脳保護・脳蘇生
脳保護・脳蘇生に関し、麻酔科専門医レベルに必要不可欠な知識を体系的にまとめました。
・麻酔科医・集中治療医が頻繁に遭遇する脳障害の病態の基本となる低酸素・虚血の病態機序(生理学的,分子生物学的)、画像診断・モニター、周術期(集中治療を含む)の予防と治療についての基本的知識をより深めることができます。
・さらに基礎研究の進歩に基づく将来的に期待の持てる治療戦略の展開を理解することに役立ちます。
I.脳保護・脳蘇生の歴史(坂部 武史)
心肺蘇生から心肺脳蘇生
循環停止許容時間
脳低酸素・虚血による傷害発生部位および傷害発生機序
1 傷害発生部位/2 傷害発生機序/3 神経細胞の死に方
薬物治療
1 バルビツレート/2 その他の薬物療法
低体温療法/脳低温療法
脳指向型集中治療
脳保護・脳蘇生におけるチャレンジ
II.脳の生理と病態
1.脳循環・代謝の生理(松本美志也,坂部 武史)
脳血管の解剖学的特徴
1 脳動脈系/2 脳静脈系
脳血流量の調節
1 神経細胞のホメオスターシス/2 自己調節とその範囲/
3 静的自己調節と動的自己調節/4 脳傷害時の脳灌流圧管理/
5 化学的調節/6 代謝性調節/7 神経性調節/8 流体力学
脳の代謝
1 安静時脳代謝/2 機能活動亢進時の脳代謝/
3 神経細胞とアストロサイトのエネルギー基質/
4 虚血時の脳代謝
低体温時の脳循環・代謝
薬物の脳循環・代謝に及ぼす影響
1 麻酔薬/2 筋弛緩薬/3 その他
2.血液脳関門と脳浮腫(祖父江和哉)
血液脳関門の構造
1 血液脳関門の発見の歴史/2 血液脳関門の構造/
3 tight junctionの分子構造
血液脳関門の生理機能
脳浮腫の病態
1 脳浮腫とは/2 脳浮腫の分類/3 脳虚血に伴う脳浮腫
脳浮腫の発生機序
1 vasogenic edema/2 血液脳関門透過性亢進の機序/
3 cytotoxic edema/4 水チャネル<アクアポリン>の関与
3.脳障害の病態生理(石田 和慶,松本美志也,坂部 武史)
一次的傷害要因と病態
1 虚血性障害を起こす脳血流閾値/2 頭部外傷の病態
二次的傷害要因と病態
1 再灌流不全/2 興奮性アミノ酸・カルシウム毒性/3 活性酸素種/
4 ミトコンドリア機能障害/5 小胞体機能障害/6 炎症反応
III.脳障害の画像診断・脳モニター
1.画像診断(小泉 博靖,鈴木 倫保)
脳血管造影
computed tomography(CT)
magnetic resonance imaging(MRI)
PET/SPECTによる脳機能測定
2.電気生理学的モニター(川真田樹人,野中 道夫,並木 昭義)
脳波
誘発電位
1 体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potentials:SEP)/
2 聴覚誘発電位(brainstem auditory evoked potentials:BAEPs)/
3 視覚誘発電位(visual evoked potentials:VEPs)/
4 運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)
3.脳循環・代謝・機能モニター(大西 佳彦)
脳循環モニター
1 脳動脈圧モニター/2 パルスドプラーによる血流速測定/
3 アルゴン,亜酸化窒素吸入による脳血流測定
脳代謝モニター
1 近赤外分光法/2 内頸静脈酸素飽和度
脳活動機能モニター
1 脳波/2 誘発電位
症例別による脳モニターの適応
1 内頸動脈内膜除去術/2 脳動脈瘤クリッピング/3 弓部大動脈瘤手術/
4 人工心肺を使用する乳幼児開心術
4.頭蓋内圧モニター(間瀬 光人,山田 和雄)
頭蓋内圧(intracranial pressure:ICP)
ICPモニターの目的
1 頭蓋内異常(変化)の迅速な発見/2 治療管理目標としてのICP
ICPモニターの適応
1 アメリカのガイドライン/
2 日本神経外傷学会による重症頭部外傷治療・管理のガイドライン
ICP測定法の実際
1 測定部位/2 測定装置
ICPおよびCPPの管理
頭蓋内圧脈波形(intracranial pressure pulse waveform:ICPPW)の分析と頭蓋内コンプライアンス
ICPモニターの合併症
5.脳障害のバイオマーカー(黒田 泰弘,山下 進,前川 信博)
脳障害のバイオマーカー
