ADVANCE SERIES II-2レーザー治療:最近の進歩改訂第2版
第2版 序
形成外科領域におけるレーザー治療は,1983年Andersonらによって発表されたSelective Photothermolysis理論以来いくつかの大きなブレークスルーを経,特に近年は過去に類を見ないほど大きな発展を遂げています。ちなみに本著 の初版が上梓された1995年当時は,レーザー医学が長い間の低迷期からやっと抜け出すことができた直後の開花期でありました。それ以後もレーザー治療, 特に形成外科・皮膚科領域における発展はまさに日進月歩とめざましいものがあり,今回,ここに改訂の運びとなりました。
初版以来,レーザー脱毛とlaser resurfacingの登場により,レーザー医療は急速に美容外科領域への広がりをみせました。一方で,laser rejuvenationは皮膚冷却装置の開発により,ablative therapyからnon-ablative therapyへと発展を遂げ,また一方でnon-coherent light source(flush lump)を利用した光線療法Intense Pulsed Light(IPL),さらには高周波治療法が導入され,このようなIPLと高周波の普及は今後,レーザーのみに限定してきたレーザー医学の潮流を,その 他のエネルギーを包括した医学へと流れを大きく変える可能性を含んでいます。このように近年における形成外科領域のレーザー治療は,対象疾患の拡大も含め て激変し,しかもその変化の速度が加速度的に早まっています。それだけに本著は,執筆の依頼から完成まで1年以内とかなりのご無理をお願いしましたにもか かわらず,快くご協力頂いた執筆者の先生方と中間の労を取って頂いた克誠堂出版の大澤王子様に心より感謝いたします。
今回の改定では全体の構成を多少変更し,まず「総論」ではレーザー医学の基礎と各種レーザーの物理的および生物学的特性を解説して頂き,「治療各論」に おいては実際の治療学について解説して頂きました。したがいまして重複記載が随所にみられ,また実際の適用法や治療成績の評価について多少の相違もみられ ますが,これにはそれぞれの執筆者の経験と技術,工夫とこだわりが盛り込まれており,あえてそのまま残しましたので,読み比べて頂ければ幸いです。内容は 全体として,これからレーザー治療を始める臨床医の手引きとしても有用な解説書を目指したつもりです。したがいまして,「治療各論」では“インフォームド コンセント上の重要事項”という項目を新たに加えました。また読者の理解を助けるためにできるだけ図や写真を多く挿入し,カラー写真の数も増やしました。 さらに,現在わが国で市販されている機器をできるだけ多く紹介して頂くよう各執筆者にお願いしました。前述のようにこの分野の開発競争はめまぐるしく,中 には未だ発展途上の機種,症例数が少なく術後の観察期間が短いなど,エビデンスとは言い難いものもいくつか含まれております。このような点もお含みのう え,本書がこの分野における最新の知見の集大成として少しでもお役に立てれば幸いです。
2004年4月
東海大学医学部形成外科
谷野隆三郎
初版 序
1960年Maimanによってルビーレーザーが発振され,炭酸ガスレーザーは1968年にPatelによって発振され た。単色性,指向性,集束性,高輝度などの優れた性質を持つレーザー光線は,早くから医学の分野で応用が試みられた。現在,眼科傾城では多種類のレーザー 装置を多くの疾患治療に用いており,優れた治療効果を上げ,レーザーなしの臨床は考えられない状態である。その一方で,レーザーの導入を試みたが,治療の コンセプトに合わず,なかなか期待通りの成果が得られないで足踏み状態の科もある。
形成外科領域ではルビーレーザー,アルゴンレーザー,炭酸ガスレーザーがほぼ1970年初期にわが国に導入され,色素性母斑や単純性血管腫の治療,レー ザーメスなどとして用いられた。ルビーレーザーを色素性母斑に照射後,選択的に色素が破壊,消失している治療効果や単純性血管腫にアルゴンレーザーを照射 した際の治療効果にわれわれは驚嘆し,治療は完成したようなものと思ったのである。また,炭酸ガスレーザーはイスラエルよりSharplan 791型(R)の装置が導入され,無血メスとして期待された。Nd:YAGレーザーも少し遅れて導入され,止血の目的で使用された。わが国でも装置の開発 が行なわれ,とくに炭酸ガスレーザーは数社が改良を重ね,装置の小形化,軽量化,低価格化に努力したことは特筆に値する。とくにファイバー誘導の装置を作 製し,製品化したことは世界に誇れることと思う。
この第一期のレーザーは臨床的治験が積み重なるにつれて治療効果の限界が知られるようになり,ルビーレーザーはパルス幅を短くする方向へ,アルゴンレー ザーもパルス発振の色素レーザーに座を明け渡した。炭酸ガスレーザーはピークパーワーを高くする改良が行なわれたが,レーザーメスとしてよりも顔面,躯幹 の小腫瘤の蒸散に用いられて良い結果が得られ,小型で低価格の装置が求められるようになった。
