麻酔科学スタンダード I 臨床総論

麻酔科学スタンダード I 臨床総論

編集 日本大学教授 小川節郎・関西医科大学教授 新宮 與・慶應義塾大学教授 武田純三・千葉大学教授 西野 卓
ISBN 4-7719-0260-7
発行年 2003年
判型 B5
ページ数 384ページ
本体価格 9,500円(税抜き)
電子版 なし


第1章 術前管理/1

1-A
術前評価とインフォームドコンセント/3
弓削 孟文

1-B
術前準備と麻酔前投薬/24
大江 容子

1 術前回診/3 1 前投薬の目的/24
A.術前回診は安全な麻酔管理の出発点である/3 A.不安の除去/24
B.術前回診は何のために行うか?/3 B.有害反射の抑制/25
C.術前回診のポイント/3 C.唾液・気道内分泌物の抑制/25
D.術前回診の際の患者の診方/6 D.吸引性肺炎の予防/25
2 術前評価/7 E.悪心・嘔吐の予防 /26
A.中枢神経機能/9 F.その他/26
B.呼吸機能/9 2 薬物の種類と効果/26
C.心・血管機能/10 A.ベンゾジアゼピン系薬物/26
D.肝機能/13 B.バルビタール薬/27
E.腎機能/13 C.α2アドレナリン受容体刺激薬/28
F.内分泌機能/13 D.ヒスタミンH2遮断薬/28
G.体液・電解質バランス調節機能/14 E.制酸薬/29
H.酸塩基平衡調節機能/14 F.制吐薬/29
I.栄養・代謝機能/14 G.抗コリン薬/30
J.出血・凝固・線溶系機能/14 3 前投薬の投与法/31
K.感染防御(免疫)機能/14 4 禁飲食/32
3 術前合併症と術前使用薬/14
A.物理化学的な相互作用/15
B.薬物動態学的相互作用/16
C.薬物力学的相互作用/16
4 手術リスクと麻酔リスク/17
A.得られた情報から麻酔管理計画(麻酔方法や全身管理計画全般を意味する)を組み立てる/17
B.患者本人および家族への麻酔管理に関するインフォームドコンセント/21

第2章 全身麻酔に使う装置と器具/35

2-A
麻酔器/37
河野 昌史

2-B
麻酔器具/55
井上 哲夫

1 麻酔器へのガス供給システム/37 1 マスク/55
A.ガスボンベ(gas cylinder)/37 2 気管チューブ/56
B.中央配管システム/38 3 喉頭鏡/59
2 麻酔器の基本構造/40 4 マスク換気,気管挿管の補助器具/60
A.ガス供給システムからの接続部/40 A.エアウェイ類/60
B.圧力調整器(減圧弁)/41 B.スタイレット類/60
C.流量調節装置/42 5 その他のエアウェイ器具/61
D.緊急酸素供給弁(酸素フラッシュ)/44 A.ラリンジアルマスクエアウェイ(laryngeal mask airway:LMA)/61
E.安全装置/44 B.カフ付き口咽頭エアウェイ(cufffed oropharyngeal airway:COPA)/62
3 呼吸回路の種類/46 C.コンビチューブ(combitube)/62
A.吸気弁と呼気弁/47 D.その他/62
B.蛇管,Yピース,アングルピース,バッグ/47
C.APL弁/47
D.カニスタ/47
E.その他の呼吸回路/49
4 気化器/50
A.気化器の構造とガスの流れ/50
B.最新型気化器Tec6/51
C.人工呼吸時の間欠的逆圧防止システム/51
D.誤注入防止システム/52
E.インターロック機構/52
5 麻酔器の始業点検/53

第3章 気道確保と気管挿管/65
謝  宗安

1 歴史/67 E.気管・気管支の解剖/69
2 気道の解剖/68 3 気管挿管の適応/71
A.口腔の解剖/68 4 挿管ルート/71
B.鼻腔の解剖/68 A.気管挿管/71
C.咽頭の解剖/69 B.気管切開/75
D.喉頭の解剖/69

