第4話 求道会館

東大正門前で本郷通りを東大の反対側に入ると,道が四つに分れる。その一番手前の道を右に行くと左側に求道会館がある。洋風建築の仏教教会である。
私は子供の頃旧森川町に住んでいたので,よくその前を通った。父と一緒のとき,「近角(チカズミ)さんという偉い方の教会だよ。」と言って父は帽子を取って会釈した。その頃男は皆帽子をかぶっていた。
『ぶんきょうの史跡めぐり』には,近角常観(1870~1941年)は浄土真宗大谷派の僧侶で,若い日の欧州留学の体験をふまえ,青年学生と起居を共にし自らの信仰体験を語り継ぐ場として「求道学舎」を明治35年に開き,また広く公衆に向けて信仰を説く場として「求道会館」を大正4年に建設とある。すなわち,いわゆる葬式仏教にあきたらず,広く社会に対して仏教のあるべき姿を訴えたのである。設計はヨーロッパ近代建築の新潮流を学び試みてきた武田五一氏(京都大学建築学科創設者)である。
「診断と治療社」の前社長藤実人華氏は,近角氏の側に住まわれたく,西片町に居を定められたと聞いている。尊いことである。当時,子供心にもそのあたりには凛とした気がみなぎっていたように思われた。
先日,前を通ったが,都指定有形文化財として保存改築中であった。
なお,その数軒先に,木造三階建の下宿,本郷館がある。

文献
  1. 戸畑忠政:ぶんきょうの史跡めぐり.東京都文京区教育委員会.文京ふるさと歴史館,1984,p49