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植皮の歴史

定価7000円
ISBN4-7719-0057-4

【書籍名】植皮の歴史
【品番コード】00057
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小学校4年のころの私は「源平盛衰紀」を愛読し,源氏,平家の諸将の名前を整理するため,その家系図を作製していた。それが昂じて天皇家をはじめとして,わが国の歴史上の名家の家系図をいろいろな文献を参考にして弟と作製し,膨大な家系図が整理タンスの引き出しに満ち溢れていた。

中学生になると,古代中国,古代オリエント,古代エジプトの歴史や文明の発生に興味が移り,当時としてはませた知識を含欲に求めていた。

医学生になると,仏像の美しさに魅せられ,飽くなき追及心は仏典にまで及び,いつしか宗教史,思想史,美術史へとエネルギーを燃やしていた。

医師になると,さすがに多忙となり,歴史についての情熱もさめ,恩師大森清一先生の御指導の下,形成外科手術とくに植皮の技術の修得と植皮の生理の研究に没頭していた。

医師になって20年を過ぎ,1972年,私にとってはじめての単行本「植皮術の実際」(中外医学社)を出版することになった。そしてこの本の第2章で植皮の歴史を書くことになり,私の体の中でかつての歴史狂の血が再び騒ぎ出した。この時,参考として読んだ B. O. Rogersの「Historical development of free skin grafting,Surg. Clin. North America,37:1959」の論文に私は多大の感銘を受けた。また,1968年頃のアメリカの形成外科雑誌 Plastic & Reconstructive Surgeryには形成外科の歴史的な論文が再掲載され,私の医学史に対する関心がかきたてられ,私は内外の植皮の歴史についての論文を収集し,私の整理キャビネットはこれらの文献が溢れ始めた。

1977年,日本災害医学会誌の綜説の依頼を受け,私は愛読していた「ススルタ大医典」(伊藤弥恵治,鈴木正夫訳)に書かれているインド法造鼻術についての私なりの考察を書いた「古代インド法造鼻術とSushruta」という題の綜説を投稿した。

これがきっかけとなり,日本災害学会誌に1977年から1985年の8年間にわたる「植皮の歴史」34編の連載が始まった。当初,私はせいぜいKrauseの植皮あたりまでの歴史について書くつもりであった。しかし,筆を進めるうちに,持ち前の凝り症も手伝って,収集した多くの文献の紹介と現在の植皮の歴史的な意味付けの必安性を感じ,このような長期にわたる連載となった。

植皮は古代インドに始まった古い歴史をもつ手術であるが,現在でもつぎつぎと新しい術式が開発されている古くて新しい手術である。とくに最近の新しい皮弁の分類による遊離皮弁,筋皮弁,筋膜皮弁などの一連の手術の開発は,長い植皮の歴史の中でも画期的な出来事であり,植皮の歴史で割愛することができないため,敢えて最新の植皮にまで言及することにした。

「植皮の歴史」を読まれた方は植皮という手術が科学の進歩は勿論のこと,社会,思想,宗教などの形而上的あるいは形而下的な要素に大きく影響されながら現在に至ったことを理解して頂ければと願っている。

そして,現在の植皮は多くの有名,無名の医師たちの智恵と汗により,また多くの患者たちの血と涙と痛みの犠牲によって作りあげられた,人類の宝であることを知って頂ければ幸いである。

さらに,この「植皮の歴史」が明日の植皮の発展の指針となれば望外の喜びである。
この本の性格から,図は原著よりそのまま複写して正確を期した。ここに著者の皆様にご了解をいただくとともに,お礼を申しあげる。また,古い文献の図も正確さを求めるため,そのまま複写したので,見苦しい図になったことをお詫びする。

日本災害医学会誌に連載された私の「植皮の歴史」は幸い好評を得て,その完結を待たずに,多くの皆様より単行本化のお勧めがあった。また,2,3の出版社よりの勧誘もあったが,私は形成外科分野の出版では高い権威と経験をもつ克誠堂出版株式会社にお願いすることにした。ここに同社社長・今井彰氏,編集のお世話を頂いた林靖英氏をはじめとする社員の皆様に感謝を申しあげる。また,原稿と図の整理と保管をして頂いた日本災害医学会事務局の長谷恵美子氏にお礼を申しあげる。

生命はみじかい
技術はながい
機会は去りやすい
経験はだまされやすい
判断はむづかしい
−ヒポクラテスの言葉をつぶやきながら−
1985年11月
倉田 喜一郎

目次

第1章 古代インド法造鼻術とSushruta 1

1.はなきるの刑 1
2.古代インドのVeda文化と医学 3
3.Sushruta Samhita 4
4.Sushrutaの造鼻術 7
5.Vagbhatの造鼻術 11
6.Sushrutaの造鼻術の後世への影響 12
7.Sushrutaの言葉 14

