PCA(自己調節鎮痛)の実際
第1章 PCAの概念と方法〔表 圭一〕…1
- Patient-controlled analgesia(PCA,自己調節鎮痛)の基本概念/1
- PCAの歴史/1
- PCAの基本原理/2
- PCAによる鎮痛薬血中濃度と鎮痛効果/2
- PCA機器(ポンプ)/4
- PCAの投与方法 5
- 静脈内PCA/5
- PCA+持続注入(PCA+continuous infusion:PCA+CI)/7
- Patient-controlled epidural analgesia(PCEA)/7
- PCAの有効性/7
- PCAの安全性/8
- PCA使用と治療費コスト/8
- PCA使用と看護スタッフの労働/8
- 海外と日本におけるPCA使用の状況/9
- 海外/9
- 日本/10
第2章 PCA機器〔川股知之〕…13
- はじめに/ 13
- 精密PCA機器 13
- マイクロジェクトPCAポンプ・PCEAポンプ(アロウジャパン)/13
- テルフュージョンTE-361 PCA(テルモ)/15
- マルチセラピーポンプ6060(バクスター)/16
- CADD-Legacy PCA(スミスメディカル・ジャパン)/16
- アトムPCAポンプ500(アトムメディカル)/17
- ディスポーザブルPCA機器 18
- シリンジェクターPCA装置(大研医器)/18
- ワンディブPCA(ディブインターナショナル)/20
- ニプロシュアーフューザーA PCAシステム/セット(ニプロ)/21
- バクスターインフューザーPCAシステム(バクスター)/23
第3章 PCAを有効に安全に行うためのコツ―管理体制,教育,実施にあたっての問題点と解決法―〔井上莊一郎〕…27
- はじめに/ 27
- 医療従事者が知らなくてはいけないPCAの基本/27
- 疼痛の特徴/27
- 疼痛の個人差と鎮痛薬の必要量に関する研究/28
- PCAの適応/29
- 投与経路/29
- 使用薬剤/30
- PCAの禁忌/30
- PCAに関連する用語の解説と基本的な投与方法/30
- PCAの特徴/31
- PCAを成功させるポイント/33
- PCAボタンの操作/35
- PCAポンプの種類/36
- 勉強会を行う際の要点/37
- 患者へのPCAの説明/37
- 疼痛を我慢しないこと/38
- PCAの概念の説明/38
- ボタンを押すタイミングの説明/38
- >ロックアウト時間の説明/39
- PCAが施行されている患者の監視/39
- 疼痛の評価/39
- バイタルサインの監視/40
- 鎮痛薬による副作用の評価と対処方法の確立/41
- 不十分な鎮痛への対処/42
- PCAの設定の変更,PCAの終了/42
- PCAポンプの故障やアラームヘの対応/43
- 薬剤部との連携/43
- PCAポンプの管理/44
- 手術室や麻酔科外来で麻酔科医がポンプを管理する方法/45
- 病棟でポンプを保管する方法/45
- 中央部門での管理/45
- PCAに使用する消耗品の管理/46
- おわりに /46
第4章 術後痛1(静脈内PCA)〔中塚秀輝,佐藤健治,森田 潔〕…49
- はじめに /49
- 静脈内PCA /49
- 静脈内PCAの現状/49
- 静脈内PCAの特徴/50
- 静脈内PCAの実際/ 50
- 使用鎮痛薬(オピオイド)の選択/50
- PCAポンプ/51
- 併用薬/53
- 副作用/54
- 実際の投与例/55
- 術後痛/55
- ペインクリニック:癌性疼痛/56
- ペインサービス/58
- 評価/58
- ペインサービスチーム/59
- 患者教育と症例の選択/59
- おわりに /59
第5章 術後痛2(硬膜外PCA:PCEA)〔橋口さおり〕…61
- 術後痛の特徴/61
- 硬膜外鎮痛法/62
- 利点/62
- 硬膜外カテーテル留置部位/62
- 禁忌/63
- 薬剤の選択/64
- 硬膜外PCAの実際/67
- 処方例/67
- 開胸手術/68
- 整形外科/68
- PCEAで鎮痛が不十分な場合の対応/68
- 硬膜外カテーテルの管理/69
- 副作用対策/69
- 呼吸抑制/69
- 鎮静/70
- 悪心・嘔吐/72
- 下肢運動障害/72
- 低血圧/72
- 掻痒感/73
- 尿閉/73
- カテーテルのくも膜下腔迷入/73
第6章 和痛・無痛分娩〔角倉弘行〕…77
- 無痛分娩を普及させるために(PCAに期待される役割)/77
- 分娩の生理/79
- 無痛分娩に用いられる方法/80
- 硬膜外麻酔による無痛分娩/81
- 脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の併用による無痛分娩/81
- 吸入麻酔による無痛分娩/82
- 静脈麻酔による無痛分娩/82
- PCEAによる無痛分娩/82
- PCEAの利点/82
- いつ無痛分娩を開始するか/83
- 使用する薬剤およびレジメン/84
- 脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の併用(CSE)による無痛分娩とPCEA/85
- CSE+PCEAの利点/85
- いつ脊髄くも膜下麻酔を行うか/85
- 使用する薬剤およびレジメン/87
- 無痛分娩に用いるPCA装置/87
- 産婦および助産婦への啓蒙/90
- 産婦への無痛分娩の啓蒙とPCAの説明/90
- 助産婦への無痛分娩の啓蒙とPCAの説明/91
- まとめ/91
第7章 小児の疼痛〔田中裕之〕…93
- はじめに/93
- 小児の疼痛の特殊性と評価法/93
- 小児PCAの特殊性/94
- PCAの実際/95
- 症例/97
- PCAの適応疾患/97
