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第1話 本郷台

“本郷台の医書屋はね!”と神田辺の取次と出版社からいわれて久しい。別にほめ言葉ではない。

本郷台の医書屋は掛が高い。9掛の記憶がある。親父たちもうるさい。そして、どこから来ても坂を登らなければならない。切通坂、相生坂、お茶の水坂…。文京区に坂は113ある。

戦前,東京堂,北隆館等の取次店の小僧さん達は,この坂を荷車を引いて仕入に来たものである。大八車に箱を乗せた形で,上のかまぼこ型のふたが開いた。それに医書を積んで坂をおりていった。かつて東販の松坂さんと話をしていたとき,その車に乗せろとだだをこねた子供がいたそうである。私だったような気がしてならない。

今は掛もやすくなった。社長たちも紳士である。ただ坂だけはまだあるが,トラックで配送している。それでも“本郷台の医書屋は!”である。

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