麻酔からの美しい覚醒と抜管
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筋弛緩をモニタリングする意義は,手術に必要な筋弛緩状態が得られていることを把握し,覚醒時に筋弛緩薬の効果が残存していないことを確認するためである。近年ではスガマデクスが登場し,速やか,かつ確実に筋弛緩薬を拮抗できるようになった。しかし,スガマデクスを使用しても帰室後,筋弛緩薬の効果残存により再クラーレ化し,呼吸不全,低酸素血症を呈した事案が,わが国でも数十件報告されている。再クラーレ化の原因は筋弛緩の不十分な拮抗である。これまでの公益社団法人日本麻酔科学会の筋弛緩モニタリングに対する見解は,“筋弛緩をモニタリングするべきであるが,必須ではない”というものであった5)が,この再クラーレ化の事実を受けて2019年1月,同学会はスガマデクスの適正使用について声明を出した6)。そこでは,“スガマデクスの使用にあたっては添付文書の【用法・用量】に基づき,筋弛緩の拮抗前ならびに後の筋弛緩の状態についpotential:MEP)やnerve integrity monitorなど神経を刺激して運動機能をモニタリングする術式では,術中に筋弛緩薬を使用できない。近年,普及した超短時間作用性オピオイドであるレミフェンタニルをプロポフォールと組み合わせた全静脈麻酔(total intravenous anesthesia:TIVA)を行えば,筋弛緩薬を用いない管理は可能である。たとえば侵襲が大きい喉頭展開および気管挿管時の刺激と体動は,プロポフォール予測血中濃度4 μg/mlであればレミフェンタニル濃度5 ng/ml (0.2 μg/kg/min),プロポフォール予測血中濃度2 μg/mlであればレミフェンタニル濃度10 ng/ml (0.4 μg/kg/min)で,それぞれ90%以上抑えることができると報告されている3)。気管挿管の刺激を抑えられるのであれば,手術中の侵襲も抑えることができると考えられる。ただし,高用量のオピオイド投与は,筋固縮による換気不全が発症するリスクがあるため注意が必要である4)。てモニタリングを実施し,スガマデクス投与時の筋弛緩状態の深さと体重に応じた適正用量を投与する”と,筋弛緩モニタリングの重要性が明記されている。筋弛緩を回復させることなく,全身麻酔薬の投与を中止すると,患者は意識が清明なのに体を動かすことができない,いわゆる“金縛り”の状態に陥ってしまう。また,一般病棟に帰室したあと,筋弛緩が再クラーレ化して呼吸障害を来すことがあれば,生命に関わる状態となる。これらは麻酔管理上,けっしてあってはならない。そうならないためには,筋弛緩状態から確実に回復させる必要がある。近年,一般病棟に帰室させるための筋弛緩状態は“四連反応(train-of-four:TOF)比>0.9”とされている。確実な筋弛緩状態からの回復を確認できる臨床症状は,舌圧子の噛み締めなどだけで,これまで行われてきた頸部挙上や手を握れること,十分な1回換気量などは簡便であるが,確実性に欠けることが明らかにされており,筋弛緩モニタリングは必須である8)。これまで頻用されていたTOFウォッチ®(日本光電工業,東京)は,2018年で販売が終了している。加速度トランスデューサを用いるこのモニターは,十分なキャリブレーションを行わなければTOF比を正確に示さなかったり,筋力の回復Nemesら7)は,拮抗薬の投与により残存筋弛緩を減らすことができるが,筋弛緩モニタリングを行わない状態では,残存筋弛緩を完全になくすことはできないことを示し,覚醒・抜管時の筋弛緩モニタリングの必要性を説いている。もはや筋弛緩モニタリングは,導入時から覚醒まで必須といえる。29第3節 筋弛緩 C 筋弛緩モニタリング3 筋弛緩モニタリングの必要性4 覚醒時の筋弛緩レベル1 筋弛緩モニター

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