第2章 最初の植皮は皮弁による耳垂再建術ではなかろうか? 16

1.耳飾りの歴史と耳垂の損傷 16
2.Sushrutaのpiercing 19
3.破壊された耳垂のSushrutaの形成手術 20
4.皮弁手術のはじまりは耳垂再建術ではなかろうか? 26

第3章 アレクサンドリアとCelsusの皮弁手術 28

1.Alexander大王とアレクサンドリア 28
2.Aulus Coronelis Celsus(42B.C.〜20A.D.) 29
3.Celsusの皮弁による欠損部の再建 30
3.Celsus以後 32

第4章 Justiniaus 2世(鼻そがれ王)とCarmagnolaの首 34

1.ビザンツ帝国 34
2.Justiniaus 2世 34
3.Carmagnolaと名づけられた首の彫像 35
4.Justiniaus「鼻そがれ王」の造鼻術の意義 39

第5章 中世からルネッサンス時代の医学とTagliacozziの造鼻術 40

1.中世の医学 40
2.医学のルネッサンス 42
3.中世の外科医たち 42
4.BrancaとAntoniusの造鼻術 43
5.Gaspare Tagliacozzi Tagliacotius(1545〜1599) 44
6.De Curtorum Chirurgia per Insitionem 45
7.Tagliacozziの造鼻術 47
8.Tagliacozziの死とその後の造鼻術 49

第6章 インド人の鼻とCarpue 52

1.GentlemanPs Magazineの記事 52
2.当時のインド 54
3.Carpueの造鼻術への挑戦 55
4.Carpueの手術について 59

第7章 von GraefeとDieffenbachの造鼻術 61

1.Carl Ferdinand von Graefe(1787〜1840) 61
2.Johann Friedrich Dieffenbach(1794〜1847) 63
3.16世紀から19世紀に至る科学の進歩 66

第8章 近代造鼻術の発達 70

1.19世紀と造鼻術 70
2.再建外鼻の裏打ち(lining)の作製 71
3.再建外鼻のcollapseに対する処置 74
4.各種皮弁の開発 78
5.現在の造鼻術 81

第9章 口唇再建術の発達 83

1.口唇の再建 83
2.上口唇の再建 84
3.下口唇の再建 91

第10章 Lip switch flapを考え出した人たち 97

1.Sophus August Vilhelm Stein(1797〜1868) 97
2.Jakob August Estlander(1831〜1881) 101
3.Robert Abbe(1851〜1958) 104

第11章 だれがZ形成術を考え出したか? 108

1.Ivyの論文 109
2.Charles Piere Denonvilliers(1808〜1874) 110
3.Denonvilliersの手術症例の図 112
4.Borgesの論文 113
5.William Edwards Horner(1793〜1853) 113

第12章 Z形成術の開発と発展 116

1.Z形成術という名称 116
2.Z形成術の開発 117
3.Z形成術の理論とその効果 126
4.Alexander Alexandrovich Limberg(1984〜1974) 142

第13章 Cross leg flapの開発とdelayed flap 143

1.Cross leg flapとは 143
2.Frank H. Hamilton(1813〜1886) 143
3.その後のcross leg flapの発達 147
4.Delayed flap(遷延皮弁) 149
5.Delayed flap(遷延皮弁)の血行改善機序 151

第14章 筒状皮弁(tubed pedicle flap)を考え出した3人の医師たち 153

1.なぜ筒状皮弁が考え出されたか? 153
2.Filatovの症例 154
3.Vladimir Petrovich Filatov(1875〜1956) 158
4.筒状皮弁の発明者について 160
5.Hugo Ganzer(1879〜1960) 166
6.Sir Harold Delf Gillied(1882〜1960) 168

第15章 1869年にはじめて遊離植皮が成功した 173

1.1869年ごろ 173
2.パリ外科学会におけるReverdinの発表 175
3.Reverdinの発表に対するパリ外科学会会員たちの討論 178
4.Jacques Louis Reverdin(1842〜1927) 181

第16章 遊離植皮の歴史は再接着から始まる 184

1.なぜReverdin以前には遊離植皮は成功しないと信じられていたのか? 184
2.切断された組織の再接着の歴史 184
3.Fioravantiの報告例 185
4.Paulo Zacchiasの意見 185
5.Molinetti先生の手術の話 186
6.William Ruddimanの手紙 186
7.Garengeotの報告例 187
8.William Balfourの報告例 188
9.Hoffackerとハイデルベルグの決闘学生 188

