心臓手術周術期管理
心臓手術の周術期管理において,危機管理はきわめて重要!
術前管理から術後に至るまで一貫した戦略の下に,チームワークよく,そして危機を回避するとともに,危機に直面したときに臨機応変に対応することが,患者の予後改善には必須です。
心臓手術を安全に行うには,術前評価から始まり,術中管理,さらに術後管理まで綿密に計画を立てて行う必要がある。すべてが予定どおりに進むとはかぎらない。なんらかの重大イベントが起きた場合への対応も重要であり,常にプランA,プランB,さらにはプランCを立てておく必要がある。さまざまな麻酔領域があるが,心臓血管外科の麻酔を含む周術期管理においては,危機管理が重要な部分を占めている。知識や技術にとどまらず,コミュニケーション能力もきわめて重要である。心臓血管外科医はもちろんのこと,循環器内科医や,臨床工学技士,看護師らとの連携も必要である。大血管手術や複合手術においては,出血や,凝固系異常への対応も重要であり,輸血部とも緊密な連携を取る必要がある。 (『はじめに』より抜粋)
I.病態生理から理解する術前評価
1.弁疾患患者の病態生理と術前評価(尾前 毅)
大動脈弁疾患
大動脈弁狭窄/大動脈弁閉鎖不全
僧帽弁疾患
僧帽弁狭窄/僧帽弁閉塞不全
三尖弁疾患
三尖弁狭窄/三尖弁逆流
2.冠動脈疾患患者の術前評価(小出康弘)
病態生理
心筋酸素需給バランス/冠血流量(CBF)の決定因子/
冠動脈狭窄患者の冠血流/心筋代謝の特徴
自然歴などの病歴
労作性狭心症/異型狭心症/
急性冠症候群(不安定狭心症)/無症候性心筋虚血
身体所見
冠動脈CT検査
冠動脈造影
冠動脈解剖/AHA分類/
左室の17セグメント分類と冠動脈の走行
3.先天性心疾患の術前評価(岩崎達雄)
病態生理
肺血流増加型疾患/肺血流減少型疾患
自然歴などの病歴
身体所見
上気道の評価
心臓カテーテル検査
心エコー図検査
4.大血管疾患の術前評価(遠山裕樹,国沢卓之)
大動脈解離
定義/分類/病態/術前評価
大動脈瘤
定義/分類/病態/術前評価
5.緊急・準緊急心臓手術患者の術前評価(安部和夫)
急性・亜急性心筋梗塞に伴う合併症
左心室自由壁破裂/心室中隔穿孔/乳頭筋断裂
重症大動脈弁狭窄
大動脈解離
細菌性心内膜炎
人工弁心内膜炎
左房粘液腫
急性僧帽弁逆流
心タンポナーデ
II.モニタリング
1.血行動態モニタリング(石黒芳紀)
血管内カテーテルによる測定についての共通事項
トランスデューサ/共振現象/減衰量(damping)/
ゼロ点の修正/トランスデューサの位置
動脈カテーテル
適応/部位/穿刺法/合併症/
解釈と意義
中心静脈カテーテル
適応/合併症/穿刺法,部位/
中心静脈圧(CVP)の意義
肺動脈カテーテル(スワン・ガンツカテーテル)
適応/禁忌/測定項目/穿刺法,使い方/
合併症/意義,解釈
2.代謝モニタリング(石黒芳紀)
静脈血酸素飽和度(SvO2,ScvO2)
SvO2(混合静脈血酸素飽和度)/
ScvO2(中心静脈血酸素飽和度)
カプノメータ(VCO2)
体温
乳酸値
血液ガス(酸塩基平衡異常)
3.血液モニタリング(香取信之)
心臓外科手術における血液凝固系モニタリング
活性化凝固時間
測定原理/活性化凝固時間(ACT)の精度と人工心肺中の管理/
全血弾性粘稠度検査(ThromboelastographyR:TEGR,Thromboelastometry:ROTEM(R))
測定原理/測定項目と波形解釈
フィブリン/フィブリノゲン分解産物,Dダイマー
4.経食道心エコー法(渡橋和政)
麻酔導入後の診断
待機的手術/緊急手術/術前診断の見落とし
体外循環や補助循環に関連した情報提供,ガイド
送血管に関連した情報/脱血管に関連した情報/
左室ベント/冠静脈洞カニューレ/