第4章 挿管困難時における対応/77
浅井  隆

1 はじめに/79 G.経皮気管換気/82
2 挿管および換気困難の頻度/79 H.体外循環/82
3 挿管困難な症例における各器具の役割/80 4 術前気道評価/83
A.喉頭鏡/80 5 気道確保困難な症例の管理/84
B.ブジーおよびスタイレット/80 A.挿管,換気困難が予測されている場合/84
C.ファイバースコープ/81 B.麻酔導入後の挿管,換気困難/87
D.ラリンジアルマスク/81 C.挿管困難であった症例における抜管/88
E.その他の器具/82 D.術後の対応/88
F.逆行性気管挿管/82 6 結 語/88

第5章 麻酔深度と徴候/89
新宮  興,村尾 浩平

1 麻酔深度に関する考え方の変遷/91 D.食道下部自発性収縮/98
2 MACおよびMACawakeなど/92 6 脳波とその応用/98
3 MAC概念の仮説への疑問/94 A.パワースペクトル解析/99
4 静脈麻酔における麻酔深度/95 B.脳波による麻酔深度モニタリングの問題点/99
5 各種生命徴候による麻酔深度判定/96 C.バイスペクトラル・インデックス(bispectral index:BIS)モニター/101
A.体 動/96 D.聴覚誘発電位/101
B.前腕分離法(isolated forearm technique)/96 7 術中覚醒/101
C.自律神経反応/98 8 適正な麻酔深度/104

第6章 麻酔中のモニタリング/107
川口 昌彦,古家  仁

1 呼吸のモニタリング/109 E.肺動脈カテーテル/115
A.酸素濃度計/109 F.経食道心エコー法/116
B.胸郭の動き,呼吸パターン/110 3 神経筋接合部のモニタリング/118
C.呼吸バッグの手ごたえ/110 A.筋弛緩モニター/118
D.呼吸音の聴取/110 B.刺激と反応パターン/118
E.回路内圧計/110 4 体温・代謝のモニタリング/119
F.換気量計/110 A.体温のモニタリング/119
G.パルスオキシメータ/110 B.代謝のモニタリング/120
H.カプノメータ/111 5 止血・凝固系のモニタリング/120
I.血液ガス/112 A.出血時間/121
J.胸部X線写真/113 B.プロトロンビン時間(prothrombin time:PT)/121
K.気管支鏡/113 C.活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)/121
2 循環モニタリング/113 D.トロンビン時間/121
A.触診,聴診,視診/113 E.活性化凝固時間(activated clotting time:ACT)/121
B.心電図/113 F.へパリナーゼACT/121
C.血圧/114 G.フィブリノーゲン/121
D.中心静脈圧/115 H.フィブリン分解物(fibrin degradation product:FDP)/ Dダイマー/121

第7章 吸入麻酔法/123
風間 富栄

1 吸入麻酔の歴史/125 D.術中覚醒/133
A.麻酔作用とその構造/125 E.麻酔深度のモニター/133
B.現在求められる吸入麻酔薬の条件/126 F.脳波,脳圧に関する影響/134
2 吸入麻酔の分類/127 G.血圧に対する作用/134
A.吹送法/127 H.心拍数に対する作用/134
B.開放法/128 I.冠循環に及ぼす作用/134
C.半開放法/128 J.低酸素性肺血管収縮に及ぼす作用/134
D.半閉鎖法/128 K.エピネフリンに対する心臓の感受性/135
E.閉鎖法/128 L.気道刺激性/135
3 吸入麻酔による麻酔導入,覚醒/129 5 吸入麻酔薬の摂取と排泄および代謝/135
A.緩徐導入と急速導入/129 A.代謝される吸入麻酔薬/135
B.Volatile Induction Maintenance Anesthesia(VIMA法)/129 B.ハロタン肝炎/136
C.麻酔導入時間に与える因子/130 C.ハロタン肝炎の分類/136
4 吸入麻酔による麻酔維持/132 D.他の吸入麻酔薬による肝炎/137
A.同じMAC相当であっても個々の麻酔薬によって異なる麻酔深度/132 E.吸入麻酔薬と腎障害/138
B.鎮痛と鎮静の相互作用/132 6 各種吸入麻酔薬/139
C.手術侵襲によって変化する麻酔深度/133 A.ガス吸入麻酔薬/139
B.揮発性吸入麻酔薬/139

