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筋弛緩薬は,開腹外科的手術の良好な術野の確保には必須である.腹腔鏡下手術でも良好な手術視野,ワーキングスペースの確保のため,できるかぎり腹腔内容積を増大させる麻酔管理が外科医から要求される.そのため手術環境には筋弛緩程度が影響すると推定される.本研究では筋弛緩モニターを用いて客観的に中等度と深い筋弛緩状態を維持した条件下で,外科医が主観的に手術状態を評価した.本研究において,ビデオ映像を麻酔科医と外科医が評価している点は新規性が高い.用いられたビデオ映像は中等度筋弛緩状態か深い筋弛緩状態かは不明であるが,いずれにしても麻酔科医と比較して外科医の評価が厳しい結果となっていることは興味深い.ブタを用いた研究1)であるが,筋弛緩薬投与群と非投与群において,それぞれで気腹圧を0,5,10,15 mmHgと変化させ,CTを用いて腹腔内容積を測定した.その結果,どちらの群でも気腹圧での容積の大きな変化は認められず,気腹により腹壁がストレッチされているものと結論づけている.しかし,Madsenら2)は婦人科腹腔鏡手術14症例を対象に,非筋弛緩状態群と深い筋弛緩状態群(PTC1-2)に分け8 mmHgと12 mmHgの2つの気腹圧下で,トロカール挿入部位から仙骨岬角までの距離を測定している.その距離は気腹圧の違いにかかわらず,深い筋弛緩状態のほうがわずかに長く,腹腔内容積に換算した場合その差は大きくなると報告している.また,彼らは術野について外科医による主観的評価も行っているが,すべての症例で深い筋弛緩状態が最適と判断していた.深い筋弛緩状態では腹壁を貫通している鉗子が,力を入れなくてもスムーズに操作できることが外科医の高い評価の理由の一つと考えられる.本研究では腹腔鏡下前立腺切除術あるいは腎摘出術の全身麻酔時の筋弛緩状態は,母指内転筋モニタリングにおいてPTC 1─2の深い筋弛緩状態での維持が外科医の満足度が高かった.他の研究においても同様の結果が得られており,腹腔鏡手術では浅い筋弛緩状態よりも深い筋弛緩状態のほうが良好な術野が得られると考えられる. 2) Madsen MV, et al. Optimising abdominal space with deep neuromuscular blockade in gynae-cologic laparoscopy─a randomised, blinded crossover study. Acta Anaesthesiol Scand 2015 ; 59 : 441─7.romuscular blockade and its reversal in a porcine model. Surg Endosc 2015 ; 29 : 2210─6.SRSの結果では,後腹膜腹腔鏡下手術において,深い筋弛緩状態では中等度筋弛緩状態と比較して,術中・術後の呼吸・循環動態に影響することなく術野の質を改善することが示された.コメント●参考文献 1) Volt J, et al. Optimizing working space in laparoscopy : CT-measurement of the effect of neu-■結語41

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