第一線呼吸器科医が困った症例から学んだ教訓2
監修 | 吉澤靖之 |
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編集 | 鏑木孝之、遠藤健夫、石井幸雄、大石修司、斎藤武文 |
ISBN | 978-4-7719-0511-5 |
発行年 | 2018年 |
判型 | B5 |
ページ数 | 188ページ |
本体価格 | 5,600円(税抜き) |
電子版 | なし |
M2Plus<電子版>
CASE 1 ●症状(無症状,健診胸部異常影)●画像パターン(浸潤影)
サルコイド反応を伴ったBALT lymphomaの症例(林 宏紀)
CASE 2 ●症状(喀血)●画像パターン(浸潤影)
大量喀血を契機に診断したinvasive mucinous adenocarcinoma (IMA)の症例(薮内悠貴)
CASE 3 ●症状(呼吸困難)●画像パターン(無気肺)
重症マイコプラズマ肺炎に合併し, 人工呼吸器管理を要した鋳型気管支炎の症例(矢﨑 海)
CASE 4 ●症状(発熱)●画像パターン(浸潤影)
抗癌化学療法中に急速進行性肺結核を合併した肺小細胞癌の症例(野中 水)
CASE 5 ●症状(咳嗽,全身倦怠感,胸痛)●画像パターン(多発結節影,胸水)
胸膜炎症状で発症し, 経過中に腎機能障害を伴って,急速に全身状態の悪化をみたANCA関連血管炎の症例(冨岡真一郎)
CASE 6 ●症状(発熱)●画像パターン(小葉中心性粒状影)
アテトーゼ型脳性麻痺患者に発症したびまん性嚥下性細気管支炎の症例(尾形朋之)
CASE 7 ●症状(咳嗽)●画像パターン(びまん性粒状影)
びまん性粒状影を呈し, びまん性汎細気管支炎と鑑別を要したマイコプラズマ肺炎の症例(肥田憲人)
CASE 8 ●症状(咳嗽,喀痰)●画像パターン(気管支拡張を伴う腫瘤影,液面形成を伴う囊胞影)
肺クリプトコッカス症・クリプトコッカス膿胸の診断・治療後に膿胸が悪化し,気管支鏡検体での組織培養で病因が判明した症例(藤田一喬)
CASE 9 ●症状(咳嗽)●画像パターン(浸潤影)
primary ciliary dyskinesiaに合併したNocardia asiaticaによる肺ノカルジア症の症例(田中 徹)
CASE 10 ●症状(発熱,食欲不振,体重減少)●画像パターン(粒状影,浸潤影)
血行播種の合併が考えられた慢性細葉性散布肺結核症(岡ⅡB型)の症例(田地広明)
CASE 11 ●症状(息切れ)●画像パターン(小葉中心性粒状影, すりガラス影)
ステロイド薬の効果が乏しく治療に難渋した夏型過敏性肺炎の症例(田口真人)
CASE 12 ●症状(頸部リンパ節腫大,咳)●画像パターン(結節影,縦隔リンパ節腫大,気管内ポリープ)
画像,病理,培養検査でも診断困難であった播種性非結核性抗酸菌症の症例(長谷衣佐乃,森本耕三)
CASE 13 ●症状(発熱,咳嗽)●画像パターン(浸潤影)
右上葉に肺カンサシ症、 肺扁平上皮癌を合併した慢性進行性肺アスペルギルス症例(中嶋真之)
CASE 14 ●症状(胸部異常陰影)●画像パターン(粒状影,浸潤影)
肺結核治療中における教訓的な2例:薬剤相互作用の盲点(大利亮太,貝原正樹,関根朗雅)
CASE 15 ●症状(喀血)●画像パターン(空洞影,気管支動脈拡張)
気管支動脈塞栓術を反復し救命し得た大量喀血を繰り返す慢性進行性肺アスペルギルス症(大島央之)
CASE 16 ●症状(呼吸苦)●画像パターン(すりガラス陰影)
造血幹細胞移植後15年以上の経過を経て発症した上葉優位型間質性肺炎の症例(石川宏明)
CASE 17 ●症状(呼吸困難感)●画像パターン(珪肺,心不全)
