研修医のための携帯エコー活用法
ポケットマニュアル
~Visualization時代の到来~
医者はある意味職人であり,技術を習得するうえで経験は必須である。一般的に,職人は多くの失敗をもとに技術を習得し高めていく。しかし,われわれ医師は,患者さんが相手である以上,重篤な失敗は許されない。実際,中心静脈カテーテル挿入時の動脈穿刺,血腫や気胸などの機械的合併症の頻度は5?19%と報告されている。しかし,失敗を恐れて技術習得をゆっくり進めることは得策ではない。鉄は熱いうちに叩け!若い時ほど技術の習得は速い。
さて最近,軽量かつコンパクトなのに解像度に優れた携帯エコーが普及し始めた。われわれの教室でも,いち早く臨床の現場に取り入れ汎用している。Karakitsosらは,中心静脈カテーテル留置のための内頸静脈穿刺をエコーガイド下と通常のLandmark法で行った場合(両群450症例)を比較し報告した(Crit Care 2006; R162)。その結果,成功率100 vs 94.4%,総頸動脈穿刺1.1 vs 10.6%,気胸0 vs 2.4%,平均穿刺回数1.1 vs 2.6回と,圧倒的にエコーガイド下のほうが安全かつ迅速にカテーテル留置を行えることがわかった。また,エコーを用いると穿刺時の意識も変わり,ただ穿刺するのではなく標的周囲の解剖にも目がいくようになる。そして,いかに解剖学的anomalyが多いかに気づく。また,研修医や学生に口頭だけでなく画像を通して教えることができるため,教育にも非常に効果的である。実際に行う研修医にとっても,標的がはっきり見えるので安心であろう。
携帯用超音波機器の活用法を概観できるよう、基礎編、診断編(携帯エコーでまず診る)、処置編(携帯エコーで穿刺する・携帯エコーで麻酔する)に分けて解説。
第1章 基礎編 Assure of your equipments
― “Matsuki’s Seven Rules” より―
A 携帯エコーで何を診る?
1.プローブを手にする前に 佐藤 裕
2.超音波解剖学入門-Basic Sonoanatomy- 北山眞任
3.超音波診断機器と超音波プローブの選択 佐藤 裕
4.穿刺する針やカテーテルはどのように見えるか 北山眞任
5.清潔域でプローブを操作する手順と準備するもの 廣田和美
第2章 診断編 携帯エコーでまず診る
―X線写真,CT,MRIを撮る前に役立つスーパー聴診器―
A 汎用心エコー用プローブ,コンベックス型プローブでできること
1.FAST:概要と手順,実際の患者での描出 大川浩文
2.心臓:携帯エコーでの異常所見の画像と説明-心不全を疑った場合- 坪 敏仁
3.肺の超音波診断 坪 敏仁
4.腹部大動脈:異常所見の画像 大川浩文
B 表在用高周波プローブでできること
1.下肢深部静脈血栓症-大腿静脈,膝窩静脈- 櫛方哲也
2.頸動脈,椎骨動脈計測IMT 櫛方哲也
3.気管,甲状腺と周辺-麻酔手技領域での診断- 橋場英二
4.骨折・皮下血腫-屋外での診断のために- 大川浩文
第3章 処置編1 携帯エコーで穿刺する
―あなたはそれでも盲目的に刺しますか?―
A 高周波リニア型プローブでできること
1.末梢静脈穿刺-橈側皮静脈・尺側皮静脈- 吉田 仁
2.動脈血採血のための大腿動脈穿刺 吉田 仁
3.内頸静脈穿刺 吉田 仁
4.鎖骨下静脈(腋窩静脈)穿刺 橋場英二
5.大腿静脈穿刺 橋本 浩
6.動脈へのカニュレーション 橋場英二
1)橈骨動脈穿刺
2)足背動脈穿刺
3)大腿動脈穿刺
B 汎用コンベックス型プローブでできること
1.腹腔穿刺 大川浩文
2.膀胱穿刺 坪 敏仁
3.胸腔穿刺-ドレーン留置の際の利用- 坪 敏
第4章 処置編2 携帯エコーで麻酔する
―局所麻酔薬で神経を包む.ブロック針が麻酔するのではない―
A 高周波リニア型プローブでできること
1.上肢の手術,鎮痛のために
―腕神経叢ブロック,正中・尺骨・筋皮神経ブロックなど―
1)腕神経叢ブロック(斜角筋間アプローチ) 佐藤 裕
2)腕神経叢ブロック(腋窩アプローチ) 佐藤 裕
3)正中神経,尺骨神経,橈骨神経,筋皮神経ブロック 北山眞任
2.下肢の手術,鎮痛のために
―前方からのアプローチによる下肢の神経ブロック― 廣田和美
1)大腿神経ブロック
2)腸骨筋膜下神経ブロック(3 in 1 or 2 in 1 Block)
3.腹壁の筋弛緩,術後鎮痛や処置のために 橋本 浩
1)腹直筋鞘ブロック
2)腸骨鼠径・腸骨下腹神経ブロック
4.持続末梢神経ブロック 廣田和美
B 汎用コンベックス型プローブでできること
1.腰椎穿刺(硬膜外・脊髄くも膜下麻酔)のための利用法 北山眞任