代用血漿剤と臨床
代用血漿剤 高折 益彦/1
I.代用血漿剤の歴史/3
II.代用血漿剤としての条件/9
III.代用血漿剤の性格/15
1.膠質浸透圧(colloid osmotic pressure : COP) 17
2.粘度(viscosity)と赤血球集合(erythrocyte aggregation) 24
1.代用血漿剤固有の粘度/24
2.代用血漿剤が投与された際の血液粘度変化/25
3.赤血球集合(erythrocyte aggregation)と粘度/31
3.血液量,血漿量 38
4.代謝,排泄 47
5.止血機構 55
1.血小板付着能の低下/55
2.異常フィブリン塊の形成/56
3.凝固因子への希釈作用/59
4.静脈圧の上昇/59
5.末梢微小血管血流(微小血管の拡張)の増加/60
6.末梢微小血管壁への代用血漿剤の付着/60
7.線維素溶解現象の亢進/60
8.凝血塊への赤血球混入量の減少/61
9.血漿フィブリノゲン値の低下/61
6.免疫,アレルギー反応 64
1.代用血漿剤投与に伴うアナフィラキシー反応,アレルギー反応/64
2.代用血漿剤投与による生体防御機能への影響/69
7.組織沈着 76
8.肝機能,蛋白合成 80
9.腎機能 82
IV.臨床使用の代用血漿剤/89
1.デキストラン(dextran : DX) 91
1.代謝,排泄/92
2.血漿増量効果/94
3.出血傾向/94
4.腎障害/94
5.アナフィラキシー,アレルギー反応/96
6.赤血球集合/96
7.血液量増量以外の臨床応用/98
2.ヒドロキシ澱粉(hydroxyethyl starch : HES) 111
1.血液中のα-amylase変化/113
2.体内蓄積/113
3.血漿量,血液量変化/116
4.出血傾向/118
5.凍害防止作用(cryophraxis effect)/121
6.Sealing effect(栓効果)/121
3.修正ゼラチン(modified fluid gelatin : MFG) 127
1.生体内貯留・代謝・排泄/129
2.血液増量・維持効果/132
3.抗体産生,過敏反応/133
4.血液凝固,出血傾向/133
5.血液レオロジー/135
6.腎機能/137
4.Polyvinylpyrrolidone : PVP 141
1.代謝・排泄/141
2.組織沈着/142
3.臓器機能/142
4.血漿量維持効果/143
5.抗原性,アレルギー,アナフィラキシー様反応/144
6.赤血球集合効果/144
7.止血機能/1458.その他/145
5.アルギン酸ソーダ(alginate Na) 147
臨床 小堀正雄/149
I.輸液の基本的考え方/151
1.生理的体液 153
2.術中水分補給 154
3.術中ストレスホルモンの変動 156
4.術中輸液管理 157
II.代用血漿剤の臨床応用/163
1.絶対的循環血液量不足(出血性ショック)の是正 165
2.自己血輸血への応用 173
3.単純血液希釈(増量血液希釈:hypervolemic hemodilution) 179
4.相対的循環血液量不足の是正 179
5.末梢循環改善として 181
6.膠質浸透圧(COP)の利用 184
7.その他の使用方法 185
III.代用血漿剤の問題点/193
1.アレルギー 195
2.腎機能障害 198
3.出血傾向 200
4.許容量 204
IV.血液希釈/209
1.代用血漿剤による血液希釈状態 211
2.血液希釈の安全限界 227
3.血液希釈状態での術中管理 232
4.血液希釈と低血圧麻酔の併用 234
5.血液希釈と創傷治療 237
V.わが国の代用血漿剤の若干の問題/247
1.血漿量維持効果より 249
2.合併症より 249
3.血管透過性より 249
4.分散度より 250
5.溶媒より 250
6.血液希釈液より 251
7.DxとHESの選択より 251
索引/255
参考
コロイド : colloid 12
viscosity gradient index(VGI) 36
erythrocyte suspension value(ESV)とerythrocyte sedimentation rate(ESR) 36
平均分子量と分散度 44
サードスペースの経緯 156
維持輸液剤併用か 158
人工膠質液 158
重炭酸イオンへの転換 158
低張輸液としての細胞外液型輸液剤 158
5%グルコース液 160
細胞外液型輸液剤への糖の添加 160
