毛髪
ガイドライン2017を踏まえた治療update

毛髪

編集 武田 啓
ISBN 978-4-7719-0502-3
発行年 2018年
判型 B5
ページ数 228ページ
本体価格 12,000円(税抜き)
電子版 あり

M2Plus<電子版>

編集にあたって(武田 啓)
毛髪医療「概論」(武田 啓)

第I章 植毛ケースファイル
case1 前頭部男性型脱毛症(1)(Norwood-Hamilton クラスIII)(今川賢一郎)
case2 前頭部男性型脱毛症(2)(Norwood-Hamilton クラスIII)(長井正寿)
case3 前頭部男性型脱毛症(3)(Norwood-Hamilton クラスIII)(石井良典)
case4 前頭部男性型脱毛症(4)(Norwood-Hamilton クラスIV) (石井良典)
case5 前頭部男性型脱毛症(5)(広範囲脱毛例:Norwood-HamiltonクラスVa)(石井良典)
case6 前頭部広範囲脱毛(外傷性脱毛)(長井正寿)
case7 前頭部ヘアーラインを損なわない植毛(Norwood-Hamilton クラスIIa)(佐藤明男)
case8 前頭部外傷後瘢痕に対する植毛(佐藤明男)
case9 躯幹,上肢およびひげへの植毛(今川賢一郎)

第II章 外科的治療
1.植毛術の必要性とインフォームドコンセント(柳生邦良)
2.植毛術の 4 つのプロセスと生着率を上げるコツ(長井正寿)
3.生着した毛包の構造と機能(豊島公栄ほか)
4.植毛術各論
1 FUT(今川賢一郎)
2 Choi式植毛術(single & bundle hair transplantation)(石井良典)
3 FUEおよびロボット植毛(長井正寿ほか)
4 特殊な植毛術(1)―瘢痕への植毛―(柳生邦良)
4 特殊な植毛術(2)―陰毛,眉毛,ひげ,睫毛―(石井良典)
5 そのほかの方法―皮弁法,ティッシュ・エキスパンダー法など(吉竹俊裕)

第III章 内科的治療
1.「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017」をどう読むか?(植木理恵)
2.DHT阻害薬(佐藤明男)
3.ミノキシジル(長田真一)
4.かつら―その適応と効果―(乾 重樹)

第IV章 再生医療
1.毛根鞘細胞培養(岸本治郎ほか)
2.毛包上皮性・間葉性幹細胞による毛包器官再生(辻 孝)
3.iPS細胞―薄毛治療にiPS細胞は必要なのか―(大山 学)

第V章 知っておくべき毛の基礎
1.頭部の解剖(小川元之)
2.毛包の構造と毛周期(天羽康之)
3.代表的な脱毛症について(伊藤泰介)
4.頭髪・脱毛の評価法(佐藤明男)
5.男性型脱毛症と分類(齊藤典充)
6.植毛に関する用語の整理(倉田荘太郎)
7.植毛術の歴史―奥田庄二先生の業績を中心に―(乾 重樹)

編集にあたって

近い将来,多くの分野でAI(人工知能)が人間の代わりをするといわれている。医療の世界でも手術場にロボットが登場した。しかし手術では,細かい仕上げの部分にや はり人の手は欠かせない。科学が進歩するほど,逆に手縫いの重要性は高まる。
毛髪外科の領域も外科医の手によってさまざまな改良が行われた。単純なようで繊細な手縫いの世界である。ただ,「匠の技」でもあり,これまでこの分野についてのまとまった成書はなかった。そこで本書では,毛髪に関する外科的治療についてできるだけ紙面を割くことにした。「植毛ケースファイル」として具体的な症例も提示しながら, 手技や機器の進歩を紹介し,個々の方法の利点や欠点は何か,現時点でいかに成績を上げられるか,そのための工夫やコツはあるか,そのあたりも追求した。
一方,脱毛症の病態に関する基礎的研究の成果によって治療も大きく変化してきており,2017年末には日本皮膚科学会のガイドラインが改定された。本書では,内科的治療についても最新の情報となるように,新しいガイドラインを踏まえた解説となっている。また,次世代の治療として期待される毛髪再生医療についても踏み込んだ。標準的な治療についての現状を把握し,次なる可能性についても理解を深めることができると思う。最後に,「知っておくべき毛の基礎」として毛髪に関する広範な知識をもう一度 整理し,ブラシュアップした。
盛りだくさんの内容となったが,1つ1つが欠かせない項目になったと思う。