珪肺の経過観察中, 肺高血圧増悪を契機に診断された強皮症関連肺高血圧症の症例(重政理恵)
CASE 18 ●症状(発熱)●画像パターン(間質性陰影)
肺癌に対してペンブロリズマブ投与後に発症したニューモシスチス肺炎の症例(児玉孝秀)
CASE 19 ●症状(喘鳴,呼吸困難)●画像パターン(肺動脈走行異常)
難治性喘息として長期間加療されていた左肺動脈右肺動脈起始症の症例(山田英恵)
CASE 20 ●症状(ふらつき,労作時呼吸困難)●画像パターン(すりガラス陰影)
顕微鏡的多発血管炎の再燃で肺胞出血を来し,リツキシマブ投与にもかかわらず小腸出血を合併し貧血が進行した症例(荒井直樹)
CASE 21 ●症状(胸部違和感)●画像パターン(腫瘤,骨破壊)
当初骨腫瘍を疑い, 胸壁腫瘍切除によって診断に至った胸囲結核の症例(後藤 瞳,薄井真悟)
CASE 22 ●症状(発熱)●画像パターン(すりガラス影)
インフルエンザ抗原迅速検査が陰性であった,インフルエンザA型(H1N1)pdm2009によるインフルエンザウイルス肺炎・インフルエンザ脳症の症例(宮﨑邦彦)
CASE 23 ●症状(胸部異常陰影)●画像パターン(孤立性結節影)
小細胞肺癌と診断し, 化学放射線療法後に手術を施行したカルチノイド症例(野村明広)
CASE 24 ●症状(咳嗽,喀痰)●画像パターン(浸潤影,粒状影)
当初,初回治療クラリスロマイシン耐性と考えられたMycobacterium abscessus混合感染肺MAC症の症例(二島駿一)
CASE 25 ●症状(胸痛,喀痰)●画像パターン(多発結節影)
歯性上顎洞炎から発症した敗血症性肺塞栓症の症例(二島駿一)
CASE 26 ●症状(呼吸困難)●画像パターン(心囊水・胸水)
胸水・心囊水貯留を認め結核との鑑別を要した,原発性滲出性リンパ腫類似リンパ腫と考えられた症例(春日真理子,矢﨑 海)
CASE 27 ●症状(発熱)●画像パターン(腫瘤陰影)
発熱を主訴に受診した肺多形癌の症例(砂田幸一)
CASE 28 ●症状(健診異常)●画像パターン(微細粒状影)
経気管支肺生検と気管支肺胞洗浄液中フェリチン値測定から診断に至り,粉塵防護で改善を得た溶接工肺の症例(根本健司)
CASE 29 ●症状(湿性咳嗽)●画像パターン(陰影の遊走・消長)
陰影の出現,消失を繰り返したのち,感染性肺囊胞を呈した肺結核の症例(金澤 潤)
CASE 30 ●症状(水気胸治療)●画像パターン(膿胸)
手術適応外の有瘻性膿胸にEndobronchial Watanabe Spigotを複数回用いた保存的治療が有効であった症例(金本幸司,望月芙美,藤原啓司,石川博一)
CASE 31 ●症状(腹部膨満, 食欲不振) ●画像パターン (すりガラス陰影)
ステロイド反応性の多発肺すりガラス陰影が先行した悪性リンパ腫の症例(吉田和史)
CASE 32 ●症状(食欲低下,倦怠感)●画像パターン(結節性陰影)
食欲低下,倦怠感の原因が両側副腎転移によるアジソン病であった肺腺癌の症例(箭内英俊)
CASE 33 ●症状(喘鳴)●画像パターン(気腫化,気道壁肥厚)
ステロイドに反応しない喘鳴が続き、気道狭窄症状と呼吸不全の増悪で死亡した症例(舩山康則)
本書を上梓するに当たって
─経験を科学へ─
筆者は1969年大学卒業後,医局在籍は1年半(実質大学での研修は半年)で医局を辞し,関連(連携)病院ではない一般病院に入職した。
大学は呼吸器の一般病床は8床と少なかったが,勤務先病院は45床と症例が多く臨床経験にはベターと考えた。その他の理由は2つあった。
