術中輸液管理Key Points
編集 | 末廣浩一 |
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ISBN | 978-4-7719-0593-1 |
発行年 | 2024年 |
判型 | B5 |
ページ数 | 224ページ |
本体価格 | 6,200円(税抜き) |
電子版 | あり |
M2Plus<電子版>
麻酔を行ううえで避けて通れないのが循環管理であり、術中循環管理の中でも輸液管理は特に重要なファクターとなる。最新の知見、臨床現場ですぐに役立つ情報をまとめた。
Ⅰ章 基礎編 1
1. スターリングの原理 小竹 良文 2
2. グリコカリックス 木村 文 8
3. Liberal or Restrictive( context sensitive) 重里 尚 13
4. 膠質液 vs 晶質液 平田 直之 18
5. 循環モニタリング(輸液反応性) 重里 尚 23
6. 周術期血圧管理 重里 尚 29
7. Goal-directed therapy 松﨑 孝 35
Ⅱ章 合併症のある患者の輸液管理 43
1. 腎機能障害(腎不全) 竹山恵梨子・井口 直也 44
2. 肝機能障害 井上 聡己 50
3. 心機能障害 森永 將裕 55
4. 脳梗塞,脳浮腫 前川 謙悟 60
5. 呼吸機能障害 溝田 敏幸 66
6. 高齢 位田みつる 72
7. 妊娠患者の全身麻酔 小田 裕 77
Ⅲ章 臨床応用編 83
1. 心臓外科手術(人工心肺使用) 井出 雅洋 84
2. オフポンプ冠動脈バイパス術(OPCABG) 有澤 創志 90
3. 腹部大動脈瘤手術 秋山 浩一 95
4. 経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI) 山田 徳洪 100
5. 成人先天性心疾患の非心臓手術 嵐 大輔・中田 一夫 106
6. 消化器外科手術 田中 克明 112
7. イレウスの緊急手術 渡邉 亮太 118
8. 汎発性腹膜炎(敗血症) 辻川 翔吾 125
9. 肺切除手術 福田 征孝・川越いづみ 130
10. 食道切除術 堀 耕太郎 136
11. 肝切除術 土屋 正彦 141
12. 腎切除術 藤本 陽平 151
13. 腎移植 日野 秀樹 155
14. 脳外科手術 石田 和慶 160
15. 脊椎外科手術 山﨑 広之 167
16. 帝王切開術 松田 祐典 172
17. 妊娠高血圧症候群合併の帝王切開術 佐伯 淳人・狩谷 伸享 178
18. 小児手術 舟井 優介 184
19. 長時間手術(耳鼻咽喉科再建手術) 近藤 一郎 191
20. 外傷外科(大量出血) 斎藤 淳一 197
21. 熱傷 安田 絢子・下薗 崇宏 204
索引 209
麻酔を行ううえで避けて通れないのが循環管理であり,術中循環管理の中でも輸液管理は特に 重要なファクターとなる。研修医が最初に当たる壁であり,ベテラン麻酔科医になってもいまだ によく分からないのが「術中輸液」ではないだろうか。著者が研修医であったころ(20 年ほど前) には,1960 年代に Shires らによって提唱されたサードスペース理論に基づいて,特に腹部外科症 例などでは大量の晶質液投与が行われていた。その後,この理論については否定的な報告が多く 行われ,輸液を制限的に投与する restricted fluid therapy が主流となり,現在ではさらに発展し て,術中には晶質液を制限的に投与し,出血などに応じて膠質液を投与する管理方法(輸液最適 化:fluid optimization)が推奨されている。これは病態に応じて輸液投与による効果が変化する という「context‒sensitive」と呼ばれる理論に基づいている。
術中輸液管理において重要なファクターは,これまで重きを置かれてきた「量」ではなく,輸 液を投与する「タイミング」だという考えが主流となっている。近年では,より低侵襲な血行動 態モニターが開発され,従来では測定するのが困難であった stroke volume variation や pulse pressure variation といった動的指標を簡便に使用することが可能となった。これらの指標を利 用した目標指向型輸液管理(goal‒directed fluid therapy:GDFT)は,特にハイリスク手術症例 での有用性が報告されている。動的指標のさまざまな問題点からGDFTもさらなる改良が求めら れ,現在では自動的に GDFT を行うシステムの開発も行われている。
このように術中輸液管理にはさまざまな変遷があり,最近 20 年でも大きく様変わりしている。 少し前に常識的に行われていた管理が見直され,新しい管理方法が提唱されているため,臨床現 場ではさまざまな混乱がみられる。現在では否定的となっているサードスペース理論でさえ一部 の医師には支持されていることがあり,術中術後に積極的な輸液投与が行われているのを目にす ることもある。
術中輸液管理という分野は,ベテラン麻酔科医の中でも統一した見解が得られにくい分野では ないだろうか。本書は,術中輸液管理についてのさまざまな考えを整理する一助となると考える。 総論にあたるⅠ章では,改訂されたスターリングの原理,血管内皮グリコカリックスといった最 近の輸液に関するトピックスについて解説を行い,近年大きく変化した術中輸液管理方法につい て学ぶことができる。各論にあたるⅡ章,Ⅲ章では,患者リスクの応じた輸液管理について解説 を行い,また輸液管理において特に注意を要する症例をピックアップし,実際の臨床現場で遭遇 した症例について,具体的な管理方法を学ぶことができる。いずれの項目についても,各分野の 専門家の先生に解説をいただいており,術中輸液管理についての最新の知見,臨床現場ですぐに 役立つ情報を得ることができるはずである。周術期診療に携わる医療者の方々に本書を通読いた だき,目の前の患者さんの循環管理に役立てていただければ,本書の編集者として望外の喜びで ある。
2024 年 4 月吉日
末廣 浩一