臨床病理レビュー特集第158号
ゲノム医療をめぐる最近の動向 2017-2018
はじめに(登 勉)巻頭
I.ゲノム医療に関わる最近の話題と課題
1.個人情報保護法改正およびゲノム指針の見直しについて(横野 恵)
I.倫理指針見直しの背景
II.倫理指針見直しの経緯
III.個情法等と倫理指針の関係
IV.個情法改正
A.個人識別符号
B.要配慮個人情報
V.匿名化をめぐる議論
A.提供元基準の明確化と連結可能匿名化
B.個人識別符号と連結不可能匿名化
C.匿名化に関する新たな考え方
VI.指針見直しを振り返って
2.ゲノム医療における遺伝子関連検査の精度保証と法改正(宮地勇人)
I.遺伝子関連検査の精度保証上の課題
A.検体検査の品質・精度管理に関する法整備
B.遺伝学的検査の保険収載と精度保証
II.ゲノム医療を支える遺伝子関連検査の精度保証と法改正
A.遺伝子関連検査に関する日本版ベストプラクティス・ガイドライン
B.ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォースの議論
C.遺伝子関連検査の精度確保のための法律整備
3.遺伝学的検査の実際(難波栄二・他)
I.鳥取大学における遺伝学的検査
A.2000 年~ 2013 年の遺伝学的検査のまとめ
B.出生前診断への対応
C.次世代シークエンサーを用いた遺伝学的検査の体制
D.二次的所見/ 偶発的所見への対応
E.遺伝学的検査の体制について
F.脆弱X 症候群ならびに関連疾患の遺伝学的検査の体制
II.今後の遺伝学的検査の質保証と費用に関して
II.日本でのゲノム医療・ゲノム検査の実現と推進のために
1.ゲノム医療の国際連携と我が国の取り組み(加藤規弘)
I.ゲノム医療の研究開発と実装、国際的動向
II.米国・英国でのゲノム医療実現化への取り組み例
III.我が国でのゲノム医療実現化への動き
IV.本事業の広がり・視野
V.本事業の対象・目標
A.対象疾患
B.事業の方向性
VI.ゲノム医療実用化に向けて整備すべきデータベース
2.国民皆保険制度下で、ゲノム情報に基づく個別化医療を日常診療に展開することは可能か?(藤原康弘)
I.ゲノム医療を国民皆保険下で実施するうえで解決すべき問題点
II.被験者保護( 遺伝情報による差別の禁止)
III.検査法の品質保証・管理
IV.診療報酬点数表と高額薬価
V.特許問題
VI.ゲノム医療を支える人材
VII.おわりに-がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会での議論-
3.次世代シークエンサー等を用いたコンパニオン診断システムの開発における課題と今後の方向性について(柳原玲子)
I.DNA シークエンサーを用いた遺伝子検査システムの規制上の取扱い
II.NGS コンパニオン診断システムの評価について
A.分析性能の評価
B.臨床性能の評価
C.既承認のコンパニオン診断薬等との同等性評価
III.NGS を用いた遺伝子検査システム
III.トピックス
SCRUM-Japan の進捗と今後の展望(土原一哉)
I.SCRUM-Japan の背景
II.SCRUM-Japan の研究組織
III.SCRUM-Japan の進捗
IV.SCRUM-Japan の課題と展望
IV.企業による取組み
1.福島医薬品関連産業支援拠点化事業における網羅的解析技術の開発と生体試料の産業応用に向けた取り組み (西川 暁)
I.独自開発のDNA マイクロアレイシステム
II.網羅的遺伝子発現解析技術の活用
A.化合物評価・毒性評価
B.個別がん医療の実現と抗がん剤開発の加速
III.福島医薬品関連産業支援拠点化事業の取り組み~福島コレクション~
A.福島コレクション~モノ~
B.福島コレクション~情報~
C.福島コレクション~サービス~
IV.合成DNA マイクロアレイ技術の応用~タンパク質マイクロアレイ~
A.抗原タンパク質マイクロアレイ
B.逆相タンパク質マイクロアレイ
2.東洋紡における遺伝子検査試薬の品質向上への取り組み(荒川 琢)
I.DNA ポリメラーゼの分類
A.ファミリーA
B.ファミリーB
II.KOD DNA ポリメラーゼの特長と臨床検査における性能
A.反応時間の短縮
B.塩基配列の偏りに対する抵抗性
C.夾雑物質への抵抗性
D.マルチプレックスPCR における均一性