左上大静脈遺残/
大動脈内バルーンパンピング(IABP),経皮的心肺補助(PCPS)
手術操作中のモニター,ガイド
オフポンプ冠動脈バイパス術(OPCAB)/
open stent graft implant/経カテーテル大動脈弁留置術
体外循環離脱時
心内遺残空気/体外循環離脱困難/酸素化障害
手術の評価
僧帽弁形成術/冠動脈バイパス術(CABG)/
弁置換術/大動脈解離
手術後のICU管理
5.中枢神経系モニタリング(位田みつる,川口昌彦)
BISモニター
近赤外線脳酸素モニター
誘発電位
III.麻酔
1.麻酔の導入と維持(尾前 毅)
総論
術前使用薬/麻酔薬/術前評価/
麻酔管理
各論
冠動脈バイパス術/大動脈弁疾患/僧帽弁疾患/
三尖弁疾患(三尖弁狭窄,三尖弁逆流)
2.小児における麻酔導入と維持(大塚洋司,竹内 護)
総論
各論
心房中隔欠損/心室中隔欠損/
房室中隔欠損(心内膜症欠損)/Fallot四徴症/
完全大血管転位/両方向性Glenn手術/
Fontan手術
3.麻酔からの覚醒(池崎弘之)
いつ覚醒させるか?
手術終了から覚醒までに行うこと
覚醒までの血行動態の管理/
覚醒までの人工呼吸に対するアプローチ/
覚醒までの出血のコントロール
IV.危機管理
1.心筋虚血の予防と治療(原 哲也)
心筋虚血のメカニズム
酸素需給バランス/虚血再灌流傷害
心筋虚血の診断
心電図/経食道心エコー法(TEE)/
心筋傷害マーカー
心筋虚血の予防法
心筋保護液/プレコンディショニング/
薬理学的プレコンディショニング
心筋虚血発生時の薬物治療
硝酸薬/カルシウム拮抗薬/β遮断薬/
ニコランジル
2.急性心不全の治療:人工心肺からの離脱困難(山田達也)
人工心肺離脱時の管理
人工心肺からの離脱困難
左室機能障害/前負荷低下/右心不全/
不整脈/機能的僧帽弁逆流/左室流出路狭窄
心収縮力や心拍出量増大のための戦略
人工心肺離脱後の循環管理
前負荷低下/心タンポナーデ/術後の心房細動
3.肺高血圧(山下智範,入嵩西 毅)
病態生理
定義と発生メカニズム/分子機序/分類/
左心機能低下による肺高血圧(PH)/血行動態/
治療
周術期管理
術前評価/麻酔薬/モニタリング/
呼吸管理/循環管理/輸液と輸血/
血管収縮薬/血管拡張薬/術後管理
先天性心疾患に伴う肺高血圧(PH)
病態生理/小児先天性心疾患の麻酔管理/
肺高血圧クリーゼ(PH crisis)/
成人先天性心疾患による肺高血圧(PH)
4.不整脈・伝導障害の管理(藤原 愛,林 行雄)
術前から見られた不整脈・伝導障害の管理
総論/各論(不整脈疾患)
術中の不整脈・伝導障害発生時の管理
総論/周術期不整脈発生時の対処
抗不整脈薬
Naチャネル遮断薬/β遮断薬/210
Kチャネル遮断薬/Caチャネル遮断薬/
抗不整脈薬の催不整脈性と副作用/抗不整脈薬と除細動閾値
5.血液凝固系の管理:出血に関する問題(香取信之)
術前の準備
抗血栓療法の管理/輸血の準備
心臓外科手術における血液凝固異常
血漿成分の希釈/凝固因子・血小板の消費/
プラスミン産生の亢進/そのほか
血液凝固異常の診断
血液凝固異常の治療
6.血液凝固系の管理:抗凝固に関する問題(瀬尾勝弘,隈元泰輔)
ヘパリンの薬理
ヘパリン/抗凝固モニタリング
ヘパリン抵抗性
ヘパリン抵抗性/ヘパリン抵抗性の治療
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
臨床的特徴/診断/治療/
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)に対するアルガトロバン/
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と人工心肺
