ペインクリニックに必要なリハビリテーションの知識
I.ペインクリニックにおけるリハビリテーションの意義 保岡正治/1
II.基礎編/7
第1章 痛みの定義と分類 | 9 | ||
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1.痛みの定義 | 保岡正治 | 9 | |
2.痛みの分類 | 保岡正治 | 9 | |
3.慢性疼痛の発生機序 | 小川節郎 | 11 | |
第2章 痛みのリハビリテーション療法 | 保岡正治 | 16 | |
1.痛みの治療と理学療法の関係/16 2.リハビリテーションの痛みへの対応/17 3.有痛性運動器疾患のリハビリテーション実施時の注意点/19 |
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第3章 運動療法の基礎知識 | 保岡正治 | 22 | |
1.医学的リハビリテーション/22 2.運動療法の目的と分類/23 3.運動量/25 4.障害と評価/26 5.設備と用具/44 |
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第4章 有痛性運動器疾患の評価法と治療効果判定基準の検討 | 保岡正治 | 47 | |
1.評価法/47 2.治療効果判定基準/55 |
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第5章 神経ブロックの役割と課題 | 保岡正治 | 58 | |
1.神経ブロックの作用と意義/58 2.有痛性運動器疾患に適応となる神経ブロック/61 3.神経ブロックと理学療法の併用療法/63 |
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第6章 有痛性運動器疾患のペインクリニック診療のエビデンス | 保岡正治 | 67 | |
第7章 有痛性運動器疾患の診療指針 | 保岡正治 | 73 | |
1.ペインクリニックの診療指針/73 2.日本ペインクリニック学会治療指針作成委員会の治療指針/75 3.ペインクリニック診療にリハビリテーション治療を加えた診療指針/77 |
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第8章 慢性疼痛のリハビリテーション概論 | 保岡正治 | 86 |
III.疾患各論/89
第1章 有痛性運動器疾患の理学療法を加えた診療ガイドライン | 保岡正治 | 91 | |
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1.頸上肢痛疾患/91 2.腰下肢痛疾患/117 |
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第2章 慢性疼痛のペインクリニックとリハビリテーション併用療法 | 152 | ||
1.慢性疼痛のペインクリニック診療 | 保岡正治 | 152 | |
2.慢性疼痛の神経ブロックとリハビリテーション併用療法 | 田邉 豊, 宮崎東洋 |
153 | |
第3章 悪性腫瘍(癌)のリハビリテーション | 辻 哲也 | 160 | |
1.悪性腫瘍(癌)治療におけるリハビリテーションの現状/160 2.悪性腫瘍(癌)のリハビリテーションの基本的な理解/161 3.癌のリハビリテーションの実際/164 4.主な障害別のリハビリテーションの概要/165 5.おわりに/169 |
IV.ペインクリニックにおけるリハビリテーションの現状と展望/171
第1章 ペインクリニックにおける現状 | 保岡正治 | 173 | |
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第2章 医療政策・保健行政とのかかわり | 保岡正治 | 177 | |
第3章 リハビリテーションからの提言 | 出江紳一 | 180 | |
1.痛みのリハビリテーションと医療コミュニケーション/180 2.痛みのリハビリテーションとコーチング/181 3.まとめ/184 |
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第4章 ペインクリニックにおける将来の展望 | 保岡正治 | 185 | |
おわりに | 191 | ||
関連資料 | 193 | ||
索引 |
監修者序
保岡正治氏編集による「ペインクリニック診療に必要なリハビリテーションの知識」が発行されることになった.氏は永年ペイ ンクリニック診療に携わり,その間リハビリテーションの知識と技術をペインクリニック診療の中で展開し,痛み治療におけるリハビリテーションの重要性を身 をもって体験されてきた医師である.氏の熱意がこの本となったことを心からお祝いする.
ペインクリニックの場において高い頻度で診療の機会を有する疾患に筋・骨格筋性の疼痛がある.これらの疼痛のうち急性痛については,神経ブロックや鎮痛 薬,それに安静によって比較的速やかに緩和されるが,慢性痛となって患者を苦しめる場合も少なくない.一方,ペインクリニック医にとって正確な神経ブロッ ク手技の取得は必須なものであり,正確な診断と適応症例の選択のもとで行われる神経ブロックほど有効な鎮痛手段はないであろう.しかし多くの運動器疾患, 特に有痛性運動器疾患の治療においては,鎮痛のみで満足するのは医療者側の自己満足ではないだろうか.保岡氏がいうように,運動器疾患に対する治療の最終 目的は,疼痛緩和とともに障害部位の機能回復にある.ペインクリニック診療の場においては痛みという症状のみに目が向けられ,後者の目的がつい忘れがちに なることは考慮すべきことであろう.
