体験する手外科 第1巻
外傷編

著者 鳥谷部荘八
ISBN 978-4-7719-0553-5
発行年 2021年
判型 B5
ページ数 244ページ
本体価格 12,500円(税抜き)
電子版 あり
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著者が実際体験した5,000以上の手外科症例から30例を厳選し,あたかもその症例を経験したような「体験」を積める。全動画には随所にテロップ付き。第2巻は来秋発刊予定!

目 次

第1巻:外傷編

はじめに ⅰ
本書の使い方 ⅲ
動画の閲覧方法 ⅳ

Case01 62歳 男性 左環指の屈曲障害 2
Case02 16歳 男性 左環指の痛みと変形 26
Case03 4歳 女児 右小指の痛みと腫脹 40
Case04 22歳 男性 右手の痛み 58
Case05 60歳 男性 左手指の痛み(左示指~小指切断) 74
Case06 24歳 男性 左手の痛み(左手関節切断) 90
Case07 32歳 男性 右前腕完全切断 104
Case08 16歳 女性 左母指の痛み 124
Case09 78歳 女性 左母指の伸展障害 142
Case10 15歳 男性 右母指屈曲不能 160
Case11 15歳 男性 左母指伸展障害 172
Case12 58歳 男性 右母指の痛み 184
Case13 33歳 男性 左前腕部痛 194
Case14 41歳 男性 左環指腫脹 204
Case15 25歳 女性 右中指の疼痛と伸展制限 216

疾患名一覧 230
事項索引 232
あとがき 236
著者紹介 237

第2巻:変性疾患・腫瘍・先天異常編 ※2022年秋発刊予定

はじめに

手は狭く小さな器官であるものの,外傷,炎症,変性疾患,絞扼性神経障害,麻痺手,腫瘍,先天異常など,その疾患は多岐にわたります。切断指や先天異常などは一般形成外科医が担うことも多いですが,骨折や関節,靭帯損傷に不慣れである形成外科医は少なくありません。また,皮弁やマイクロサージャリーは一般整形外科医には馴染みがうすく,治療の機会も多くないかもしれません。
手外科は,整形外科と形成外科の知識や技術は不可欠ですが,その両者が必要だからこそ技術の習得が難しいものとなっています。手外科を普段から診療している整形外科医や形成外科医においても,系統立った手外科のトレーニングを受け,専門医取得に向けた研鑽を積むことは一部の施設を除いては容易ではありません。整形外科医にとっても形成外科医にとっても手外科は必要不可欠な分野であるものの,その診療経験を十分に積むことは困難であり,手外科専門医を目指す環境に恵まれていない人が多いのが現状です。若いころの私もその一人でした。テキストや講習会だけでは十分ではありませんでした。
臨床医は症例から学び,それを活かして経験とし,診療レベルを上げていきます。しかし,十分な症例経験を積めない環境にある整形外科医,形成外科医,若手医師はたくさんいます。忙しい日常診療ですが,その中でも実際に体験すべき重要な症例は限られています。それらを体験・経験するには膨大な時間と労力が必要なのです。
医師の世界では「経験がモノをいう」ということがよく言われますが,それをなんとか解消したい。苦労して獲得してきた私の小さな経験を直接の部下だけでなく,環境に恵まれていない先生方にも伝えて共有してもらいたい。「あたかもその症例を経験したような」感覚(体験)を積めるようなツールを提供したい・・・。そのような思いから本書を企画しました。
私のような回り道をすることなく,手外科を習得して専門医取得の一助となれば,これほどすばらしいことはありません。皆さんにはこの「体験」をもとに,明日の手外科診療を担う仲間になってほしいと考えています。
これから15人の患者さんが皆さんのもとに来ます。第2巻ではさらに15人の患者さんが待っています。東北ハンドサージャリーセンター(東北大学関連病院や仙台医療センター)で私が実際体験した5,000以上の症例から30症例を厳選しました。さあ,実際に診療するつもりで,この症例たちを「体験」してください!

2021年12月1日
鳥谷部 荘八

評者:今井 啓道(東北大学医学系研究科形成外科学分野)
まるで鳥谷部先生から直に手外科の手ほどきを受けているような1冊
 初めに目を通した時,「やられた! そうきたか」と思い,読み進むと夢中になり止まらなくなっている自分に気付く。自分もこのような本を書きたかった。しかし,あの臨床の鬼である鳥谷部荘八先生の単著だからこそ実現できたのだと納得する。
 手外科に限らず多くの教科書は手技や診断が系統的に記述されており,順次読んでいくとなぜか眠くなったりする。それは知識の羅列だからだ。しかし,この本は違う。外来で患者を迎えるように症例が訪れ,診断から治療までの物語が経時的に進んでいく。読者はこの本の主人公(鳥谷部氏)になり,次から次に決断を迫られる。まるで小説やRPGのようだ。そして,鳥谷部氏の思考を疑似体験していく過程に,必要な知識がかゆいところに手が届く優しさでちりばめられている。肝心な手技には動画まで参照できる。
 また,鳥谷部氏は反省症例も呈示することを厭わない。人は成功より失敗から多くのことを学ぶ。自らの轍を踏ませないように,そして読者が効率的に知識を自分のものにできるようにと工夫された本書には,鳥谷部氏の教育に対する熱い思いがあふれている。
 さて,本書に記されている手外科の基本所作は,「手の外科診療班」から藤田晋也先生が立ち上げたわれわれ東北大学形成外科での手外科の伝統を鳥谷部氏が発展させ最新の知見と融合させたもので,まさに東北大学形成外科・手外科の集大成というべきものである。
 本書評を読まれた方には,なぜ専門外の私が評しているのかと訝しむ向きもあるかもしれないが,私は東北大学形成外科で手外科を学んだ一人として本書の完成を心より祝福し,同門を代表して鳥谷部氏に感謝申し上げたい。そして,研修医からベテランまでできるだけ多くの方々に本書を手に取っていただきたいと願っている。手に取られれば,きっと本書の魅力にすぐにお気付きになり,次巻の「変性疾患・腫瘍編」を待ちきれなくなると確信している。