集中治療のエッセンス
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vevidence-basedmedicine(EBM)の重要性が説かれてから久しい。昨今、研修医の先生においても、エビデンスの後ろ盾なく検査や治療などの介入を進めようものなら、指導医から「それはエビデンスあるのか!?」と愛の鞭が飛び出してくることもまれではない。もちろん、私もエビデンスは重要だと考えているし、現代の医療を行うにあたっては、なくてはならない視点であると思う。一方で、2人として同じ患者さんはいない。例え同じ疾患であっても、年齢や性別、背景疾患、重症度などさまざまである。ややもすると、病気だけを見て、「この前の患者さんにはこの治療が効いたのに、今回は効かないなあ、エビデンスあるのに……」ということが起こりがちだ。そこで大事なのは「患者さんごとに病態生理を解釈し、そのうえでエビデンスを落とし込む」という作業である。ただ、その重要性を理解し指導してくれる人に巡り合えなければ、なかなか習得することは難しい。現在の本邦には、診断に関する書籍や、疾患毎の治療法・対処法を記したマニュアル本、最新のエビデンス等をわかりやすくまとめた雑誌など、非常に優れた書籍が溢れている。しかし「病態生理にフォーカスを当てた」書籍はあまりないのではないだろうか。学生時代に使用した分厚い生理学の専門書を再び開くには気が重く、また実臨床に即した知識ばかりではない。そんなニーズにマッチするのが本書であると考えている。いわゆるマニュアル本ではなく、「こういう場合にはこうしろ!」的な内容は載っていないため、それを期待されている方には本書はお勧めしない。しかし重症患者と向き合うために必要な知識が、生理学的視点でまとめられている。本書を通読することで、病態生理を考慮した思考回路を元に、目の前の患者さんにエビデンスのある治療の適/不適を検討できるようになると期待する。「病を見ずして人を見ろ」という有名な言葉があるが、エビデンスばかりに憑りつかれると、「病」ばかり注視してしまうことになりえる。

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