7.腎臓と体液の管理(片山勝之)
心臓手術関連急性腎障害と慢性腎障害 234
造影剤腎症
人工心肺関連腎障害
腎不全患者・腎機能低下患者の管理上の注意点
腎保護方法に関する議論
腎動脈上大動脈遮断における管理
人工心肺中の尿量が少ないときの管理
人工心肺後の尿量が少ないときの管理
術後に腎機能が悪化した場合の管理
電解質異常への対応
8.中枢神経系管理(内藤祐介,川口昌彦)
心臓外科手術の脳保護
発生頻度/リスク因子/心臓手術中の脳保護
心臓外科手術の脊髄保護
脊髄の解剖生理/合併症頻度,リスク因子/
術中対策
V.機械的循環補助
1.人工心肺管理(山田達也)
人工心肺の構造と機能
血液希釈/非拍動性/炎症反応/
血球成分の物理的損傷
人工心肺中の呼吸・循環管理
呼吸管理/循環管理
人工心肺における血液凝固管理
ヘパリンとプロタミン/ヘパリン抵抗性/
人工心肺による止血凝固異常と対処/
ヘパリン起因性血小板減少症
人工心肺における体温管理
体温測定部位/体温管理の目的/
pH-stat法とα-stat法
2.大動脈内バルーンパンピング/左室補助装置(西岡 宏,大西佳彦)
大動脈内バルーンパンピング(IABP)
適応と禁忌/構造と機能/
ブラッドアクセスと留置位置/駆動時の注意/
今後の展望
左心補助人工心臓(LVAD)
適応と使用目的/
体外設置型左室補助人工心臓(LVAD)の構造と機能/
植え込み型左室補助人工心臓(LVAD)の構造と機能/
特徴/左室補助人工心臓(LVAD)調節上の注意/今後の展望
3.経皮的心肺補助(PCPS)(吉田幸太郎,大西佳彦)
概要
適応と禁忌
重症心不全および心停止における適応基準/
重症呼吸不全における適応基準/禁忌
構造と機能
PCPSシステム/人工肺/血液ポンプ/
カニューレ/ヘパリンコーティング
PCPSの開始手順
PCPSの管理方法
循環管理/呼吸管理/離脱方法
V-V ECMOの管理方法
施行方法と注意点/管理と離脱方法
使用上の注意
有用性
4.不整脈に対するデバイス(ペースメーカなど)(室井量子,三原幸雄,林 行雄)
ペースメーカ
植え込み型ペースメーカ/体外式ペースメーカ/
モード/ペースメーカが有するそのほかの機能
植え込み型除細動器(ICD)
構成/適応/機能
心臓再同期療法(CRT)
構成/適応/機能
デバイスと電磁波障害
電磁波障害/誤作動の影響を抑制する機能
デバイス装着患者の生活指導
体外ペーシング
VI.術後管理
1.術後鎮静(池崎弘之)
心臓外科手術後の鎮静の特徴
鎮静薬の種類
ミダゾラム/プロポフォール/
デクスメデトミジン
鎮静の評価
鎮静の実際
術後長期人工呼吸となった場合の人工呼吸中の鎮静/
通常の手術後の人工呼吸を施行し,覚醒とともに抜管を行う場合の人工呼吸中の鎮静/
非侵襲的人工呼吸(NIV)中の鎮静
2.術後鎮痛(江木盛時,中馬理一郎)
術後痛によるアドレナリン,ノルアドレナリンの分泌増加─交感神経-副腎髄質系の活性化
術後痛によるバソプレシン分泌増加
術後痛によるレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の活性化
術後痛によって生じる代謝反応
頻脈,高血圧/酸素消費量の増加/
水分・電解質代謝/凝固系亢進
痛みが創傷治癒や免疫系に与える影響
ICUでの痛みが精神に与える影響
痛みの種類
心臓術後患者の痛みは認知され,コントロールされているか?
術後鎮痛法
まとめ─心臓術後患者の術後の痛み─
3.心臓リハビリテーション(長岡正範,会田記章,山下晴世)
心臓手術後の心臓リハビリテーションで用いられる運動療法の効果
リハビリテーション進行スケジュール
第I相(急性期)/第Ⅱ相以降(回復期以降)
当院での対応方法
対象/方法の簡単な紹介/効果/課題