2第1章 リスクのある患者1990年に発表された研究において、84%の患者が心肺停止8時間以内に臨床症状の悪化や新規症状を訴え、このうち70%の患者で呼吸機能や意識状態の悪化がみられた3)。再現性のある警告サインはみられなかったが、心肺停止前の平均呼吸数は30回/分であった。著者らは、心停止に先行する呼吸器系や代謝系の異常(低酸素血症、低血圧、アシドーシス)は急速に致命的な状態にならないため、それらで心停止を予測・予防することが有益であると報告した。心肺蘇生後に生存退院した患者はわずか8%であった。その後の同様の研究では、心停止患者の66%で6時間以内に生理学的悪化がみられたが、多くは効果的な処置がとられていないと報告された4)。著者らは、入院患者の状態が悪化したときに、それを認識し効果的に介入するシステムに問題があるようだとコメントしている。McQuillanらの研究では、100件の連続したICU緊急入室を2人の外部評価者が調査をした5)。事前に十分に治療されていたのは20例のみであり、大多数(54例)はICU入室前に不適切なケアを受けており、残りの26例については意見が分かれていた。症例構成とAPACHスコアは同程度であり、不適切なケアを受けていた群では、69%の症例でICU入室が遅れ、41%の症例でICU入室は回避可能であった。不適切なケアの主な原因は、組織の問題、知識の欠如、臨床的緊急性の認識不足、指導者の不在、助けを求めてないことであると考えられた。不適切なケア(気道、酸素療法、呼吸、循環を適切に管理していない)は、外科病棟でも内科病棟でも同等にみられ、患者の1/3においてその後の死亡原因となった。著者は「気道、呼吸、循環が生命の前提条件であり、それらの機能不全が死の要因となることを理解できておらず、これは根本的な問題である」と綴っている。成人一般病棟からICU入室した患者や予期せず死亡した患者を対象とした別の研究において、事前に不適切なケアを受けていた患者では、ICU死亡率と院内死亡率の両方が有意に増加していたことが明らかになった(それぞれ52%vs35%、65%vs42%)6)。同様の知見は他の研究でも報告されている。事態は改善されてきたかもしれないが、これらの課題が消えたわけで
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