- PCAポンプ/97
- 投与経路/97
- 薬剤/98
- 設定/99
- PCAの中止/100
- PCAの変法/100
- モニタ/101
- 副作用と対策/101
- 疼痛管理チームの役割/102
- まとめ/103
第8章 癌性疼痛〔喜多正樹〕…107
- 癌の痛みの特徴/107
- 多様な原因/107
- 多発的/108
- 進行性/108
- 全身状態による影響/108
- 精神状態や心理状態による影響/108
- 症例/108
- イレウスで経口投与が不可能になったためPCAに移行した症例/108
- PCAと鎮痛補助薬の併用により良好な疼痛コントロールができた症例/110
- PCAによるモルヒネ持続皮下注を行った症例/112
- 硬膜外PCAを行った症例/113
- PCAで大量のモルヒネを使用しながら在宅療養を行った症例/114
- 頻回のrescue投与が行われた症例/115
- 癌性疼痛におけるPCA装置の条件/116
- 癌性疼痛管理にPCAを運用するうえでの注意点/117
- 患者側の注意点/117
- 看護スタッフの注意点/117
- 医師側の注意点/118
- まとめ/118
第9章 PCAの普及にあたって〔川真田樹人,並木昭義〕…119
- はじめに/119
- わが国におけるpatient-controlled analgesia(PCA)の現状/119
- PCAの使用状況/119
- PCAを使用しない理由/120
- PCA使用時の薬剤投与経路/121
- 投与薬剤の種類/121
- 看護師のPCA認知調査/123
- わが国におけるPCAの問題点/124
- アンケート調査から明らかになったわが国のPCAの問題点/124
- PCAの普及に向けた方策/125
- ともかく導入する/125
- PCAを標準の鎮痛法とするために/125
- おわりに/126
- 索引/129
疼痛に対する考え方,対処の仕方は時代とともに変化する。最近,疼痛患者が自分自身で鎮痛を必要とする時に,予め設定されている鎮痛薬を自力で注入する方法,patient-controlled analgesia(PCA)が鎮痛法として注目されている。
わが国においてPCAの普及に努めるために5年前に術後疼痛研究会の中にPCA部門が設けられ,私が代表幹事になって,術後痛研究会と15社のPCAを 取り扱っている医療機器メーカーの人達が会員となって活動が開始された。発足当初は麻酔科学会員の多くがPCAに高い関心を持っていたが,実際の日常診療 ではあまり普及していなかった。その理由として,臨床の現場ではPCAに対して正しい理解が得られていない,その実施に責任を持って踏み切るだけのマンパ ワーがない,PCA専用の器械が不足している,あるいは高価なため購入ができないなどの問題点があった。そこでPCA部門の活動として術後痛研究会や麻酔 関連学会において講演,シンポジウムを積極的に行い,麻酔科医だけでなく外科系医師,看護師への教育,啓発活動に努めた。また医療機器メーカーには機器の 型式や操作性の改良,改善,そして低価格を図るように求めた。そして厚労省,保険審査団体にはPCAの保険適用を働きかけた。その結果ある程度の成果を上 げることができた。
PCAは術後痛だけでなく癌性疼痛,無痛分娩などにもよい適応であり,さらに小児から高齢者まで実施できる鎮痛法である。これが確立され普及すると,疼 痛を持った患者に対して大きな福音となる。そこで今回,PCAの啓発,普及に努めて5年が経ったのを一つの区切りとするため,「PCA(自己調節鎮痛)の 実際」という著書を出版することにした。本著書は臨床医がPCAによる鎮痛法を施行できるように,現場に即した解説書を目指すものとした。そのため出来う る限り,多くの図表や写真を用いて,読者が理解しやすいようにする。また各論においてはいくつかの症例呈示を行い,それを丁寧に解説する。これらのことに より,より臨床感のある解説書になるようにした。
本著書は総論と各論に分けられる。総論では札幌医大の表圭一先生がPCAの概念と方法について,PCAの歴史,概念,種々の鎮痛法の中におけるPCAの 位置づけ,投与経路,使用される薬剤,使用方法などを解説した。同大学の川股知之先生がPCA機器について,PCA機器の原理,市販されているPCA機器 についての解説,操作法の概略,コストパフォーマンスなどを解説した。自治医大の井上莊一郎先生がPCAを有効に安全に行うためのコツについて,管理体 制,教育についての具体的方法の呈示,具体的PCA使用症例を呈示し,問題点とその解決法などを解説した。各論では岡山大学の中塚秀輝先生が術後痛1(静 脈内PCA),慶應大学の橋口さおり先生が術後痛2(硬膜外PCA),聖マリアンナ医科大学の角倉私行先生が和痛・無痛分娩,広島大学の田中裕之先生が小 児の疼痛,金沢大学の喜多先生が癌性疼痛についてそれぞれの痛みの特徴を記述し,PCA適応の具体的症例の呈示を行い,その利点と欠点,注意すべき点など を解説した。そして各論の結びとして,札幌医大の川真田樹人先生がPCAの普及にあたってわが国におけるPCAの現況の解析と将来を占うためにアンケート 調査を行い,その調査結果を踏まえた現況の解析による問題点を挙げ,PCA普及に対する啓発をいかに行うべきかを解説した。
疼痛は患者のものであり,治療を含めた対応は患者の理解,納得,同意のもとに行われなければ患者に満足する医療を提供することができない。この点から考 えると,自分で痛みをコントロールできるPCAは患者にとって好ましい鎮痛法と言える。PCAを臨床の現場で正しく,かつ広く普及していくために是非この 著書を手元に置いて活用されることを望むものである。
2004年1月
並木 昭義