創内持続陰圧洗浄療法マニュアル
感染創がこんなに早く治る!?
I 基礎知識
1.IW-CONPIT開発の経緯(清川兼輔)
2.IW-CONPITにおける基礎実験と,より効果的な方法(守永圭吾)
3.吸引器の工夫(山内大輔)
4.IW-CONPITの適応と禁忌(寺田小百合,王丸陽光)
II AR動画でわかる! IW-CONPITの基本手技
(范 綾)
III IW-CONPIT実践治療マニュアル
1.頭部の感染創-閉鎖式創内持続陰圧洗浄療法-(小山麻衣)
2.縦隔洞炎(人工血管露出例を含)(橋口晋一郎)
3.慢性膿胸(肺瘻,気管支瘻を含)(力丸由起子)
4.腹部離開創(消化管露出例を含)(力丸由起子)
5.褥 瘡(春日 麗)
6.足潰瘍(井野 康)
7.異物感染(右田 尚)
8.開放骨折(Gustilo type IIIB)(力丸英明)
刊行にあたって
感染を伴う難治性創傷の治療は,創傷治療の専門家である形成外科医にとっても非常に難しい問題の1つです。以前は,術後の創が治らないため半年以上入院している患者さんや,褥瘡が治癒せずに退院できないという患者さんが実際にたくさんいました。それでも,入院しているだけで病院は黒字になる時代でした。しかし,現在では在院日数の短縮や重症度などの問題で,このような患者さんを長期に入院させていると,急性期の病院は大幅な赤字に転落する時代になりました。すなわち,創を早く治し,患者さんに退院もしくは転院していただくことが必要とされる時代となったのです。
この「感染を伴う難治性創傷をいかに早く治すか」という問題に対して極めて有効な方法が,われわれの開発した「創内持続陰圧洗浄療法」です。実際に本法を用いて,100例以上に及ぶとても治りそうにない創を治してきました。例えば以前は50%以上といわれていた縦隔洞炎の死亡率を,今では10%以下にまで減少させることができました。さらに本法には,医師や看護師の労働力を大幅に削減できることや,どこの施設でも誰でも行えるなどの利点もあり,今後の創傷治療において必要不可欠なものになると考えています。
本書では,本法開発の経緯から理論を含めた総論,そして身体の各部位における各論についてわかりやすく解説します。「創内持続陰圧洗浄療法」が読者の皆様にとって身近なものになり,感染創を有する多くの患者さんが,そして多忙な医師や看護師がその恩恵を受けられるようになれば幸甚に存じます。
2018年3月
久留米大学医学部形成外科・顎顔面外科学講座主任教授 清川 兼輔
評者:島田 賢一(金沢医科大学形成外科)<br>
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感染創に対するNPWTの適応拡大─わが国発IW-CONPITの解説書─<br>
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本書は,IW-CONPIT(intra-wound continuous negative pressure and irrigation treatment)の発案者である久留米大学形成外科の清川兼輔先生からの解説書です。数多くの臨床例からフィードバックされた,IW-CONPITのエキスを詰め込んだものとなっています。<br>
IW-CONPITの施行は,実際に見て教わらないと難しいと感じている方も多いと思います。そのような諸氏のための,「直球どまんなか」の指南書が出版されました。しかも動画付きです。<br>
本書では,開発当初の苦労についても言及されています。2002年,田井先生(久留米大学形成外科先代教授)が300万円で初期型のVACRを購入され,その機器を清川先生に託されました。「さあ,どう使っていこうか」と思案し,どうせなら「最も難治な創傷」にということで,まだわが国でほとんど誰も使ったことのないVACRを難治性褥瘡に用いました。少ない論文を頼りに,膿汁まみれとなりながらも「300万円は無駄にできない」と医局員とともに工夫を重ね邁進した結果,IW-CONPITとなって結実しました(本書より一部抜粋引用)。<br>
さて,通常のNPWTは基本的には感染創には使用できません。欧米ではNPWT-idとして,創部を浸漬(instillation)する機器が以前より発売され汎用されています。しかし,わが国では販売されなかったため,独自の灌流法が発展しました。その持続陰圧洗浄療法がIW-CONPITです。これを用いることにより,従来適応が困難であった創傷に対してNPWTが可能となりました。特に,他診療科からの感染創傷,例えば縦隔洞炎,胸骨骨髄炎,腹部離開創などの術後SSI,褥瘡,足潰瘍,異物感染,Gustilo IIIbの開放骨折などでNPWTを施行することができます。<br>
本書では疾患別の使用法とそのポイントを的確に解説しています。持続灌流(continuous irrigation)洗浄法は設定項目が多く,またリークへの対応など管理が難しいのですが,本書は機器の細かなセッティングや工夫点などのノウハウをあますところなく解説し,直接教わらなくても,明日からでも施行することができる内容が盛り込まれています。<br>
現在,instillation NPWTとしてVACulta(R)が上市されていますが,灌流(irrigation)が有用な症例も存在します。本法に習熟することにより,NPWTがさらにブラッシュアップされることでしょう。本書は形成外科医のみならず,前述の創傷を扱う他科の先生方にも是非一読してほしい書籍です。