50jyutusiki
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■ 受動的肺血流を規定する因子は肺動静脈圧較差と肺血管抵抗である。肺動静脈圧較差を大きくすると肺血流は増加するが,これには肺動脈圧(=中心静脈圧)を上昇させる方法と肺静脈圧を低下させる方法がある。肺動脈圧は輸液負荷や頭低位で上昇する。肺静脈圧は強心薬の使用により低下する。■ 輸液負荷と強心薬の投与はFontan循環にどのような影響を与えるであろうか。■ 輸液負荷の場合:輸液負荷→中心静脈圧(central venous pressure:CVP)上昇→肺動静脈圧較差増大→肺血流増加→心房圧上昇→心拍出量増加→静脈還流増加→体血流と肺血流が釣り合うレベルまでCVP上昇という変化をたどり,最終的にCVPは心房圧上昇分にさらに肺血流増加分の圧較差が上乗せされた値となる。■ 強心薬投与の場合:強心薬投与→心房圧低下+心拍出量増加→静脈還流量増加→体血流と肺血流が釣り合うレベルまでCVPが変化する。この場合心房圧低下によって肺動静脈圧較差は増大するので,最終的にCVPが増加減少のどちらに転ずるかは肺血管抵抗次第で決定されることになる〔肺血管抵抗(pulmonary vascular resistance:PVR)が十分に低い場合には心拍出量の増加に対し僅かな肺動静脈圧較差の増加で肺血流は増加する。この圧較差が心房圧の低下分で十分に賄われる場合にはCVPは低下することになる。これに対し,PVRが高い場合には心拍出量の増加に対し,相応の肺動静脈圧較差の増加が必要となる。この場合心房圧の低下だけでは必要な圧較差が賄われず,結果としてCVPは上昇する〕。■ これらを比較した場合,心拍出量の増加が等しいと仮定するとCVPは強心薬投与の方でより低くな■ Fontan循環の患者において容量負荷はCVPの上昇に直結し,CVPの上昇は肝機能障害,腎機能障害や蛋白漏出性胃腸症のリスクとなる。さらにCVP>20 mmHgまたは心房圧>13 mmHgで死亡率が有意に上昇することが知られている1)。■ Fontan循環の患者では異所性自動能や心房内リエントリーなどの上室性不整脈を発症しやすい。これらの不整脈によりatrial kickが消失すると,心拍出量を維持するために心室により多くの前負荷が必要となり,結果として心房圧やCVPの上昇につながる。周術期を通した洞調律の維持はFontan手術の死亡率を有意に低下させることや,長期生存率を上昇させることが知られている1)。■ 低心拍出状態が疑われる場合,容量負荷ではCVPが上昇し,CVPの上昇を嫌って強心薬を投与すると不整脈のリスクが上昇する。実際の臨床では症例ごとに状況を判断し,双方のリスクを理解して最適な管理を行うバランス感覚が要求される。■ 並列循環から直列循環へ移行するGlenn手術までは患者の条件によらず行われなければならない手■ 心エコー所見は心房,心室のサイズ,収縮能のほかに房室弁逆流の有無,流出路狭窄の有無を確認し■ 低心機能例や房室弁逆流が存在する場合,心房圧の上昇により循環管理に難渋する可能性がある。同207いうことは,同時に受動的肺血流を増加させることを意味するが,これらを両立させることは時として困難となる。る事がわかる。術である。これに対しFontan手術は施行可能かどうか条件が厳しく規定される。ておく。時に弁形成や弁置換を行うのかについても確認しておく。 ● 術前評価■ 原疾患とFontan手術までに行われてきた手術内容の詳細を把握する。左心低形成症候群(hypoplas-tic left heart syndrome:HLHS),内臓心房錯位(heterotaxy)では予後が悪いことが知られている。

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