の出血リスクが高いと判断した場合は原則として手術の延期について診療科と協議すべきである。緊急性が高く手術・観血的手技を延期できない場合は、大量出血や出血性合併症を想定した麻酔計画が必要となる。輸血の可能性が高いことを考え太い静脈路の確保に加え、新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma:FFP)を含めた輸血用血液製剤の準備を行う。また硬膜外麻酔などの脊髄幹麻酔は避け、代替法として体表の末梢神経ブロックを考慮する。 DOAC残存による出血への対応として、①特異的拮抗薬の投与、②FFPの投与、③プロトロンビン複合体製剤(prothrombin complex concentrate:PCC)の投与、などが挙げられる。日本ではダビガトランの特異的拮抗薬としてイダルシズマブ(プリズバインド®)が薬事承認されており、「出血が予想される緊急を要する手術または観血的処置を必要とする患者への投与」が認可されている。欧米では抗Xa薬(リバーロキサバンとアピキサバンのみ)の特異的拮抗薬としてアンデキサネットアルファが薬事承認されているが、適応は抗Xa薬によって生じた生命にかかわる出血または止血不能な出血のみであり、手術患者の緊急拮抗に適応はない。DOACは活性化したトロンビンやXaを失活させるため、FFP投与による速やかな止血は期待できない一方で、容量負荷が大きいため有効性は低い。PCCはビタミンK依存性凝固因Ⅵ 抗凝固薬・抗血小板薬表3 出血リスクに応じた観血的手技の分類〔日本循環器学会,日本不整脈心電学会合同ガイドライン.不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版).https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf(accessed Dec, 2020)より引用〕・歯科手術(抜歯,切開排膿,歯周外科手術,インプラントなど)・白内障手術・通常消化管内視鏡(上部・下部消化管内視鏡,カプセル内視鏡,内視鏡的逆行性膵胆管造影など)・体表面手術(膿瘍切開,皮膚科手術など)・乳腺針生検,マンモトーム生検・ 出血低危険度の消化管内視鏡(バルーン内視鏡,膵管・胆管ステント留置,内視鏡的乳頭バルーン拡張術出血低リスク手技(原則として抗凝固薬の休薬不要)出血中リスク手技(可能であればなど)・内視鏡的粘膜生検・経会陰前立腺生検・経尿道的手術〔膀胱生検,膀胱腫瘍切除術(TUR-BT),前立腺レーザー手術,尿管砕石術など〕・経皮的腎瘻造設術・緑内障,硝子体手術・関節鏡視下手術・乳腺切除生検・良性腫瘍切除・耳科手術・鼻科手術・咽頭喉頭手術・頭頸部手術・心臓デバイス植え込み手術・血管造影,血管内手術・心臓電気生理学的検査,アブレーション(心房細動アブレーションは除く)・ 出血高危険度の消化管内視鏡(ポリペクトミー,内視鏡下粘膜下層剝離術,内視鏡的十二指腸乳頭切除抗凝固薬の休薬を避ける)出血高リスク手技(原則として抗凝固薬の休薬が必要)術,内視鏡的食道・胃静脈瘤治療,超音波内視鏡下穿刺吸引術など)・気管支鏡下生検・硬膜外麻酔,脊髄くも膜下麻酔・開頭術・脊髄脊椎手術・頸動脈内膜剝離術・胸部外科手術(胸腔鏡を含む)・腹部・骨盤内臓手術(腹腔鏡を含む)・乳がん手術・整形外科手術・頭頸部がん再建手術・下肢動脈バイパス術・肝・腎生検・経直腸前立腺生検・経尿道的前立腺切除術(TUR-P)・体外衝撃波結石破砕術(ESWL)・経皮的腎砕石術199
元のページ ../index.html#4