重炭酸イオン 161
体温管理 168
エンドトキシンショック 168
高張とその程度 172
高濃度膠質液 173
多血症 229
赤血球の指標は妥当か? 230
血液希釈時のモニター 232
代用血漿剤の臨床使用は本文にて述べるごとく前世紀の初頭にはじまり,わが国では昭和30年代後半から40年代前半にもっとも隆盛を極めた。しかし不適正 な使用に基づく腎障害の発生,手術中の出血傾向のために極端に敬遠されるようになった。さらにわが国の経済成長と豊富な外貨獲得に伴い,容易に原料血漿を 外国から輸入し,大量のアルブミン製剤を生産するようになったため,代用血漿剤の臨床使用は極めて制限されるようになった。また代用血漿剤使用に伴う血液 ヘモグロビン値の低下に対しては当時,厳然として10/30ルールが適応され,赤血球製剤の使用が奨められていた。そのため修正ゼラチン,中分子デキスト ランは市場から姿を消し,中分子ヒドロキシ澱粉もほとんど入手できない状態に至った。ただわずかに低分子デキストラン,低分子ヒドロキシ澱粉のみが臨床に 使用されているのが現状である。これに反し欧米でのこれら代用血漿剤の使用は適切な指導のもとに,1960年代と変わることなく綿々として続いている。さ らにここ十数年前から上記の10/30ルールに疑問が持たれるようになり,現在では7/21ルールが一般的となってきた。このように欧米の臨床において代 用血漿剤が綿々として使用されてきた根拠には,医療費の軽減と輸血に伴う合併症の回避によるものもあった。
一方,現今のわが国の輸血医療状況をみるに,年々献血者が減少し,赤血球製剤の供給需給バランスは早晩破綻を来すといわれている。アルブミン製剤につい ては,一部バイオ技術による生産が補充するものの,全使用量の半分量までにとどまり,残りの半量は外国からの輸入に頼る状態は解消できないといわれる。こ のような状態を持続すれば過去にあったJapan bashingが再現することが必定である。さらにアルブミン製剤よりも低価格の代用血漿剤を使用することにより医療費の増加の抑制に多少とも貢献することが望まれる。
そもそも上述したごとくわが国で代用血漿剤が十分に臨床で使用されなくなった原因には,代用血漿剤に対しての十分な認識がなく,ある時には乱用し,また ある時には忌み嫌ったことにあったと思われる。このような状況を考え,何か適切な指導書があるかと,書店の棚上を探したところ代用血漿剤についての単行本 が見当たらず,さらにまた最近では医学雑誌での特集号でも代用血漿剤に関する総説論文集が出されていないことに気が付いた。そのため適当な単行本を作成す ることを克誠堂出版・土田氏に相談したところ,快く同意していただきここに発刊する機会を得るに至った。
代用血漿剤の臨床使用は主として出血に伴う循環血液量の減少を輸血を回避し,あるいは輸血を補助して循環血液量を補うことにある。この場合には必然的に 急性貧血,すなわち急性血液希釈を伴う。現在わが国においても上述の10/30ルールはもはや適応されなくなってきたが,なお急性血液希釈に対して,ある いは7/21ルールに対して危惧の念を持つ臨床医も少なくない。事実,一般に適度の急性血液希釈には危険は伴わないが,特殊症例においては生体機能に異常 を来す場合もないこともない。すなわち急性血液希釈に対して正しい認識を持つことも代用血漿剤の臨床使用を適切ならしめる要因である。この点を考慮して急 性血液希釈に関する章を設けた。また代用血漿剤の使用に伴う体液管理の問題,またその使用が主として出血,循環血液量の改善,維持であることからこれに関 する章も設けて臨床との結びつきを密にした。そしてこれらの章に関しては長年この方面の研究をされておられる昭和大学藤が丘病院麻酔科の小堀正雄先生に担 当していただいた。このことが本書作成に大きな力となったと感謝している。またヒドロキシ澱粉に関してはFresenius Kabi社のDr. Bepperlingに多くの情報を提供していただいたし,日本製薬の東野氏にも資料の提供をいただいた。さらに代用血漿剤の歴史に関しては弘前大学医学 部麻酔科学教室の松木明知先生から多くのご助言をいただいたことにも感謝している。この紙面をかりて厚く御礼申し上げる次第である。
編者として本書の構成,内容について可能な限り検討を試みたが,なお不完全なところが残っているように思われる。読者の方々からのご批判をいただければ 幸いである。そして本書の発刊が上記の目的を多少とも達成することができれば望外の喜びとするところである。
平成16年 春
高折 益彦