一つ目は,当時大学に残っているほかのグループの先生方は研究が中心であり,自分の専門診療以外は興味を示さなかったが,時代的にはほかの大学でも同じような状況にあった。二つ目は,当時の臨床現場は経験だけを頼りにする大雑把な議論であり,また文献検索が不自由な時代であり質問すると「自分で経験して勉強しなさい」という雰囲気であった。
しかし,私の入局少し前に米国でチーフレジデントを終了した先輩が帰国されており,臨床データに基づく白熱した議論をしているのを目の前にして,科学的視点をもった臨床医になりたいと考えた。呼吸器には個人として尊敬する,臨床に対する勘が鋭く,可能なかぎり論文を読み漁って臨床教育をする先生はいたが,医局内では異端視されていた。
新しい勤務先病院では多数の指導医がいたが,当時の指導的立場の臨床医は経験がすべてに近く,日本語の論文を書くとそれが一般臨床医の手本であった。研究会なども指導的立場の医師がお互いの経験で議論をし、一例の経験を英文論文(当時は雑誌が限られており、コピーして読むしかなかった)を含めて知識を体系化して科学にする努力はなされていなかった。
経験した例を中心に文献を読み類縁疾患を含めて,その疾患に対する知見を体系化する作業は,その後の臨床を進めるうえで血となり肉となり,一回り大きい臨床医,すなわち問題点を見逃さない科学的視点をもった臨床医となるためには必要である。しかし少人数で臨床を行っていると,いわゆる我流の医療となり,経験の積み重ねが経験として止まり,日常業務の忙しさもあり知識は体系化されていないことが多い。
本書は第一線で悩み苦しみ,成功の喜びを味わっている現場の医師が,迷いながら行った医療を文字にして,臨場感を示しながら,いかに知識として体系化したかの過程と,その経験して体系化した科学を,ほかの臨床医の間で共有したいと考えた。著者らの呼吸器病床は総数で400床にも上り,日本で呼吸器としては有数な病床数となるうえ,著者が9年間在籍した筑波大学で夜遅くまで,症例検討を行った苦労をともにした仲間が多く,私の最後の臨床呼吸器科医へのアドバイスとして本書をその集大成にしたいと考えている。
それぞれの施設は第一線の病院であり,紹介患者など,以前の検査データや臨床経過がわかった例をみる大学病院と違って,症例のバラエティや症例の日々の変化のダイナミズムは素晴らしく,その経験した症例である原石を見つけ出し磨き上げ,科学的知識として共有したいと考えた。執筆者の皆さんの臨床に対する情熱は並々ならぬものがあり,それを個人の経験に止めておくのは資源の有効活用の面から不十分であると考えた。
したがって,喝としてのスローガンは本人たちの反省であり喜びであり,メンターとしての私の激励でもある。大きな病院といっても大学と違って特定の疾患を蓄積して臨床データを発表するのは至難であり,一例一例を丁寧に纏めあげて本著者のように発表するのがよいと思う。
一般に臨床データ,症例解析,病態などの書物類は,比較的時間に余裕のある大学で臨床を行っている先生方が,個々の体験を積み上げた経験ではなく,総論的に発表されることが多い。一例一例を積み上げた臨場感溢れる報告は第一線の病院で働く臨床医が報告することが望ましい。
私は病院も大学も両方経験した経歴があり,両者のメリット,デメリットを十分理解しているつもりであり,本著はその一端,病院のメリットを代表する貴重な本と考える。第一線の現場で日々患者に向き合っている臨床医と情報を共有し,ほかのグループからも本著のような本が発表されるのを期待している。
本書『困った症例集2』は前書と比較して,詳細なレビューを通して、より読者の心に訴えるように工夫しており、必ずや読者の役に立つと考えている。
ぜひ、臨床医としての苦しみを共有していただきたい。
2018年9月吉日
吉澤靖之