麻酔科医の「学び方」
―未来のエキスパートを目指して―

著者 駒澤伸泰 編集
ISBN 978-4-7719-0596-2
発行年 2024年
判型 A5
ページ数 160ページ
本体価格 4,200円(税抜き)
電子版 あり
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医育機関の役割は「臨床・研究・教育」です。しかし、臨床と研究の多忙さゆえに、どうしても教育が切り離されがちとなります。
医学部や臨床研修指定病院などの医育機関は「教育」を避けて通れません。このように重要な教育ですが、現在麻酔科医に関連した医学教育書籍はありません。
そこで、麻酔科を臨床背景にもつ医学教育専門家による医学教育書籍を作成しました。本書は麻酔科医の「学び方」に関する最初の系統的書籍です。

1章 学ぶ側も教える側も意識改革

1 臨床現場でのアクティブラーニングこそ第一 2
2 指導医とのコミュニケーション 6
3 もっとも大切な「症例」の振り返り(デブリーフィング) 12
4 症例報告の学会発表と学術雑誌への投稿へ向けて注意すべきこと 20
5 二次救命処置講習会を受ける際のポイント 26
6 シミュレーションの学びを臨床へ還元するために意識すべきこと 30
7 超音波ガイド下神経ブロックの学び方 34
8 困難気道管理の学び方 40
9 超音波ガイド下中心静脈穿刺の学び方 46
10 ペインクリニック短期研修の学び方 52
11 緩和医療短期研修の学び方 58
12 集中治療短期研修の学び方 62
13 心臓血管外科麻酔の学び方 74
14 小児麻酔の学び方 86
15 産科麻酔の学び方 92
16 麻酔科外勤における学び方と心得 100
17 超高齢者麻酔の学び方 106
18 麻酔科専門医試験へ向けた学び方 112

2章 多職種協働、生涯学習を意識する

1 手術室看護師との連携を学ぶためには 118
2 外科医との連携を学ぶためには 120
3 研修医や後期専門研修医の指導法を学ぶ意義 122
4 持続可能な勤務のために休息・マインドフルネスの意義を理解する 126
5 手術室管理を学ぶ 128
6 術後痛管理チーム育成のポイント 132
7 看護師特定行為研修のポイント 136
8 救急救命士指導のポイント 140
9 鎮静医療安全教育のポイント 144

【column】
1 過去の専攻医だった指導医の「昔ばなし」はとても貴重です 5
2 「環境」と「ジェネレーションギャップ」 19
3 アウトカム基盤型教育とミラーの学修ピラミッドの正しい理解をしましょう
―責任ある医療行為はどこまで可能か― 39
4 麻酔科専門研修の4年間でいかにしてアクティブラーニングを保つか 45
5 学び方を磨きあげる自己調整学修力 57
6 後期専門研修の中で「学びの習慣化」を意識しましょう 69
7 深い「振り返り」によってわれわれは成長する!―経験型学修理論― 70
8 模擬経験を「振り返る」ことで臨床を補填する ―シミュレーション教育― 72
9 「効果的な学び」のために心理的安全性と休息は必要不可欠 85
10 厳格な指導医は得難い指導医です 91
11 麻酔科内でも「チーム医療」―リーダーシップだけでなく
フォロワーシップを意識しましょう― 97
12 クリティカルケアにおけるコミュニケーション 98
13 自職種連携→多職種連携→部署間連携という視点で
「周術期管理チーム」のイメージを拡げていきましょう 105
14 麻酔科医として教育活動の意識をもとう 111
15 麻酔科医として生涯学習の意識をもとう 125
16 麻酔科医として学術活動の意識をもとう 131
17 麻酔科医として海外留学の意識をもとう 143

「手術」「痛み」「ショック」がある限り、麻酔科学は永遠に不滅です ~でも、変化に対応できる教育体制が必要不可欠です~

 医育機関の役割は「臨床・研究・教育」であり、麻酔科も同様です。しかし、臨 床と研究の多忙さゆえに、どうしても教育が切り離されがちです。中学や高校は 「教育」成果が主目的であり、研究所は「研究」成果が主目的です。しかし、医学部 や臨床研修指定病院などの医育機関は「教育」を避けて通れません。
 教育とはいわゆる教授・准教授・講師を始めとする教員のみが行うものではあり ません。すべての麻酔科系医育機関において、「専攻医が在籍してくれている」こと は有難いことですし、ローテーションの短期研修医がいてくれることも嬉しいこと です。これはマンパワー的な観点だけではありません。指導スタッフ間で、育てて いこうという一体感が醸成されますし、専攻医が学ぼうとする姿勢をみることで、 生涯学習姿勢も生まれると思います。
 総括すると麻酔科における教育とは臨床・研究の基盤です。
 そのように重要な教育ですが、現在麻酔科医に関連した医学教育書籍はありませ ん。そこで、私は麻酔科を臨床背景にもつ医学教育専門家(日本医学教育学会の認 定資格)として、有志とともに、医学教育書籍を作成してみました。
 専攻医はいずれ専門医となり、指導者となります。そのため、第1章を専門医に なるまで、第2章を専門医になってから、というように分類しました。また、とこ ろどころに、学び方改革のための医学教育理論について記載させていただきました。
 本書を編集する中で、私を育てていただいた数多くの指導医の顔が浮かびました。 箸にも棒にもかからない痛ましいレジデントであった私をこれまでご指導いただい た兵庫医科大学麻酔科学講座の太城力良先生・上農喜朗先生・西 信一先生・安宅 一晃先生(当時)、教育専攻の機会をいただきました大阪医科薬科大学医学部麻酔科 学教室の南 敏明先生を始めとする学兄学姉に思いをはせつつも、すでに故人とな られた方に哀悼の意を感じます。そして、自らが学兄学姉からいただいたスピリッ トを次世代に継承する時期であることを痛感しています。
 先の見えないデータ駆動型・AI 社会を迎えるわれわれですが、激動の中でも「人 間とは何か」「医学とは何か」を模索しつつ、最適解を実践しなくてはなりません。 麻酔科医の位置づけも変化していくと思いますが、「手術、痛み、ショックがある限 り、麻酔科学は永遠に不滅」と信じています。そして、その麻酔科学のアートとサ イエンスを適正な時代変化に対応しつつ継承していくためにも医学教育は必要不可 欠です。そして、このAI 時代においてこそ、「学び方改革」が必要不可欠で、「いか にして学ぶか」を皆さんに考え続けてほしいと思います。
 心臓麻酔・小児麻酔・ペインクリニックを苦手としており、周術期管理と少々の 緩和医療が専門の私にとって、周術期管理チームなどの多職種連携教育やシミュ レーション教育は唯一麻酔科界に貢献できるものだと思います。この書籍は私の知 る限り、麻酔科医の「学び方」に関する最初の系統的書籍です。本書をたたき台と して、若い皆さんが「学び方」を革新することを期待します。
この書籍が、麻酔科専攻医の皆さんの学び方改革につながることを祈念します。

2024 年9月吉日
香川大学医学部地域医療共育推進オフィス特命教授 駒澤伸泰