頭蓋・顎・顔面外科

頭蓋・顎・顔面外科

編集 難波雄哉
ISBN 4-7719-0054-X
発行年 2030年
判型 B5
ページ数 ページ
本体価格 11,000円(税抜き)
電子版 なし


I.顎の変形と診断難波雄哉・橋本二朗
A.顎・顔面の変形と型
1.小上顎症
2.上顎後退症
3.小下顎症
4.下顎後退症
5.Pseudoprognathism(仮性下顎突出症)
6.Laterognathism
7.Bimaxillary protrusion
8.Long face syndrome
9.Short face syndrome

B.顎・顔面骨格の評価
1.口腔内石膏模型による分析法
2.頭部X線規格写真による分析法
3.顎・顔面骨格と年齢

C.咬合の評価
D.顔面形態の評価
1.評価の基準値
2.顔面の測定点
3.顔面形態の調和と評価

II.手術計画 上石 弘
A.概論
1.年齢
2.全身状態
3.歯および咬合状態
4.顎態診断
5.併診
6.麻酔
7.手術法
8.手術時間
9.入院期間

B.手術適応の判定
1.術前矯正とその要否
2.咬合からみた手術適応
3.顎態からみた手術的の決定

C.手術計画の立案
1.上顎骨骨切り術
2.下顎骨骨切り術
3.上下顎同時骨切り術

III.顎間固定法とその管理 上石 弘
A.概論
B.顎間固定法の実際
2.前処置
3.Arch barの装着
4.顎間固定
5.口腔粘膜の保護
6.外固定

C.主な顎変形に対する顎間固定法
1.唇顎口蓋裂
2.第1および第2鰓弓症候群
3.下顎前突症
4.Crouzon病,Apert症候群

D.小児の顎間固定法
E.顎間固定中の管理
2.金冠バサミの携行
3.安静度
4.口腔内の衛生
5.咬合状態と固定装置のチェック
6.全身状態の把握

F.固定期間
G.保定期間
H.開口練習
I.合併症と不快事項
1.歯牙の動揺,脱臼
2.歯肉,頬粘膜の損傷
3.歯痛と歯周組織炎
4.嘔吐

IV.上顎の変形と治療 安部正之
A.概論
1.上顎変形の原因
2.上顎変形の種類
3.診断
4.治療

B.手術
1.手術における基本的事項
2.上顎の解剖
3.アプローチについて
4.骨片の固定について
5.合併症

C.手術手技と適応
1.Complete horizontal
2.Segmental osteotomy(dentoalveolar segmental osteotomy)
3.Corticotomy
4.Onlay bone graft
5.Variationおよび数種類の術式の併用

D.上顎の変形と,それらに適用される手術法
1.Skeletal deformityに対して用いられる術式
2.Dentoalveolar deformityに対して用いられる術式

V.下顎の変形と治療 上石 弘
A.概論
1.下顎変形とその見方
2.下顎形成手術の基本のステップ

B.利用度の高い代表的な手術手技
1.下顎上行枝矢状分割
2.下顎骨体部骨切り術

C.代表的な変形とその治療
1.下顎前突症の治療
2.小下顎症の治療

D.おわりに
VI.頭蓋・顔面外科 田嶋定夫
A.総論
1.手術野の展開
2.骨切りと前頭蓋底の剥離
3.骨移植

B.各論
1.Craniosynostosis 頭蓋骨縫合早期癒合症
2.Craniofacial cleft
3.変形症
4.腫瘍および眼窩の再建
5.外傷

VII.唇・口蓋裂に由来する顎の変形と治療 難波雄哉
A.概論
B.変形の発生と特異性
C.治療と手技の選択
1.鼻と上口唇の再建術
2.顎にたいする形成術

VIII.後天性顎変形と治療 田嶋定夫
A.概論
1.原因と治療
2.骨移植

B.発育期における疾患と顎変形
1.Intrinsicな原因による顎の変形
2.Extrinsicな原因による顎の変形

C.骨・関節損傷に由来する変形
1.顎関節脱臼
2.顎関節症
3.顎関節部骨折
4.顎関節頭肥大症と下顎半側肥大症
5.顎関節強直症

D.成人の骨折
1.下顎骨骨折
2.上顎骨骨折

E.外傷による骨欠損
F.手術による骨欠損
索引

顎・顔面外科(Maxillo-Facial Surgery)は欧米においてはかなり古くから独立した診療科として知られており,この領域の組織された学会や出版物も珍しくないが,わが国では1983年,はじめて日本顎・顔面外科学会が誕生しており,この方面への関心は比較的新しいと言ってよい。

顎・顔面領域は個人の美醜をはじめとする外見的特徴を代表する顔にあたることが,この部の重要性を高めるもっとも大きな根拠となっているが,さらには,目,耳,鼻,口など形態的にも機能的にも重要な器官が密在していること,また,頭蓋・顔面骨が脳神経を内蔵していることなどのため,この部は身体の中でもきわめて特異な部位ということができる。このことは,この狭い領域に形成外科,脳神経外科,耳鼻科,眼科,歯科口腔外科などの多くの専門診療科が,それぞれ守備域をもって関与していることからも言えることである。

また,近年における頭蓋・顔面外科(Cranio-Facial Surgery)の登場が,従来では医療の及ばなかった頭蓋・顔面骨における各種の先天異常の治療を可能にし,形成外科における新しい分野として注目を浴びて来たことと関連して,顎・顔面外科への関心が高まって来たことも否定できない。

本来,頭蓋骨と顎・顔面骨はともに顔面形態の基盤をなす骨格構造で,この両者は解剖学的に一体であり,顔貌にとっても責任を分かち合うものであることから,頭蓋・顔面外科と顎・顔面外科はそれぞれ別々であるよりも,同一のものと考える方が自然である。本書を頭蓋・顎・顔面外科として企画した理由もここにあるが,たまたま,今秋,南仏カンヌで第1回の国際頭蓋・顎・顔面外科学会(Cranio-Maxillo-Facial Surgery)が開催されることになっていることなどを考えると,頭蓋・顎・顔面外科という呼称は今後,国際的に定着するかもしれない。

本書は主として頭蓋・顎・顔面領域における奇形や変形の評価法と,各種の代表的骨切り術について記載し,合わせて唇・口蓋裂に由来する顎・顔面変形および外傷後遺症としての変形にたいする治療適応などにふれたが,頭蓋・顎・顔面外科の対象疾患はこの他に,先天性,後天性の各種の形態異常はもちろんのこと,腫瘍の剔出やその再建をはじめ,美容外科としての今後の発展も期待される。

本書が形成外科の新しい分野としての頭蓋・顎・顔面外科への関心を刺激し,初心者の入門書として役立てば幸いである。企画から出版までに予想以上の時の経過をみたこともあり,内容的には臨床の実際面などでなお追加したい部分も少なくないので,将来,よりいっそう充実したものとしたいと考えている。

なお,本書を企画出版するにあたり,終始ご協力を頂いた克誠堂に深く感謝の意を表する次第である。

昭和60年7月
難波雄哉