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● はじめに■ 左心低形成症候群(hypoplastic left heart syndrome;HLHS)は非常に小さい左室および左心系の構造物が特徴であり,このため体循環を左室で賄うことができない疾患である。病型は僧帽弁と大動脈弁の状態によりMS—AS,MS—AA,MA—AA(S;stenosis,A;atresia)の3つの型に分かれる。比較的軽度のMS—ASでは二心室修復を目指せるものもあるが,ほとんどの症例ではFontan手術を目指すことになる。■ 手術のスケジュールは施設により異なるが,代表的なものとしては生後1週間程度にNorwood手術もしくは生後1週間程度に両側肺動脈絞扼術+生後1カ月程度でNorwood手術(rapid two stage)を行い,生後3~6カ月で両方向性Glenn手術,1~3歳でFontan手術を行う。またこれとは別に生後1週間程度で両側肺動脈絞扼術+動脈管へのステント留置を行い,生後3~6カ月でNorwood手術+両方向性Glenn手術を行うハイブリッド手術も行われている。■ HLHS患者は生後より動脈管を通して体循環が維持されるため,動脈管の開存を維持する必要がある。このため生後すぐよりプロスタグランジンE1の持続投与が行われる。生後日数が経過するにつれて肺血管抵抗が低下するが,適切な時点で介入を行わないと高肺血流状態となり,体循環の低下,心不全,肺うっ血を呈し,死に至る。HLHSの第一段階の治療としては,体循環の動脈管依存からの脱却と肺血流の制御が目的となる。■ 新生児期に行われるNorwood手術では肺循環の経路としてmodified BT shuntもしくはRV—PA shuntが使用される。ハイブリッド手術の後に行われるNorwood—Glenn手術の場合にはGlenn吻合を通して上大静脈から肺血流が供給されることになる。■ Norwood手術では大動脈弓部の操作と動脈管組織の切除および下行大動脈の吻合が行われるため通常と異なる人工心肺が必要となる。弓部大動脈の形成を行っている最中には脳分離体外循環が必要となる。このため腕頭動脈に人工血管を吻合し,この人工血管に送血管を接続し一側脳灌流を行う。弓部分枝の中枢側をクランプすることで,Willis動脈輪を介して対側の脳にも血流が維持される。■ 下行大動脈の吻合終了までの下半身の循環については,多くの施設で低体温循環停止下に行われるが,横隔膜直上レベルの下行大動脈に送血管を挿入し,下行大動脈送血を行うことで循環停止を回避する方法を取る施設もある。下行大動脈送血に関しては低体温および下半身の循環停止を回避することが可能であるが,視野展開の妨げになる問題と出血のリスクがあるため施行施設は減少傾向にある。16839 ● Norwood手術について■ HLHSでは大動脈弁は狭窄もしくは閉鎖しており,発達の段階で十分な血流が通過しないため大動脈は低形成となる。このため,動脈管に依存した体循環を大動脈からの順行性血流に修復するために,上行から弓部まで新たな大動脈を形成し,動脈管を切除したのち下行大動脈と吻合する。新大動脈は元の大動脈に主肺動脈を吻合することで上行から弓部の近位部までを拡大し,組織の足りない部分に自己心膜やホモグラフト(成人の肺動脈ホモグラフトの一部を使用する)を補填して形成される。主肺動脈を新大動脈の一部として使用してしまうため,肺循環については別の経路を再建する必要がある。Norwood手術

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