る。5歳,男児,身長110 cm,体重18 kg。全身麻酔下の右斜視手術を予定した。明らかな既往歴はないが,人見知りが激しい。麻酔前投薬として入室30分前にトリクロホスナトリウムシロップ150 mgを投与したが,入室時には効果が認められず,激しく泣いている間にフェイスマスクを押し当てて,酸素─亜酸化窒素─セボフルランで緩徐導入した。就眠後,上肢から静脈ラインを確保,筋弛緩薬を投与して気管挿管し,酸素─空気─セボフルランで麻酔を維持した。手術は問題なく30分で終了したが,覚醒時の興奮が予想される。さて,この症例の覚醒と抜管をどうする?覚醒・抜管のポイント❶ 覚醒時興奮(agitation)は,小児周術期医療の質を大きく低下させる因子で覚醒時興奮の発生頻度は高いもので80%と報告されており,頭頸部手術,吸入麻酔薬の使用,若年齢,術前における児と親の不安,患児および親と医療者間の関係性不良といった要素が危険因子として挙げられている1)。術前の麻酔計画の段階でこれらの危険因子を同定し,的確なアプローチを行うことで覚醒時興奮の頻度と程度を抑制しうることが,数多くの研究によって明らかにされてきた。薬理学的な抑制方法としてもっとも簡便な方法は,プロポフォールによる静脈麻酔薬での麻酔維持で100第Ⅲ章 覚醒・抜管が問題となる場面におけるストラテジー第Ⅲ章 覚醒・抜管が問題となる場面におけるストラテジーある。❷ 覚醒時興奮を抑制するためには,術前からのアプローチが必要となる。❸ 麻酔方法の選択などにより,覚醒時興奮を効果的に抑制することが可能であ A 麻酔計画と術中の麻酔管理1 覚醒時興奮を抑制するためのアプローチ覚醒時興奮は,小児麻酔とは切っても切り離せない事象であり,われわれ麻酔科医の総合的な技術と知識が試される。激しい覚醒時興奮は,手術創部への汚染や創離開,静脈路自己抜去,自傷などの原因となり,周術期医療の質を低下させるだけではなく,付き添う親の満足度も著しく低下させてしまうため,覚醒時興奮を抑制する工夫が麻酔科医には求められる。Case Scenario小児の覚醒時興奮(agitation)3
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