1 臨床的に有用なバイオマーカーの条件/2 バイオマーカーの採取部位/
3 脳虚血後の経時的な遺伝子発現の推移
S100βとNSEの基本的特徴
1 S100β/2 神経特異性エノラーゼ(neuron-specific enolase:NSE)
体外循環を用いた心臓外科手術後の脳障害におけるS100βとNSE
頭部外傷におけるS100βとNSE
1 S100β/2 NSE
心停止蘇生後(非外傷性)におけるS100βとNSE
1 S100β/2 NSE/
3 蘇生後におけるS100βおよびNSEを中心としたバイオマーカーの意義
フリーラジカルとその代謝産物
1 DNA損傷のバイオマーカーとしての8-hydroxyl-2-deoxyguanosine(8-OH-dG)/
2 細胞内蛋白損傷のバイオマーカーとしてのnit1rotyrosine(NT)/
3 膜脂質損傷のバイオマーカー
MDによって測定できるバイオマーカー
1 MD glucose,MD lactate,MD pyruvate/2 MD glutamate/
3 MD glycerol
各疾患におけるMDの応用
1 心停止蘇生後(非外傷性)/
2 くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)/3頭部外傷(TBI)
脳障害のバイオマーカーの展望
IV.脳障害の治療
1.脳低温療法(前川 剛志,河村 宜克)
急性中枢神経障害と体温
軽度低体温療法の歴史と現状
脳低温療法の実際
1 適応/2 実施方法
効果と副作用
脳低温療法の未来
2.薬物療法
A.麻酔薬による脳保護(川口 昌彦)
吸入麻酔薬
バルビツレート
プロポフォール
ベンゾジアゼピン
リドカイン
麻酔薬と神経毒性
B.脳蘇生における薬物療法(内野 博之)
脳保護薬の現状
1 Ca2+拮抗薬/2 グルタミン酸受容体拮抗薬/
3 Na+チャネル拮抗薬およびK+チャネル開孔薬/
4 γアミノ酪酸(gamma-aminobutyric acid:GABA)作動薬/
5 抗酸化薬とフリーラジカルスカベンジャー/
6 hydroxymethylglutaryl coenzyme A(HMG-CoA)抑制薬/
7 神経栄養因子/
8 マトリックスメタロプロテイナーゼ(matrix metalloproteinase:MMP)阻害薬/
9 免疫抑制薬/10 そのほかの脳保護薬
薬物による脳保護療法の展望
3.抗血栓療法(橋本洋一郎,米村 公伸,寺崎 修司)
脳梗塞の診断と治療
血栓溶解療法
1 ウロキナーゼ/2 rt-PA(アルテプラーゼ)の静注療法/3 診療システム/
4 静注療法の実際/5 治療後の管理/6 症候性頭蓋内出血/
7 静注療法のポイント
抗血小板療法
1 オザグレルナトリウム/2 経口抗血小板薬
抗凝固療法
1 アルガトロバン(ノバスタンィ,スロンノンィ)/2 ヘパリン/3 ワルファリン
4.高気圧酸素療法(武田 吉正,森田 潔)
高気圧酸素療法の歴史
高気圧酸素療法のメリット
脳はなぜ低酸素に弱いか
高気圧酸素療法の欠点
1 圧力傷害(スクイズとも呼ばれる)/2 酸素中毒
脳障害に対する高気圧酸素療法の臨床応用
1 一酸化炭素中毒/2 脳梗塞/3 頭部外傷
5.機械的循環補助療法(脳蘇生におけるPCPSの応用)(奈良 理,浅井 康文)
歴史的背景
心肺脳蘇生法におけるPCPSの適応基準と治療成績
1 適応基準/2 治療成績/3 適応基準に関する課題
PCPSのシステムと管理法の実際
1 PCPSシステム/2 PCPSの管理法/3 PCPSの離脱基準/4 合併症対策
V.周術期の中枢神経保護
1.心臓手術と脳保護(後藤 倶子)
脳障害のタイプ
高次脳機能障害
脳障害の原因と周術期戦略
1 人工心肺関連因子/2 塞栓/3 低灌流
off-pump
術中のモニター
1 rSO2,BIS/2 経頭蓋ドプラー
MRI拡散強調画像
脳保護薬
2.胸腹部大動脈瘤手術時の脊髄保護(垣花 学)
脊髄動脈の解剖
胸腹部大動脈瘤手術による虚血性脊髄障害の頻度
胸腹部大動脈瘤手術における虚血性脊髄障害の危険因子
脊髄虚血による神経障害の機序
基礎研究レベルでの脊髄保護
1 薬物による脊髄保護/2 プレコンディショニング効果
胸腹部大動脈瘤手術時の脊髄保護
1 術前管理および術前評価/2 術中管理/3 術後管理
3.脳動脈瘤手術時の脳保護(佐藤 清貴)
各種脳保護法