3年前に企画された本書は,ガイドラインの改定を待ったため編集の期間が長くなり,執筆者にはかなりのご負担をお掛けした。各項目を担当していただいた諸氏に厚くお礼申し上げる。
また,克誠堂出版の皆様,特に堀江拓氏には完成に向けて辛抱強く取り組んでいただき,ご尽力いただいた。ここに深く感謝申し上げる。
本書が毛髪にかかわる方々に少しでもお役に立てれば執筆に携わった全員の幸せである。

2018 年3 月

北里大学医学部形成外科・美容外科学 武田 啓

評者 貴志和生(慶應義塾大学医学部形成外科)<br>
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ミステリー小説のような構成で読者を惹きつける!<br>
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本書は,脱毛症の治療について,外科的治療に重きを置いてはいるが,2017年に改定された,日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017」を踏まえた,内科的治療に対する詳細,さらには再生医療など次なる可能性にも踏み込んだ,武田啓教授(北里大学形成外科)編集の力作である。<br>
ただ,第1章を開いてみて驚いた! 植毛手術のケーススタディがかなりの分量を割いて続いているのである。しかも,写真は術前と術後の写真がほとんどで,この段階で手術の詳細は書かれておらず,正直「この本,大丈夫かな?」と思ってしまった。しかし,これまで永らく毛包の診療と研究に情熱を注がれてきた武田先生,あえて驚かすような仕掛けになっていると,読み進めていくうちによく理解できた。<br>
最初に,植毛を専門とする一流の先生方によるきれいな症例を見せておいて,「自分もこんな手術をしてみたい」と読者の興味を惹きつけておく。では「どうすればよいのか?」というところで,次の「外科的治療」の項に移る。ここで詳細に,「ここまで教えてくれてよいのか?」と,こちらが心配になるぐらいの細やかなコツが記載されている。<br>
さらに続く「内科的治療」では,ガイドライン2017の解説をベースに,現在行われている内科的療法について詳細にわかりやすく記載されている。特筆すべきは,それに続く章「再生医療」で,毛髪再生医療の三大巨頭である,岸本治郎先生,辻孝先生,大山学先生によって,それぞれの立場からの再生医療の取り組みについて記載されていることである。それに続いて「知っておくべき毛の基礎」の章では,毛包の解剖,生理,脱毛症などそれぞれの分野を代表する先生方が,まさに情熱を込めて書かれている。最後に用語の生理と歴史で終わるあたりの構成も素晴らしい。通常の教科書であれば総論や歴史から始まるのであろうが,その段階で読むのが辛くなってくる…。しかし,この構成であれば,まるでミステリー小説のように,読者はどんどん毛髪の診療に興味をもち,より詳細を知りたくなる。<br>
毛髪にかかわっている先生方は,外科系にせよ,内科系,基礎系の世界にせよ,「こだわりが強い」ということがよくわかる。本書は,そのこだわりを凝集して完成された書である。また,著者として,よくこれだけの著名人を束ねることができたなと感心した。これほどすべての分野でまとまった,実臨床に即し,基礎の分野もしっかりと書かれた毛髪治療の教科書は寡聞にして見たことがない。<br>
毛髪の外科的治療は,一見簡単そうに見えて実は高度な形成外科的手技を要する匠の技が必要となる。そのため,形成外科医は積極的に毛髪の治療に取り組んでいくべきであるし,手技を身につけるための必読書であると思われた。