顔面骨骨折の治療 改訂第2版
形成外科手術手技シリーズ
改訂第2版序
第1版序
総 論
A.顔面骨の解剖と機能
B.顔面骨の発育と骨構造
C.顔面骨骨折の力学的研究
D.顔面骨骨折の統計
E.顔面外傷と救急処置
F.合併損傷の検索
G.顔面骨骨折の診査
H.画像診断
I.骨折の診断
J.治療方針の決定―手術の適応と時期の決定―
K.麻酔の問題について
L.基本手技について
M.術後の経過と処置
I.眼窩の骨折の概説―fracture of the orbit―
A.眼窩の解剖
B.眼窩の骨折の分類
C.眼窩骨折の症状
D.眼窩骨折と眼球の向き異常・運動制限,複視
E.眼窩骨折と眼球陥没
II.眼窩内骨折―blowout fracture―
A.眼窩下壁,内側壁の解剖
B.眼窩内骨折の発生機序,歴史,実験的研究
C.眼窩内骨折の頻度,部位,分類
D.年齢構成
E.Blowout fractureの受傷原因
F.眼球合併損傷
G.Blowout fractureの臨床症状
H.画像所見
I.診断
J.手術の適応
K.手術時期
L.複視の回復と手術成績
M.眼球陥没の治療成績
N.手術
O.内視鏡下手術
P.術後のケア
Q.術後の経過
III.頬骨骨折―malar bone fracture―
A.骨折の部位と骨折外力
B.分類
C.合併損傷
D.症状,所見
E.画像所見
F.診断
G.手術適応の決定
H.新鮮例の手術1―単純な骨折―
I.新鮮例の手術2―粉砕骨折―
J.新鮮例の手術3―blowout fracture(impure type)―
K.新鮮例の手術4―内視鏡下手術―
L.陳旧例の手術1―単純な骨折―
M.陳旧例の手術2―blowout fracture(impure type)―
IV.頬骨弓単独骨折―zygomatic arch fracture―
A.骨折の様相と症状,所見
B.X線所見
C.手術
V.鼻骨骨折―nasal bone fracture―
A.骨折の様態
B.鼻中隔骨折について
C.診断
D.整復
E.固定
F.亜陳旧例の治療
G.陳旧例の治療
VI.鼻骨-篩骨合併骨折―naso-orbital fracture―
A.解剖
B.骨折の様態と合併症
C.分類
D.症状,所見
E.新鮮例の治療
F.陳旧例の治療
VII.下顎骨骨折―mandibular fracture―
A.骨折の機序
B.オトガイ部~下顎枝の骨折
C.関節突起部骨折
VIII.Le Fort型上顎骨折―Le Fort type fracture―
A.骨折の分類
B.骨折の様相と外カ
C.合併損傷
D.症状,所見
E.画像所見
F.診断
G.新鮮骨折の治療
H.小児の骨折の治療
I.陳旧性骨折の治療
IX.前頭骨-前頭蓋底骨折―fronto-basal fracture―
A.限局型骨折
B.前頭洞,篩骨洞のmuco/pyocele
C.広汎型骨折
X.広汎な外傷―extensive facial injury―
初版の刊行から20年が経過し,二昔前の内容を何とかup-dateにすべく約6カ月聞を費やして脱稿した。20年前に一部の方々の中には,顔面骨骨折の治療はすでに完成し, もはや新じい知見は出ないだろうという見解もあった。しかし「本当にそうだ
ろうか,個々の症例を治療する度に分からないことがたくさんあっても,それを解明する手段がないだ、けに過ぎないのではないか」という思いが強かった。正確な診断,手術適応の決定,術後の長期成績のどれをとっても分からないことの方が多かった。逆説的にいえば,全部分かったとは,何も分かつていないのかも知れない。
幸いなことに多くの先達の努力と他分野の技術革新の思恵を得て,近年顔面骨骨折の治療は格段と進歩し,多くの施設でごく日常的な手術として定着してきた。進歩の大きな原動力は多岐にわたるが,おもなものはCTを始めとする画像診断の進歩, マイクロプレート, ミニプレートの開発と普及,手術器具の進歩,主として先天異常に対するcraniofacialsurgeryの手技の確立と顔面骨骨折に対するその応用,などが挙げられる。
とくに画像診断の進歩は計り知れない大きな力となっている。CT,3 D-CT, 3 D実体模型は一連の進歩の軌跡であるが,診断だけでなく,各部の面積,体積の計測が可能となったことと相まって骨折病態の解明にも役立ち,治療にも大きな力となっている。マイクロプレートの普及は,ひとえに強固な固定手技であるだけにとどまらず,一部の骨折の治療概念の変革を迫るものでもある。Craniofacialsurgeryの基本手技では,先天異常の治療と骨折治療の両者の知見がキャッチボールのように往き来する進歩の過程となった。本版ではこれらの知見をあますところなく網羅できたものと自負している。lつの治療法の良否は長いフォローアップの末に決められるべきものであるが,内外の多くの文献をみても決して十分に長いフォローとはいえない結果に基づいた論述が少なくない。残念ながら初版も必ずしもこの例外ではなかったと反省している。この点に関して本版の記述全般はできる限り長いフォローを重視したつもりである。
生体吸収性プレートの応用,内視鏡支援手術に関しては今後の普及が期待される。画期的な新素材の応用,組織工学の応用に関しては今後の課題であるが,いずれ骨移植の考えも大きく変わるであろうし,骨癒合の人工操作も可能となる日が意外に早く訪れるかも知れない。
さて,初版では若気の至りで記述にも独断が多く,文献の引用ぢ不足していたことを反省している。本版の文献は内外の雑誌などに広く目を配ったつもりである。文献のコピーの厚さが50cmを越えたが主要なものだけを引用させて頂いた。それでも引用が多すぎてピントがぼけた記述になったかも知れないと恐れている。故意か無知ゆえかほかの論文を無視したり,一知見に対するpriorityをないがしろにする論文が散見されるが,これを快としないからである。
骨折の統計などは初版のものを転用した。近年は著者以外の術者も多いので,統計としては初版の方が適切と考えたからである。本版に掲載した図表の一部は教室員の業績を使用している。ここに教室員全員の協力に謝意を表したい。
1999年11月吉日
大阪医科大学形成外科田嶋定夫