また,従来のペインクリニック診療に関する成書においても運動器疾患による疼痛に対する物理療法,運動療法の必要性は述べられているものの,その実際につ いては明確ではなかった.特にその施行時期や病態に見合った方法は,専門家に依頼せざるを得ない場合が少なからずあると思われる.本書においては理学療法 を適切な方法で,適切な時期に行うことの重要性とその実際が記されている.拙者も例外ではないがペインクリニック診療に携わりながら理学療法の技術を持た ず,また,その適応や方法について明確な知識を持たない医師にとっては非常に有用で実践的な医書であると確信している.
本書はI.ペインクリニックにおけるリハビリテーションの意義,II.基礎編,III.疾患各論,IV.ペインクリニックにおけるリハビリテーションの現 状と展望,に別れ,ペインクリニック診療の場におけるリハビリテーションの全容に迫っている.執筆者には保岡氏のほか,ペインクリニック診療の場面でリハ ビリテーションを実践している順天堂大学の田邉氏,そしてリハビリテーション専門医の東北大学の出江氏,慶應義塾大学の辻氏のご協力を得てさらに充実した 内容となった.項目のみをざっと見てもわかるように,本書はリハビリテーション医学の考え方,その方法,そして疾患別各論とこの領域に関する情報が余すと ころなく展開されている.
本書が日常のペインクリニック診療をさらに一歩踏み出したものにすることを信じている.また,本書の監修をさせていただいたことに深く感謝の意を表し序文としたい.
2005年7月
小川 節郎
編集序
ペインクリニックが対象とする疾患の中で,頸肩腕痛や腰下肢痛などの有痛性運動器疾患は相当の割合を占めている.改めていうまでもなく,運動器疾患に対する治療の最終目標は,疼痛緩和とともに障害部位の機能回復にある.診療には,痛みの治療計画と同時に,罹患部位の運動機能障害度判定と運動療法は必然である.さらに,治療開始時に治療期間や予後の予測を立てる必要がある.すなわち,ペインクリニック診療においても,運動器疾患の特性に関する基本的な知識と治療技術の心得が求められる.
従来の成書におけるペインクニックの診療指針は,適応となる神経ブロック手技の選択と回数の解説が中心であり,物理療法とともに運動療法を加えることの重要性は指摘されているが,時間経過を踏まえた実際の詳細な手法についてはほとんど言及されていない.例えば,患者から「どの程度動いてよろしいか」と尋ねられることは日常診療では茶飯事であるが,この基本的な質問に対して的確な返答に窮する場面は多い.著者は,その答えをリハビリテーション医学に探ってきた.
著者は,ペインクリニック開業25年の間,リハビリテーション医療を参照し,理学療法を効率よくペインクリニック診療に含める治療手順を検討してきた.開業早期からリハビリテーション部門を設けてリハビリテーション現場の意見を直接聞き,入院ベッドを有して終日患者の生活様式を観察できたことが,痛みと運動機能障害を包括的に治療対象とした当院の診療指針作成に役立った.
このたび,日本大学医学部麻酔科教授小川節郎先生のご推挙と克誠堂出版株式会社のご厚意で,リハビリテーション科専門医とペインクリニック診療現場でリハビリテーションを実践されている先生方にご参加頂き,有痛性運動器疾患に対する従来のペインクリニック診療にリハビリテーション医療を加えた痛みの治療法を紹介する医書を企画した.
著者が担当した各論については,理学療法,神経ブロック,薬物処方など各治療の配分と実施時間帯について,当院のリハビリテーションスタッフ,看護・介護スタッフ,薬剤師,栄養士,そして患者とともに,安全性,治療効果,患者の利便等を総括的に検討し,合意に至った手順を紹介した.日常診療において実利的な内容となるように心がけたが,スタッフに共通していたのは,患者の日常生活動作(activities of daily living:ADL)改善とQOLの向上を目的とする診療理念である.
ペインクリニック診療に携わる方々が,現場の診療に際してリハビリテ-ションの効用を実感頂ければ幸いである.
2005年7月
保岡 正治