第8章 静脈麻酔法/143
坂井 哲博

1 静脈麻酔法の利点と欠点/145 4 プロポフォール麻酔/149
A.TIVAの利点/145 A.歴史/149
B.TIVAの欠点/146 B.薬物動態/149
C.TIVA(PFK)の利点/146 C.臓器機能に及ぼす影響/149
D.TIVAにケタミンを用いていることの利点/147 5 ケタミン麻酔/150
2 静脈麻酔薬の種類/148 A.歴史/150
3 バルビツレート麻酔/148 B.薬物動態/150
A.歴史/148 C.臓器機能に及ぼす影響/151
B.薬物動態/148 6 全静脈麻酔法(TIVA)/152
C.薬力学/148 7 標的濃度調節持続静注(target controlled infusion:TCI)/153
D.臓器機能に及ぼす影響/148 A.TCIの利点と問題点/154

第9章 麻酔による呼吸系の変化/157
西野  卓

1 麻酔による呼吸調節系の変化/159 B.麻酔関連薬物の気道抵抗に与える影響/166
A.麻酔下における呼吸調節/159 3 麻酔による肺循環の変化/166
B.麻酔下でのCO2応答と低酸素応答/160 A.肺内血流分布/166
C.CO2無呼吸域値/160 B.低酸素性肺血管収縮/167
D.各種麻酔薬の呼吸調節系への影響/162 4 麻酔による呼吸合併症/167
2 麻酔による呼吸メカニックスの変化/164 A.換気障害/167
A.麻酔による機能的残気量の変化/165 B.酸素化障害/168
第10章 麻酔による循環系の変化/171
岡本 浩嗣,外 須美夫
1 麻酔薬の心血管系への影響/173 C.麻酔薬と体液性制御系/175
A.麻酔薬と心臓/173 3 麻酔による循環器合併症/175
B.麻酔薬と血管系/173 A.不整脈/175
2 麻酔による循環調節系の変化/174 B.心筋虚血/175
A.麻酔薬と神経性制御系/174 C.心停止/176
B.麻酔薬と脳循環制御系/175

第11章 麻酔による神経内分泌系の変化/179
瀬川  一

1 内分泌系の機能と調節機構/181 E.副腎皮質ホルモンの補充療法/187
A.ホルモンの分泌調節機構/181 3 麻酔とサイトカイン/187
2 麻酔・手術侵襲ストレスと内分泌系の変化/182 A.サイトカインとは/187
A.ストレスが内分泌系に及ぼす影響/182 B.急性期反応/188
B.手術侵襲と内分泌反応/183 C.麻酔,手術とサイトカイン/188
C.麻酔薬による内分泌反応の修飾/184 D.サイトカインバランス/189
D.内分泌ストレス反応の意義/186 4 最後に/190

第12章 局所麻酔法/193

12-A
局所麻酔法の定義と分類/195
寺井 岳三,浅田  章

12-B
局所麻酔法の合併症と局所麻酔薬中毒/205
西川 精宣,浅田  章

1 表面麻酔(topical anesthesia)/195 1 手技に伴う合併症/205
2 浸潤麻酔(infiltration anesthesia)/195 2 使用する薬物に基づく合併症/205
3 静脈内区域麻酔(intravenous regional anesthesia)/196 A.局所麻酔薬中毒/205
4 伝達麻酔(conduction anesthesia)/197 B.アレルギー反応/209
A.上肢の神経ブロック:腕神経叢ブロック(brachial plexus block)/198 C.メトヘモグロビン血症/209
B.下肢の神経ブロック/200 D.局所毒性/209
C.胸郭の神経ブロック/202 E.添加エピネフリンによる合併症/210
D.局所麻酔薬の選択/203

