■ 循環のモニターとしては,観血的動脈圧に加え,肺動脈カテーテルと経食道心エコーが必須となる。❷ 人工心肺確立までの管理■ CTEPH患者の肺血管は異なる性質の部位が併存している。先ずは血栓閉塞部位であり,人工心肺確立前には血流が無い領域である。これに対し開存している血管は長期間高いズリ応力に曝されることで血管のリモデリングが進行し,中膜が肥厚し内腔が狭小化する病変像を形成する。■ このような状況は根本的な治療が行われない限り改善しないので,人工心肺確立までは循環を破綻さ■ ほとんどの症例で術前は低心拍出状態であるが,これを改善させようとすると,高い肺血管抵抗のために肺高血圧が増悪するだけであり,結果として右心不全が悪化するので容量負荷や強心薬の使用は避けるべきである。❸ 人工心肺離脱後の管理■ PEAの術中管理は肺合併症の対応と右心不全の管理が二本柱となる。■ PEA周術期急性期死亡の最大の原因は,虚血再灌流障害(ischemia—reperfusion injury:IRI)に■ 肺IRIは,肺血栓内膜摘出後,閉塞部位から末梢側の肺動脈に急激に肺血流が再開することによる血■ 自己心拍が再開し肺血流が再開される人工心肺離脱中から術後急性期にかけて,急性肺障害が発生する4,6)。この肺水腫を予防もしくは軽減させる目的で,可能な限り肺血流を制限する(=心拍出量を低下させる)循環管理を行う。■ 動物実験において肺血流が多いほうが血管外漏出が増加するという事実が報告されている7)。■ 人ではPEAの周術期の循環管理として強心薬と血管拡張薬を積極的に使用した群と使用を制限した群との比較で,薬剤の使用を制限した群のほうが有意に心拍出量が低く,肺水腫の発生率も低かったという報告がある8)。■ 具体的には人工心肺離脱前からnoradrenaline主体で血圧を維持し,強心薬を少量の使用に留め最低限の心拍出量で循環管理を行う。どこまで心拍出量を制限していいのかについて一定の見解がある訳ではないが,SvO2が維持できていれば積極的に心拍出量を低下させる。noradrenalineの投与量は0.1~1μg/kg/min程度の高用量が必要となる場合が多い。■ 人工呼吸器の設定は肺水腫の予防目的に高めのPEEPを維持する。しかしながら高すぎる気道内圧は肺障害の原因となることや,肺血管抵抗の上昇から右心不全を増悪させるリスクが有るため,多すぎる1回換気量は控えるように心がける。■ 肺水腫が起きた場合,気管内吸引を行っても泡沫状の喀痰が排出され続けるため,高いPEEPを維持し不必要な吸引は避けなければならない。低酸素血症により循環動態が不安定となる場合ECMOを考慮する必要があるが,頻度はそこまで高くない。■ CTEPH患者のほとんどは術前から右心不全を合併している。血栓が摘除され肺血管抵抗が低下する■ 肺水腫や残存病変といった要因に加え,循環停止に伴う心筋障害もおそらく右心不全を悪化させてい■ 右心不全の対応としては,肺高血圧が残存している場合は先述の通り可能な限り心拍出量を制限する095れによっても肺血管抵抗が上昇するため,両者のバランスを考えた換気設定が必要となる(CTEPH患者は死腔が多いため換気量に比してCO2は貯留傾向となる)。せないこと,右心不全を増悪させないことに努める。よる再灌流性肺水腫である6)。管透過性亢進型肺水腫である。とはいえ,人工心肺離脱後も右心不全の管理に難渋する症例が多く認められる。ると考えられる。
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