1 仙台カクテル/2 麻酔薬/3 Ca2+拮抗薬/
4 N-メチル-D-アスパラギン酸(N-methyl-D-aspartic acid:NMDA)受容体拮抗薬/
5 軽度低体温/6 Mg2+/7 エダラボン/8 超低体温
脳保護を念頭に置いた実際の管理
1 術前管理/2 麻酔導入・維持/3 術後管理/
4 コイルによる塞栓術の場合(血管内治療)/5 超低体温での管理
4.頸動脈内膜切除術における脳保護(宮脇 宏,瀬尾 勝弘)
術前評価のポイント
1 全身状態の評価/2 脳神経学的評価
麻酔管理上の注意点―術中の脳保護―
1 麻酔前投薬/2 麻酔管理/3 モニター
合併症と対策
1 脳虚血/2 過灌流症候群(hyperperfusion syndrome)/3 高次脳機能障害
5.重症頭部外傷患者の麻酔と脳保護(三好 宏,澄川 耕二)
頭部外傷の重症度と部位別分類
頭部外傷の病態
1 一次性・二次性脳損傷/2 全身反応/3 予後と初期評価
緊急手術となる主な疾患
1 急性硬膜外血腫/2 急性硬膜下血腫/3 脳内血腫・脳挫傷/
4 その他
麻酔前評価
周術期管理の基本
1 呼吸管理/2 循環管理/3 代謝・体温管理/4 薬物治療・低体温法
麻酔薬の脳循環に与える影響
1 亜酸化窒素/2 揮発性吸入麻酔薬/3 静脈麻酔薬
麻酔管理の実際と脳保護
1 モニタリング/2 前投薬/3 麻酔導入/4 麻酔維持/5 術後管理
特殊病態の管理
1 心血管系反応/2 神経原性肺水腫/3 小児重症頭部外傷/
4 高齢者重症頭部外傷
VI.神経集中治療と蘇生後の予後予測
1.神経集中治療(若松 弘也,松本 聡,坂部 武史)
循環管理
1 脳循環の維持/2 至適脳灌流圧
呼吸管理
1 過換気/2 酸素投与/3 人工呼吸
薬物療法
1 バルビツレート/2 副腎皮質ホルモン/3 脳保護薬/
4 グリセオール,マンニトール,高張食塩液
体温管理
痙攣
脳血管攣縮
1 トリプルH療法/2 血管内治療
栄養管理
1 血糖管理/2 経腸栄養
感染対策
消化管出血
2.蘇生後の転帰予測(久保山一敏)
さまざまな指標
1 神経学的所見/2 電気生理学的検査/3 生化学的マーカー/
4 ニューロイメージング/5 経頭蓋ドプラー(transcranial Doppler:TCD)/
6 各種検査・所見の複合活用
転帰予測に影響する因子
1 呼吸・循環状態/2 低体温療法との関連
VII.脳保護・脳蘇生の新たな展開
1.中枢神経の虚血耐性現象(北川 一夫)
虚血耐性現象の発見の経緯
脳神経系での虚血耐性現象
虚血耐性現象の分子機構
1 虚血耐性獲得に際する遺伝子発現の変動/
2 虚血耐性獲得に際する転写因子活性化/
3 虚血耐性にかかわる遺伝子の網羅的検索/
4 イオンチャネル,イオントランスポータ,冬眠特異蛋白質
脳血管系での適応現象
臨床脳梗塞症例での虚血耐性現象と臨床的展望
2.遷延性意識障害に対する刺激療法(山本 隆充,片山 容一)
遷延性意識障害の神経学的評価法
遷延性意識障害の電気生理学的評価法
VSに対する脳深部刺激療法の効果
1 手術方法と刺激方法/2 刺激によって認められる反応/3 長期経過
VSに対するDBS療法の適応
DBS療法の作用機序
minimally conscious stateの治療
3.虚血性脳障害の遺伝子治療(阿部 康二)
虚血性脳病巣における血管内病態
1 虚血による変化/2 脳血管内病態治療
虚血性脳病巣における脳組織内病態
1 急性期病巣の治療ターゲット/2 脳虚血病巣内の経時的病態変化/
3 活性酸素の関与/4 ミトコンドリアの重要性/5 炎症反応の関与と制御
虚血性脳障害に対する脳神経細胞保護戦略と遺伝子治療
1 脳神経細胞保護戦略/2 遺伝子治療/3 治療の新しい潮流
幹細胞の活性化と移植を用いた虚血性脳障害の再生医療
1 内在性幹細胞移植/2 外来性神経幹細胞移植
遺伝子治療と再生医療の融合療法
VIII.脳 死(武下 浩,村川 敏介)
脳死の考え方
1 臨床的概念としての脳死/2 全脳死/3 脳幹死
厚生省判定基準
1 厚生省基準と法的脳死判定/2 厚生省基準のマニュアル化
厚生省判定基準の論考
1 前提条件/2 検査項目/3 観察時間
小児脳死判定基準
1 厚生省基準/2 対象例と除外例/3 深昏睡と脳幹反射/
4 無呼吸テスト/5 外国の基準との比較
脳死判定に際しての留意事項
1 長期脳死/2 脳死下で見られる体動/3 視床下部・下垂体機能