第13章 硬膜外麻酔法/211
高崎 眞弓,笠羽 敏治

1 歴史/213 6 生理学的変化/222
A.外国/213 7 適応と禁忌/222
B.日本/214 A.適応/222
2 解剖/214 B.禁忌/223
A.硬膜外腔の広がり/214 8 硬膜外麻酔と全身麻酔の併用/223
B.硬膜外腔の圧/216 A.硬膜外麻酔の長所/223
3 作用機序/216 B.硬膜外麻酔の短所/223
4 器具と局所麻酔薬/217 C.全身麻酔との併用/223
A.器具/217 9 合併症と対策/224
B.局所麻酔薬/218 A.手技に基づいて起こる合併症/224
5 手技/220 B.薬理学的合併症/224
A.硬膜外穿刺/220 C.生理学的合併症/224
B.仙骨硬膜外穿刺/221 D.神経系の合併症/225

第14章 脊髄くも膜下麻酔法/227
佐伯  茂

1 脊髄くも膜下麻酔の歴史/229 5 脊髄くも膜下麻酔の手技/239
2 脊髄くも膜下麻酔に関連した解剖と生理/229 A.準備/239
A.解剖/229 B.手技/239
B.生理/231 C.穿刺が成功しない場合の対策/240
3 脊髄くも膜下麻酔用器具と使用局所麻酔薬/235 D.麻酔効果が不十分な場合の原因と対策/241
A.脊髄くも膜下麻酔用器具/235 E.麻酔高に影響を与える因子/241
B.脊髄くも膜下麻酔薬/236 6 脊髄くも膜下麻酔の合併症と対策/242
4 脊髄くも膜下麻酔の適応と禁忌/238 A.脊髄くも膜下麻酔により早期に起こる合併症/242
A.脊髄くも膜下麻酔の適応/238 B.術後に認められる脊髄くも膜下麻酔の合併症/242
B.脊髄くも膜下麻酔の禁忌 /238 7 脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の比較/245

第15章 低体温麻酔法と低血圧麻酔法/247

15-A
低体温麻酔法/249
野村  実

15-B
低血圧麻酔法/255
野村  実,長沢千奈美

1 はじめに/249 1 低血圧麻酔法とは/255
2 低体温麻酔法の目的および適応/249 2 低血圧麻酔の適応/255
3 低体温麻酔の分類/249 A.血管外科手術/255
A.体温による分類/249 B.著しい血圧上昇が予想される疾患/256
B.冷却方法による分類/249 C.輸血/256
4 低体温麻酔の生理/250 3 低血圧麻酔の方法/256
A.冷却による寒冷反応/250 A.血液脱血還血法/256
B.代謝/250 B.トリメタファン/256
C.循環器系/250 C.ニトロプルシド(sodium nitroprusside:SNP)/258
D.不整脈/250 D.ニトログリセリン/258
E.中枢神経/250 E.アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate:ATP)/258
F.呼吸機能/251 F.プロスタグランジンE1(prostaglandin E1, :PG E1)/259
G.血清電解質,血液凝固/251 G.ニカルジピン/259
H.肝・腎機能/251 H.ジルチアゼム/259
5 麻酔方法の実際/251 I.麻酔薬による低血圧麻酔/259
A.麻酔前投薬/252 4 低血圧麻酔法の病態生理と禁忌/260
B.麻酔薬/252 A.低血圧に伴う生体の諸変化/260
C.冷却・加温法/252 5 おわりに/261
D.モニター/252
6 低体温麻酔の各論/252
A.開心術/252
B.脳神経外科/254
7 おわりに/254

第16章 輸 液/263
宮尾 秀樹

1 体液調節/265 B.術後の栄養基質の代謝/275
A.体液分画と電解質組成/265 6 ショック時の輸液/276
B.体液量の調節/265 A.出血性ショック,循環血液量減少/276
2 血液製剤の種類/267 B.心原性ショック/277
A.アルブミン製剤/267 C.敗血症性ショック/277
3 術前輸液/269 7 新生児,幼児の輸液管理の特殊性/278
A.必要水分量/269 A.健康乳児,小児の水分と電解質の必要量/278
B.電解質必要量/269 B.水分と電解質の経口摂取/279
4 術中輸液/269 C.水分と電解質の非経口的投与/279
A.術中輸液の考え方/269 D.乳児,小児の脱水/279
B.細胞外液/271 8 輸液の合併症/279
C.膠質輸液/271 A.穿刺に伴うもの/279
5 術後輸液/273 B.製剤そのものに伴う合併症/280
A.経口投与開始までの輸液/273 C.量的な合併症/280