第17章 同種植皮の夢は現在も続いている 191

1.聖CosmaとDamianの伝説 191
2.Elisio Calenzioの手紙 191
3.Sympathetic nose 192
4.Samuel Baulterの詩 192
5.AddisonとSteeleの記事 193
6.Tagliacozziの同種植皮についての見解 194
7.Medawarの第二次同種移植現象の発見 194
8.Hlomanの同種植皮の実験 197
9.高橋と宮田の同種植皮の実験 198

第18章 おぞましいZoograftも人類の飽くなき理想探求の現われである 200

1.Zoograftとは 200
2.Kraanwinkelの手紙 200
3.皮弁によるzoograft 201
4.遊離植皮によるzoograft 203
5.Zoograftについての当時の人々の考え方 204

第19章 Reverdin以前の遊離植皮の試み 206

1.古代インドの遊離植皮 206
2.ロンドン王立協会における遊離植皮の実験 206
3.Sancassaniの報告 208
4.Baronio教授の体験と動物実験 209

第20章 遊離植皮の開発者たち 211

1.Reverdinのpinch graftが遊離植皮のスタートとなった 211
2.George Lawson(1832〜1904) 211
3.Louis Xavier Edouard Leopold Ollier(1830〜1900) 214
4.John Reissberg Wolfe(1824〜1904) 216
5.Carl Thiersch(1822〜1895) 218
6.Fedor Krause(1856〜1937) 222

第21章 分層植皮が開発されるまで 228

1.古き時代の植皮の分類 228
2.20世紀初頭の遊離植皮 228
3.Davisのsmall deep skin graft 230
4.BlairとBrownの分離植皮 232

第22章 デルマトームの発明 238

1.植皮刀 238
2.Padgett-Hoodのドラム型デルマトーム 239
3.Reeseのデルマトーム 243
4.BarkerのVacutome 244
5.H.M.Brownの電動式デルマトーム 245
6.藤本のデルマトーム 248

第23章 網状植皮の発明 253

1.Reverdinのpinch graft 253
2.Meekのmicrodermagrafting 253
3.Dragstedtらのmodified sieve graft 254
4.網状植皮 255

第24章 不思議な古代インド式遊離植皮 260

1.Dutrochetの手紙 260
2.Bungerの症例 263
3.Diffenbachの実験 266
4.Hirschbergの変報 266
5.Gibsonの症例 267
6.Jenecの実験 268
7.Sweeneyの臨床例 268
8.倉田らの臨床例 268
9.古代インド式遊離植皮のメカニズム 270

第25章 皮弁の血行測定法の開発 273

1.皮弁手術の成功には皮弁血行測定法の確立が必要だった 273
2.皮弁の色 274
3.皮弁真皮よりの出血 274
4.発毛測定法 275
5.圧迫法 275
6.充血法 275
7.薬物検査法 276
8.生体染色法 277
9.血管撮影法 angiography 278
10.血圧測定法 280
11.ラジオアイソトープ 280
12.水素クリアランス測定法 282
13.皮膚温測定法 282
14.光電計法 283
15.代謝検査法 284

第26章 皮弁の新しい分類 286

1.皮弁の血行についての今までの考え 286
2.Miltonの動物実験 286
3.新しい皮弁の開発 289
4.McGregorらの新しい皮弁分類法 293
5.DanielとWilliamsの新しい皮弁分類法 296

第27章 微小血管吻合術の進歩と遊離皮弁 300

1.遊離皮弁は形成外科医の夢であった 300
2.微小血管吻合術の発達 301
3.遊離皮弁の動物実験 303

第28章 遊離皮弁の成功 311

1.遊離皮弁は人体ではすぐ成功しなかった 311
2.遊離皮弁の人体での成功 315
3.遊離皮弁の特長 319
4.遊離皮弁の問題点 319
5.遊離皮弁と日本人 321

第29章 筋皮弁の開発 323

1.筋皮弁とは 323
2.McCrawの論文 324
3.筋皮弁の特長 327
4.McCraw以前の筋皮弁 328
5.筋皮弁は1906年にTansiniがすでに行っていた 330
6.なぜ,筋皮弁の開発が遅れたのだろうか? 332

第30章 筋膜皮弁の登場 335

1.Pontenの論文 336
2.Tolhurstらの論文 336
3.筋膜皮弁の利点 338
4.筋膜の血行 338

第31章 むすび 344

1.これからの皮弁 344
2.これからの遊離植皮 346
3.むすび 348

参考文献 353

植皮の歴史年表 383

索引 387

その他のシリーズはこちら->

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