4術前の処方調整が不十分であった場合の対処 DOACの作用は可逆的であり、血中濃度がトラフ値以下に低下すればその効果は減弱する。したがって、最終内服時間を確認し適切な休薬期間がとれていなかった症例では、手術・観血的手技の出血リスクを再度確認し手技自体3術前の処方調整に関する方針患者であっても重篤な出血を生じることから、手術患者の出血リスクは格段に高くなると考えられる。 周術期の抗凝固療法管理の基本は、術中の出血を考慮した手術直前の服薬休止と術後出血の状況に応じた再開だが、多くの手術症例では術中出血への危惧を優先して周術期のDOAC投与は休止していると思われる。しかし、そもそもDOAC服用患者は周術期血栓症の高リスク群である。したがって不必要な休止や長期間の休止によって致命的な血栓症を発症することもあり、出血リスクだけでなく血栓症リスクも評価し、どちらを優先するか評価する必要がある。 抗凝固薬内服患者の出血および出血に起因する合併症のリスクを予測する際は、抗凝固薬の内服の有無以外にも、手術や手技の侵襲度に応じた出血リスク、出血の部位、出血に起因した合併症の重症度も考慮する必要がある。日本循環器学会は“不整脈薬物治療ガイドライン”の中で手術を含めた観血的手技を出血リスクに応じて分類し(表3)、観血的手技施行時のDOAC管理に関する推奨とエビデンスレベルを提示している(表4)。日本循環器学会の出血リスク分類は米国心臓協会(American Heart Asso-ciation:AHA)の考えとほぼ一致しており、周術期のDOAC継続・休止の判断にはAHAのフローチャートが参考になる(図2)5)。ワルファリンと異なり、DOACの休薬に伴う術前ヘパリン置換は推奨されていない6)。ダビガトランでは、ヘパリン置換を行っても血栓塞栓症には有意差がなかった一方で大出血が有意に増加したことが報告されている7)。したがってヘパリン置換は、血栓リスクが高い患者が適応になると考えられる(表5)5)。 DOACの休薬期間(最終内服から観血的手技までの時間)については各薬物の薬物動態と腎機能に応じた設定が推奨されているが(表6)、DOACは肝臓でも代謝される。ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンはそれぞれ20%、60%、75%、50%が肝臓で代謝されるため8)、特にリバーロキサバン、アピキサバンを服用中の肝機能低下患者(Child-Pugh分類B以上)では腎機能が維持されていても低腎機能患者に準じた休薬期間を考慮する9)。脊髄幹麻酔や深部神経節ブロックなどの高リスク手技の際は各薬物の消失半減期の5倍を休薬期間とするよう推奨されている。この休薬期間は、半減期の5倍であれば血中濃度は3%に減少し薬効は消失しているであろうという考えから算出したものであり、出血リスクの回避が最優先になっている。患者の血栓リスクは考慮していないため、診療の場では患者の血栓リスクに応じて休薬期間の短縮やヘパリン置換を考慮すべきである。出血リスクの低い末梢神経ブロックに関しては内服継続もしくは半減期の2倍程度の休薬期間で実施可能である10)。表2 DOACの副作用自然出血(頭蓋内出血,消化管出血,軟部組織出血など)術中止血困難,出血量の増加末梢神経ブロックや中心静脈カテーテル挿入などの観血的手技に伴う出血リスクの増加硬膜外麻酔,脊髄くも膜下麻酔施行時の硬膜外血腫リスクの増加感染性心内膜炎患者における塞栓症(疣贅崩壊による)198
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