の周辺
【品番コード】00182
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はじめに

私の書棚には著名な医学者の随筆集が数十冊並んでいる。それらのほとんどは退官もしくは退職後に上梓されている。もちろん内容的には在職中書かれた随筆も含まれているが,多忙な研究生活から解放されてからものしたという文章が多い。いずれにせよ,その道を極めた方々の著作であるため,永年の研究生活が結晶して生まれた蔵言,警句が散りばめられ,極めて示唆に富む。しかし医学を学んでいる学生,大学院生,医学教育者,そして臨床医のほとんどは,これらの著作の存在すら知らない。誠に悲しむべきことである。

医療に携わるわれわれは医学ばかりでなく,哲学,宗教,芸術,経済など医学の周辺のことももっと広く勉強する必要があると考えて,著者は前述した方々驥尾に付して昭和62年(1987)に「麻酔科の周辺」,平成元年(1989)に「続麻酔科の周辺」,そして平成5年(1993)に「麻酔科の側面」を上梓した。いずれも書名に「麻酔科」の三文字を冠したが,その理由は,一般の人々を含め,もっと多くの方々に麻酔科や麻酔科医のことを知ってもらいたい,理解して戴きたいと考えたからであった。しかしこれらの3冊の内容は,決して麻酔科や麻酔科医のことのみに偏するものではなく,一読して麻酔科医を通して見た医学とその周辺についての記述であることが了解されると思う。

著者の意に反して読者はほとんど医療関係者,それも麻酔科関連の方々に限定されたようであり,多くの方々は単に書名中の「麻酔科」の三文字を見ただけで,これらの書冊を手にすることさえしなかったと思う。何事にも例外があるの喩え通り,職種の全く異なる方々から,これらの著書を読んでいささか得るところがあったという直話やお手紙を頂戴し,それを契機として私の交友の輪が拡がったことなどは,著者にとっては予想外の喜びでもあった。今回「麻酔科」の三文字を削って書名を「学と術の周辺」としたのも,このような事情が背景にある。

この本の中で臨床医としての私は繰り返し,たった一つのこと,つまり広い意味で医学はサイエンスのみで成り立っているのではなく,アートも大きな要素であることを主張している。両者は補完的であり,一方を欠くと一方はほとんど意義を失う。サイエンスを理,アートを機と考えてもよいし,前者を常,後者を変と考えてもよい。この両者を有機的に結合し制御しているのが,哲学であり,宗教であり,芸術であり,経済である。これらの関係を視点を変え,角度を変え書き記したのが本書である。

著者自身,学問においても,人生においても誠に未熟であることは百も承知しており,その未熟な者が,学会出張などの機上または車中という蒼惶の間に記した雑文であるため,文章も誠に未熟であるとの誹を免れない。話題を日常の雑事にとっているが,しかし真意はもっと深い所にある。真意が伝わらない所があるとすればそれは私の責任である。

私はこれらのエッセイを医学概論あるいは麻酔科学の講義に教材として用いている。6年間一貫教育が叫ばれ,全人的医療の必要性が求められている折,現役の教育担当者が,学生に直接語りかけてこそ教育上の効果が少しは上がるのではないかと考えているからである。若い人たちがこれを手懸りとして,より完壁な道を目指してくれればよいからである。

本書もまた家族の献身的な協力がなかったら誕生しなかった。心から感謝したい。旧著に引き続く本書の出版を御理解戴いている克誠堂社長の今井彰氏にも格別の御配慮を戴いた。ここに記して深謝の意を表する。

ワープロの作業など大変骨の折れる仕事を担当して戴いた,弘前大学医学部麻酔科の三上コウさん,福山美雪さん,桜庭由里子さんに対して厚く御礼申し上げる。

平成8年4月28日
弘前城の桜花欄漫を目前にして
弘前大学教授 松木明知

目次

はじめに 1

I.サイエンスとアート 3

1.サイエンスとアート 4
2.Vitabrevis,Arslonga −医学にアートは必要か− 8
3.部分だけの再現性 −条件付きの科学− 11
4.“はず”の医学 14
5.総論と各論 18
6.量と質 21
7.研究方法の多様化 23
8.アルティザン(職人 28
9.伝統と技術 31
10.科学と名人芸 33
11.先見性と潜伏期 35

II.医療について 39

1.医療の3原則 −必然性,妥当性そして適時性− 40
2.現代医療の欠点 43
3.医療の複雑さ −専門性と協調性− 45
4.試験と建前 47
5.マクロとミクロ 51
6.医者冥利 53
7.Cost avoided 56
8.Mind the gap 60
9.Abortive drug 62
10.ECHO system 64

III.生命について 67

1.生きているのだから 68
2.自由にならないもの 73
3.悲しみが分からなければ 75
4.寿命が尽きる 80

IV.教育について 83

1.ステファヌスの予言 84
2.医学教育の問題点 86
3.だれが教えるのか 89
4.無為自然 95
5.育てる 98
6.文化 103

V.医史学と博物館,資料館 107

1.“実験医史学”のことなど 108
2.麻酔科学の温故知新 −なぜ歴史的研究が必要なのか− 113
3.18,000個の頭蓋骨 117
4.科学博物館 −発明・発見への近道− 121
5.「痛みの博物館」構想 126
6.図書館,資料館整備の急務 −Good judgment is coming from experience −129
7.先輩の研究を無視して論文を書けるか −医学の歩みを知れば大変役に立つ− 132

VI.ヴェザリウス,ハーヴェイ,そしてエルスホルツ 135

1.アンドレ・ヴェザリウスの「ファブリカ」 136
2.W.ハーヴェイとJ.S.エルスホルツ 140
3.J.S.エルスホルツ著「Clysmatica Nova」(新しい潅腸法)の復刻について 144
4.Serendipity 148
5.曝書 152
6.医学史を飾る100冊の本 −ニューヨーク・グローリエ・クラブ− 155
7.Fisher Libraryの稀覯本展示室 158
8.麻酔科学教室の便箋の彫版(さし絵)について 161

VII.言葉のことなど 163

1.言葉と視点 164
2.あいまいさ 166
3.コミュニケーションと言葉 169
4.精神的買物 173
5.西洋と日本 176
6.マナシ寺 −イルクーツクのズメナンスキー修道院− 179
7.実物 183
8.特殊潜航艇 186

索引 191

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