第17章 輸 血/283
巌  康秀

1 輸血を必要とする病態/285 A.免疫反応/288
2 輸血の種類と適応/287 B.感染症/290
3 輸血準備/287 C.大量輸血時の合併症/292
4 輸血の副作用/288

第18章 各種輸血法/293
岡崎  敦

1 自己血輸血法/295 D.回収式自己血輸血法/297
A.自己血輸血法の分類/295 2 血液希釈法/300
B.貯血式自己血輸血法/296 3 人工血液/300
C.希釈式自己血輸血法/297

第19章 麻酔と体位/303
小松  徹

1 基本的体位/305 D.側臥位/310
A.仰臥位/305 E.坐位/311
B.腹臥位/305 F.砕石位(切石位)/311
C.側臥位/305 6 末梢神経障害/311
D.砕石位(切石位)/305 7 術後末梢神経障害の起こりやすい神経/313
E.坐位/305 A.尺骨神経障害/313
2 適切な体位-手術操作をするのに最適な体位と患者の安全性の調和-/305 B.腕神経叢障害/313
3 体位変換の準備/307 C.橈骨神経障害/313
4 患者に装着している医療器具の保護/307 D.腓骨神経障害/313
5 体位変換により起きる生理的変化/307 E.大腿神経障害/313
A.仰臥位/308 F.大伏在神経障害/314
B.頭部低位-トレンデレンブルグ体位/309 8 体位による神経以外の障害/314
C.腹臥位/309 9 まとめ/314

第20章 滅菌・消毒と感染防止/315
西岡 憲吾,石原  晋

1 滅菌・消毒の定義/317 A.手指の消毒/323
A.滅菌/318 B.術野の消毒/324
B.消毒/318 5 感染症患者対策/325
2 滅菌法/319 A.標準予防策/326
3 消毒薬の種類と効果/321 B.針刺し事故対策/326
4 手指と術野の消毒法/323 C.結核菌対策/328

第21章 手術室安全対策/331
釘宮 豊城

1 麻酔ガスによる手術室汚染とその対策/333 3 電気系統の管理と事故防止対策/345
A.麻酔ガスによる手術室汚染/333 A.電撃事故/345
B.麻酔ガスによる手術室汚染対策/333 B.停電/347
C.余剰ガス排除装置の問題/333 4 手術室内汚染とその管理(空調管理を含む)/348
2 医療ガスの取り扱いと安全管理/334 A.手術室の空調/348
A.医療ガスとは:その種類と性質/334 B.空気中の汚染/348
B.医療ガスの供給と配管/336 C.クリーンルームの空調/351

平成12年,本郷三丁目のTYビル・日本麻酔学会(当時)事務局で開かれた広報委員会が終了したある日,克誠堂出版,故・今井 彰社長からお声がかかり,「最新の麻酔の知識を取り入れた上級者向きの麻酔科学の教科書を作りたい。読者対象は麻酔指導医試験受験者」「編集者は55歳以下で,執筆者もできるだけ現役の方」というものであった。私のようなものでは無理と思っていたが,その後,間もなくして3名の編集者のお名前が挙がってきた。すなわち,千葉大学の西野 卓教授,慶應大学の武田純三教授,それに関西医科大学の新宮 興教授である。これらの方々のお力があれば,今井氏の思い描くすばらしい麻酔科学の教科書を作ることが可能であると確信した。以降,御茶ノ水の山の上ホテルにて数回の編集会議を経てその骨格ができ上がった。このような経緯によって本書が企画され発刊となった次第である。本書は4巻から構成されるが,第1巻目の発刊を待たずして今井氏がご他界なされたのはいかにも残念なことである。氏のご霊前に本誌を謹んでお供えしたい。