その後thermal relaxation time(熱緩和時間)の概念導入とともに,確実に目的とする色素性病変の選択的破壊ができる装置,すなわちQスイッチレーザーの時代がやってきた。この 装置の導入により,従来手探りで行なってきた治療に初めて物理的概念を導入した治療コンセプトが出き上がり,それに基づき3種類のレーザーが開発され,普 及しつつある。
本書はこれらレーザーの開発,治療を行なってきた歴史をふまえ,今まで使われてきたレーザーの治療効果を長年研究された先生方に執筆して頂き,同時に現 在広く用いられている諸装置の紹介をお願いした。また,レーザーの研究に欠かせない基礎的問題は菊池教授にまとめて頂いた。
メカニズムは十分解明されてはいないが,製品の方が先行し,普及し始めている低エネルギーレーザーについては,治療哲学,基礎研究を行なっておられる先生方に執筆をお願いした。
最近,パルス発振の炭酸ガスレーザーによる皺取り術,美容外科の領域で脱毛,育毛用のレーザー装置が開発中であるとの報告を聞くが,前者は術後の色素沈 着の問題の解決,後者は日本人で同じ結果が得られるかという問題があり,これから治験が始まる状態なので,本書では触れていない。
新しい装置がつぎつぎ開発されることは喜ばしいことであるが,理論的に優れている装置でも必ずしもよい結果が得られる訳でなく,症例に応じ,丁寧に治療 することが良い結果に結びつくことに気づかれると思う。本書に執筆された先生方のご経験がこれからレーザー治療を始めようと考えている先生方のご参考にな れば幸いである。
2004年4月
東海大学医学部形成外科
谷野隆三郎
I.総論
1.レーザー医学の基礎(菊地 眞)
はじめに
レーザーの原理と基礎
Qスイッチ発振
レーザーの物理的特性
レーザーの生体作用
レーザーと生体組織の相互作用
2.レーザー医学と安全管理(玉井久義)
はじめに
レーザー光による障害
レーザー光の危険性の閾値(指標)
レーザー製品のクラス分けと安全対策
レーザー機器の安全使用
システムとしてのレーザーの安全管理
医用レーザーに関する資格認定制度
おわりに
3.医療用レーザー機器について(宮坂宗男)
はじめに
レーザー機器の種類
代表的レーザーと形成外科的適応疾患
4.炭酸ガスレーザー(青木 律,百束比古)
はじめに
物理学的特性と生物学的作用
適応疾患
炭酸ガスレーザー使用時の安全管理
装置
まとめ
5.色素レーザー(林 洋司)
はじめに
物理学的特性
生物学的作用
適応疾患
色素レーザー使用時の安全管理
装置
考察
6.ルビーレーザー(小野一郎)
はじめに
物理学的特性
生物学的作用
適応疾患
治療効果
ルビーレーザー使用時の安全管理
装置
考察
7.YAGレーザー(葛西健一郎)
はじめに
物理学的特性
生物学的作用
適応疾患
YAGレーザー使用時の安全管理
装置
8.アレキサンドライトレーザー(亀井康二)
はじめに
物理学的特性
生物学的作用
適応疾患
アレキサンドライトレーザー使用時の安全管理
装置
9.半導体レーザー(菊池 眞)
はじめに
物理学的特性
生物学的作用
適応疾患
半導体レーザー使用時の安全管理
装置
10.レーザー以外の光学的治療(若松信吾)
はじめに
IPL
RF
LED
Clear Light
Relume
II.治療各論
1.皮膚腫瘍(青木 律,百束比古)
はじめに
レーザー治療の適応となる皮膚良性腫瘍
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
おわりに
2.血管原性疾患
1)血管原性疾患に対するレーザー治療の原理(宮坂宗男)
血管原性疾患の種類とレーザー治療の応用
血管原性疾患に対する適用レーザーと治療の原理
2)単純性血管腫(林 洋司)
単純性血管腫について
適用レーザー
治療の実際
治療成績と治療回数
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
最新の色素レーザー治療
考察
3)苺状血管腫(松本敏明)
はじめに
適用レーザー
治療の実際
治療成績と症例
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
考察
4)その他の血管原性疾患(河野太郎,野崎幹弘)
下肢静脈瘤
毛細血管拡張症,酒さ,被角血管腫
3.色素沈着症
1)皮膚の色素異常症に対するレーザー治療の原理(小野一郎)
はじめに
皮膚の色素異常症に対するレーザー治療の原理
色素沈着症の種類とレーザー治療の適応
皮膚の色素異常に対するレーザー治療
色素沈着症に対する適用レーザー
皮膚の色素異常症に対するレーザー治療法の実際
治療効果
考察
2)母斑細胞母斑(佐々木克己,大城俊夫)
母斑細胞母斑について
適用レーザー
治療の実際
術後管理と術後経過
治療成績と症例
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
