■ 末梢神経ブロック論文⑤青山 由紀/佐倉 伸一腰神経叢ブロックは,下肢手術の術後鎮痛法として使用されている.腸骨筋膜下ブロックは,前方からのアプローチで大腿神経,外側大腿皮神経,閉鎖神経をブロックできる腰神経叢ブロックのひとつとして提案されてきた.しかし,いくつかの研究結果から,鼠径靱帯より遠位で行う腸骨筋膜下ブロック(鼠径下腸骨筋膜下ブロック)では,上記3つの神経を確実にブロックできない可能性が明らかになっていた.そこでDesmetら1)は,鼠径靱帯よりも近位から針を刺入し,頭側方向に向かって薬液を注入する新しいアプローチ法(鼠径上腸骨筋膜下ブロック)を開発し,本法によって腰神経叢由来の神経がより多くブロックされる可能性があること,股関節全置換術後のモルヒネ消費量がブロックしなかった場合と比較して有意に少なかったことを示した.しかし,鼠径下腸骨筋膜下ブロックとの違いや閉鎖神経への影響を明らかにすることはできていなかった.そこで同研究グループはボランティアを対象とした本研究を行い,鼠径上腸骨筋膜下ブロックが鼠径下で行う方法より,確実に大腿神経,外側大腿皮神経,閉鎖神経をブロックできるかどうかを検討した.10名の健常ボランティアに対して,両下肢に腸骨筋膜下ブロックを施行した.それぞれ無作為に片側には鼠径上腸骨筋膜下ブロックを,反対側には鼠径下腸骨筋膜下ブロックを行った.鼠径下腸骨筋膜下ブロックでは,鼠径靱帯より遠位で体軸に対して垂直に探触子を当て,外側から内側方向に針を穿刺し腸骨筋膜と腸骨筋の間に薬液を投与した2).鼠径上腸骨筋膜下ブロックでは,探触子を上前腸骨棘のすぐ内側かつ遠位で体軸に平行に当てたあと,いわゆる“蝶ネクタイサイン”が得られるまで回転させ深腸骨回旋動脈を同定した.針を鼠径靱帯の近位1─2 cmから穿刺し頭側に向けて進め,深腸骨回旋動脈のレベルで腸骨筋膜の下で腸骨筋と腹横筋の間に広がるように薬液を投与した.局所麻酔薬として,両ブロックとも0.5%リドカインを40 ml,両側で計80 mlを投与した.ブロッ58 ■背景 ■方法Supra-inguinal injection for fascia iliaca compartment block results in more consistent spread towards the lumbar plexus than an infra-inguinal injection : Vermeylen K, et al. Reg Anesth Pain Med 2019 ; 44 : 483─91.A volunteer study.腸骨筋膜下ブロックでは,鼠径靱帯より近位で穿刺するアプローチのほうが,遠位で穿刺するより広範囲の腰神経叢ブロックを得ることができる
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