麻酔科学の分野はあまりにも広い。解剖学,生理学,薬理学など基礎医学の知識の上に構築されていることはもちろん,内科学の広い知識を必要とする学問でもある。鍛練の必要な技術の習得も課されている。しかし,だからこそ麻酔科学がおもしろく,興味の尽きない学問であることを物語っていよう。麻酔科医といっても施設や,おかれた環境によって,習得できる知識に偏りができてしまうことはいたしかたないことである。そして多くの麻酔科医は日常の臨床業務を行いながら知識の習得を行い,そして麻酔指導医試験に備えている。そのような状況にある麻酔科医にとって,程度の高い麻酔科学の知識を分かりやすく習得できる教科書が必要である。本書のコンセプトは,書名「麻酔科学スタンダード」のとおり,麻酔科医にとって日々の教育,臨床において必要な基礎的知識とともに,現在この分野で標準的であると考えられている知識・情報を分かりやすく提供することにある。従って,エキスパート・オピニオンによる情報・知識は避け,EBMの立場からもできるだけ質の高い新しい知識を掲載することを各ご執筆者の方々にお願いした。同時に過去の麻酔指導医試験問題を参考とし,本書の内容が指導医試験に十分対応できるものであることを前提としてご執筆いただいている。

第1巻は「臨床総論」,第2巻は「臨床各論」,第3巻は「基礎」そして第4巻は「関連領域」とした。各巻それぞれの項目は,その分野を得意とする方々にご担当いただいた。脱稿された原稿は4名の編集者が必ず全員で目を通して,本書のコンセプトに見合ったものかをチェックさせていただいている。加筆,修正をお願いした先生には,この紙面をもって失礼の段おわび申し上げる次第でありますが,どなたも快く応じていただき,編集者一同,こころより感謝の意を表するものであります。

毎年,新しい薬が世に出てきたり新しい麻酔法やモニター機器が開発されてきたりと,麻酔科学の分野でもその内容は日々大きく変化している。今の時点でより優れた方法とされているものも,数年後には別の評価を得るということもまれではない。読者の皆様からのご批判に答えながら,今後そのような変遷にも目を向けて本書が長い命を受け継いでくれることを願いつつ,序文としたい。

2003年1月
小川節郎

I 臨床総論 序文

麻酔科学の知識や技術は日進月歩である。例えば,経食道エコーのように10年前までは特殊な病院で特殊なケースにしか使用されなかった技術が,今や一般病院でモニターの一つとして使用されるようになってきているのがその一つの例である。一方,最近のEBMの普及により,我々が長年,常識と考えてきた知識や治療法が実はそれほど根拠があったものではなかったというようなことにも度々遭遇する。このような状況下で古くなった知識や技術を定期的に新しいものと置き換えることは必須であると言える。しかし,麻酔学は比較的新しい学問であるが,その守備範囲は広く,その根底には膨大な情報が横たわっている。我々個人がそのような膨大な情報を収集処理できる能力には限りがあり,膨大な情報の中から必要な情報を効率良く取捨選択するには専門家の助けを得ることが必要となる。このようなコンセプトに基づいて麻酔科領域のほとんどすべてを網羅した麻酔科スタンダードの執筆が計画された。当然ながら,厳選したにも関わらずその情報量は多く,一冊には収まりきらない内容と成った。本書は4巻から成る麻酔科スタンダードの先陣をきる巻「臨床総論」として発刊された。本書はその表題のように臨床麻酔全般にわたる知見がまとめられており,この一冊で臨床麻酔の概要を掴める形になっている。しかし,本書の各章はそれぞれ独立した形で書かれており,読者が個別に読みたい章だけを読むことも勿論可能である。内容的には麻酔科の専門医あるいは専門医を目指す医師を対象としており,学生や研修医用の教科書以上のものが含まれているが,重箱の隅を突っつくような内容は避けてある。より高度の内容が必要な場合には続いて発行される「臨床各論」や「基礎」あるいは「関連領域」を参照することを推奨したい。

終わりに,忙しい中にも貴重な時間と労力をさいて執筆を分担してくださった先生方に心から御礼申しあげたい。

2003年1月
編集者一同