考察
3)扁平母斑(中岡啓喜,大塚 壽)
扁平母斑について
適用レーザー
治療の実際
術後管理と術後経過
治療成績と症例
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
考察
4)太田母斑(高田裕子)
はじめに
太田母斑について
太田母斑に対するQスイッチレーザーの作用について
適用レーザー
治療の実際
臨床成績と症例
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
まとめ
5)しみ(百澤 明,吉村浩太郎)
はじめに
しみの分類と治療の適応
治療の実際
術後管理と術後経過
治療成績と症例
ケミカルピーリングとの使い分け
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
考察
6)刺青(葛西健一郎)
刺青について
適用レーザー
治療の実際
術後管理と術後経過
治療成績と症例
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
考察
4.肥厚性瘢痕とケロイド(栗原邦弘)
はじめに
肥厚性瘢痕とケロイドについて
治療法の実際と症例
治療成績と症例
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項と成績判定
考察
5.レーザーリサーフェシング
1)レーザーリサーフェシングの原理(若松信吾)
はじめに
炭酸ガスレーザーの性質と種類
Er:YAGレーザーの性質
炭酸ガスレーザーとEr:YAGレーザーの比較
コラーゲンの収縮作用
炭酸ガスレーザーとEr:YAGレーザーの組織収縮特性
レーザーリサーフェシングの適応
レーザーリサーフェシング以外の治療法について
2)Ablative laser resurfacing(新橋 武)
Ablative laser resurfacingとは
適用レーザー
適応と禁忌
治療の実際
術後管理と術後経過
症例
Ablative laser resurfacingの利点と限界
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
考察
3)Non-ablative laser resurfacing(野田宏子)
Non-ablative laser resurfacingとは
適用レーザー
治療の実際
治療成績と症例
Non-ablative laser resurfacingの利点と限界
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
考察
4)レーザー以外の光学的リサーフェシング(伊藤嘉恭)
はじめに
レーザー以外の光学的リサーフェシングとは
治療の実際
症例
6.レーザー脱毛
1)レーザー脱毛の原理(土井秀明)
はじめに
毛の発育について
脱毛法について
電気脱毛法との使い分け
レーザーで永久脱毛ないしはlong term hair reductionが可能か
まとめ
2)アレキサンドライトレーザー(亀井康二)
アレキサンドライトレーザー脱毛の適応
治療の実際
術後管理と術後経過
治療成績
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
考察
3)YAGレーザー(高山正三,川口英昭)
はじめに
YAGレーザー脱毛の適応
治療の実際
術後管理と術後経過
治療成績と症例
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
考察
4)半導体レーザー(河野太郎,野崎幹弘)
はじめに
半導体レーザー脱毛の適応
治療の実際
術後管理および術後経過
治療成績と症例
合併症とインフォームドコンセント上の重要事項
考察
7.レーザー治療における創傷治癒と処置(山下理絵)
はじめに
レーザー照射後の創傷治癒
照射前処置と注意点
照射後の局所療法のコツ
照射後の発赤を改善させるコツ
照射後色素沈着の予防と治療
まとめ
8.光活性化型レーザー治療の基礎概念(大城俊夫)
はじめに
光線療法の歴史
レーザー治療の概念
レーザー治療およびLLLTの分類
LLLTの基礎研究および臨床応用
将来の展望
9.レーザー治療における保険診療(平 広之,谷野隆三郎)
はじめに
皮膚レーザー照射療法の現行
被フレーザー照射療法の解説と疑義解釈
現行の皮膚レーザー照射療法の解釈
レーザー保険診療の問題点と今後
考察
10.Photodynamic Therapy(PDT)とPhotodynamic Diagnosis(PDD)(森脇真一)
はじめに
PDT,PDDの原理
ALA-PDTの実際
ALA外用PDDの実際
11.形成外科領域におけるレーザー治療の歴史と今後の課題(谷野隆三郎)
形成外科領域におけるレーザー治療の歴史
形成外科領域におけるレーザー治療の今後の課題と最近の話題
おわりに