III.次世代シークエンサーへの応用
A.アンプリコンの調製
B.ライブラリー濃度の測定
おわりに(前川真人)
参考資料
1.ゲノム医療等の実現・発展のための具体的方策について
2-1.人を対象とする医学系研究に関する倫理指針
2-2.ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針
遺伝子診断・検査技術推進フォーラムの前身は、2006 年12 月9 日に発足したJapan Molecular Center of Excellence (JMCoE) プログラムである。JMCoE 構想の基礎となるアイデアは、前年2005 年にロシュ・ダイアグノスティックス株式会社(RDKK)の田澤義明氏との会話であったと記憶している。標準化された遺伝子検査法が少ないこと、殆どの検査が自家調製試薬を用いたhome-brew assay であること、そして、診療報酬点数が臨床的意義と開発コストに見合った評価でないことなど、今日的な課題の多くが共通の問題意識であることを確認する機会となった。その後、2006 年2 月14 日、RDKK は「遺伝子検査活用のオーダーメイド医療を早期実現するJapan Molecular Center of Excellence (JMCoE) 構想の推進」と題するプレスリリースを発表し、JMCoE 構想における活動と取組について、① 遺伝子マーカー検査の標準的な検査方法(アプリケーション)の開発、② 遺伝子マーカー検査の運用方法の標準化、そして③ 医療施設や受託検査センターとのネットワークの構築の3 点とした。
JMCoE プログラムはRDKK が主幹してスタートしたが、運営は19 施設20 名の委員からなる推進委員会(委員長:登 勉)が担当し、第3回委員会でRDKK 以外の企業がJMCoE プログラムによるアプリケーション開発に参加する際の要件を決定した。また、JMCoE ネットワークの構築と遺伝子検査の普及を目指して、2007 年8 月に第1回JMCoE ネットワーク学術フォーラムを開催し、2008 年8 月と2009 年8月にそれぞれ第2回と第3 回の学術フォーラムを開催した。特に、第3 回学術フォーラムは、第16 回日本遺伝子診療学会大会(札幌市)ブランチョンセミナーという新しい企画での開催であった。
さて、RDKK 主幹でスタートしたJMCoE プログラムは、発足当初から公的な組織・団体によるコンソーシアム化を目指していたが、2010 年2 月13 日開催の第7 回推進委員会でJMCoE プログラムの日本遺伝子診療学会への移管に関する経過報告がなされ、同年3 月開催の日本遺伝子診療学会理事会での審議を経て、2010 年4 月1 日付で正式に移管された。遺伝子診断・検査技術推進フォーラムの誕生である。以後は、フォーラム企画推進委員会(堤 正好委員長)が企画を担当し、第17 回大会(2010 年8 月、津市)と第18 回大会(2011 年6 月、京都市)でシンポジウムを開催した。
2011 年7 月と8 月には、FDA が2組の分子標的薬とコンパニオン診断薬を同時承認したことにより、コンパニオン診断薬の重要性が認識され、診断技術が注目されるようになった。フォーラム企画推進委員会は、2011 年12 月9 日に都市センターホテルで日本がん分子標的治療学会(JAMTTC)と合同シンポジウム2011(抗がん剤創薬のためのバイオマーカー開発と診断技術の現状と未来)を共同開催した。2012 年以降のフォーラムの主要な活動として、毎年12 月初旬に公開シンポジウムを開催することを決定し、今日に至っている。
本フォーラムの目指す方向性は、日本遺伝子診療学会移管時に提案した、① 遺伝子検査の実施・運用に関する標準化の推進、② PGx 検査の開発と実施における標準化の支援、③ 遺伝子検査の精度管理に関する事業、④ 遺伝子検査の評価の実施の4 点に集約される。時代と社会の要請に応じて、これらの目的も変化するべきであるが、治療方針の決定に重要な役割を果たす遺伝子診断・検査技術の向上は不変の目標であることを確認しておきたい。
最後に、公開シンポジウムの講演内容を中心に「臨床病理レビュー特集号」として企画していただいている株式会社宇宙堂八木書店/ 臨床病理刊行会 編集部長 田中健治氏に深謝する。
2017(平成29)年9 月30 日
三重大学名誉教授
登 勉