● 臨床症状と病態生理■ 慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)は,単純な血栓塞栓症とは異なる病態であるとの意見もみられるが,一般には静脈血栓症を起源とする肺血栓塞栓症の結果引き起こされる病態と信じられている1)。■ 日本におけるCTEPH発生率は不明な点が多いが,欧米より少ないきわめてまれな疾患と考えられて■ CTEPH患者の診断は右心カテーテル検査で平均肺動脈圧が25 mmHg以上かつ肺動脈楔入圧が15 mmHg以下であり,さらに肺換気血流シンチグラムで換気分布に異常がない区域性血流分布欠損が認められるか,肺動脈造影または胸部造影CTで慢性化した血栓像が認められることで行われる。■ CTEPH患者の臨床症状は大きく分けて2つある。1つは血栓塞栓症による換気血流不均等に伴う低酸素血症であり,もう1つは肺高血圧に伴う右心不全症状(労作時息切れ,胸痛,失神など)である。■ 一般にCTEPHの予後は,肺高血圧の程度と相関することが知られている。平均肺動脈圧が30 ■ しかし外科治療として,超低体温循環停止下に施行される肺動脈血栓内膜摘除術(pulmonary thromboendarterectomy:PEA)が確立されて以来3),手術適応のある症例の長期予後は飛躍的に改善され,熟練施設での術後5年生存率は80%以上となっている4)。■ 周術期死亡のほとんどすべては急性期にみられるものであり,術後急性期を乗り切れば,健常人と同■ 全身麻酔の維持は,人工心肺症例であることおよび死腔換気が多い疾患であることから,吸入麻酔薬■ 肺動脈カテーテルが留置されるまでは右室圧をモニターすることができないため,血圧の指標として■ 無気肺や低酸素,CO2の貯留は肺血管抵抗を上昇させる危険があるため,筋弛緩薬投与後のマスク換■ PEAでは肺出血や肺水腫が起きやすく,血液や浸出液が対側の肺に流入するのを保護する目的でダ■ 呼吸器の設定は,先述の通り無気肺を避けるために高めのPEEPを維持する。また,CO2の貯留は肺血管抵抗上昇を引き起こす可能性があるが,1回換気量を確保するために気道内圧が上昇すると,こ094おり,平成28年度末で3,200名の患者が確定診断されているに過ぎない2)。mmHgを超える症例では,内科療法により5年生存率が50%から60%と考えられている2)。程度の生活水準が期待できるようになった4,5)。phenylephrineやnoradrenalineの持続投与により動脈圧を維持しながら麻酔の導入を行う。よりもpropofolを使用した全静脈麻酔で行う方が好ましい。術前の値を維持するように心がける。気は正確かつ確実に行わなければならない。ブルルーメンチューブを使用して気管挿管を行う。19 ● PEAの麻酔管理❶ 麻酔の導入と維持■ CTEPH患者の麻酔導入時には,血圧低下によって左室圧が右室圧を下回ると左室が虚脱してしまい循環が破綻する危険があるため細心の注意が必要である。反対に挿管刺激や過剰な昇圧により血圧が上昇しすぎた場合には,左房圧の上昇から肺高血圧の悪化を招き右心不全が増悪する可能性もある。■ 急激な循環動態の悪化に備え覚醒時に観血的動脈圧ラインを確保し,十分量の麻薬を使用しつつ,慢性肺塞栓症
元のページ ../index.html#3